表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/84

006

「ね、ねぇ、ほんとにビオリスなの……?」

「なんなら、もう一回撫でてやろうか?」


 マリアに手を伸ばしつつ。


「い、いや……撫でるのはちょっと……」

「ちょっとビオリス……!」

「ん?」

「その子ばっかりズルい……じゃなくて、やめてあげなさい」


 なぜかムスッとしたクラリスに止められてしまった。

 撫でようとしていた手の行き場がなくなったので、水の入ったジョッキに落ち着かせる。


「あ、あの……」

「久しぶりだし、立ち話もなんだ、座って話そう」


 マリアを隣に座らせて、他の娘さんに水を持ってきてもらった。


「本物だとしても、どうして少年というか青年の姿に……?」


 水を飲みながら、マリアに質問される。


「話せば長くなるが――――――」


 マリアにも、あの日からの出来事を話しつつ、三人で食事を続けた。


 クラリスが目の敵にしているように見えるが……多分、胸のせいだろう。

 似たような身長なのに、栄養が届く場所に偏りがあるようだからな……。


「――――――ってことだ。分かってくれたか?」


 マリアへと一通りの事情を説明し、俺は串焼きを頬張った。


「貴方がビオリスだなんて……未だに信じれないなぁ……」


 はむはむと串焼きを食べるマリア。

 目の前ではガツガツと肉を頬張るクラリス。


 いつもより、目の色が赤く輝いている気がする……。


「まぁ、出会った時にはもうおっさんだったからな、若い頃の俺なんて分からないだろ?」

「うん、でも……、どことなく雰囲気は似てる、のかな……?」


 マリアが座ったまま、色んな角度からじーっと見つめてくる。

 右に左にと、揺れるマリア。


「じー……」

「そんなにずっと見つめられると、さすがに照れるぞ……」

「ち、ちがっ……そういうんじゃなくてっ!」


 慌てて赤くなるマリアの、この反応が素晴らしい……。


 あぁ、若い時にマリアに会えていたらと思っていたが、こうして夢が叶うとはなぁ。

 このままデートに誘ってみるのもアリかもしれない……。


「ごほんっ……、二人で楽しそうにしているところ悪いんだけど……」

「ん?」

「へ?」


 いつの間にか背後に立っていたクラリスに腕を掴まれ……。


「私とビオリスはダンジョンに行くから、さ・よ・う・な・ら!」

「お、おい、クラリス……」

「ふんっ! 早く行こっ!」


 腕の締め付けが半端じゃない……!

 よくわからんが、めちゃくちゃ怒ってるじゃないか……。


 クラリスに酒場の入り口の方へと、ズルズルと引っ張られていく。


「あ、あの! お代は⁉」

「マリア、これ受け取っといてくれ」


 クレスから受け取った報酬を投げ渡す。

 俺のミスということもあって減っているが、ここの代金くらいは払えるだろう。


「え、えぇ⁉」

「この間の分と合わせて、足りなかったらまた払いにくるから、んじゃなー」

「え、ちょっと待っ――――――」


 お別れの挨拶もできず、俺はクラリスにダンジョンの入り口まで連れていかれた。



 ―――――だが、さすがに、なんの準備もせずに突っ込むわけにもいかず……。

 道具屋に寄ったり、装備を整えたり、クラリスに暴言を吐いた奴を殴ったり……。


 寄り道をしつつ、ようやくダンジョンの入り口、冒険者たちの集まる広場にやってきた。


「道具はこれでよし。クラリスはもういいのか?」

「ええ、私は大丈夫だけど、何階層まで行くつもりなの?」

「本当は大剣を回収するために、八階層に行くつもりだったんだけどな……」


 行く用事もなくなってしまったし、どうしようか……。


「なら、ゴーレムの居る十階層まで試しに行ってみる?」

「それだと、道中で俺が足手まといになりかねない」

「うーん、別にダンジョンには慣れてるんだし大丈夫じゃない?」

「それはそうだが……」


 今の俺には経験があっても、鍛えていた体がなくなったからな……。

 冒険者としてダンジョンを攻略するよりも、先に鍛錬を積まないといけない。


「……あ、そうだ」

「ん?」

「なぁ、クラリス」

「どうしたの?」

「俺を鍛えてくれないか?」

「え……?」


 実力も実績も申し分ないクラリスだ。

 クラリスに鍛えてもらえば、一人でダンジョンで鍛えるよりも、短期間で強くなれるかもしれない。


「出来ればダンジョン内、第五階層の宿屋を拠点として、人の居ないところでやりたいんだが」

「や、宿屋で二人きり…………ひ、人の居ないところで……や、やりたいって……」


 俺も対人戦のやり方を思い出さないといけないしな……。


 それに、このままじゃハルギになんて勝てないだろうし……。

 つまりは、裏ギルドの連中と接敵しても、勝てる見込みがない……。


「すまない、クラリスに全面的に頼ってしまうことになるが、いいか?」

「えへっ……えへへ……♡」


 クラリスはニヤニヤしたまま返事をしてくれない。


「クラリス?」

「え、ええ! い、いいわよ!」

「よろしく頼む」

「わわわ、私こそ……その、初めてだから……よ、よろしく、お願いします……」


 対人戦もパーティも初めてということか……?


「まぁ、なにはともあれ、よろしくな」

「え、ええ……!」


 クラリスと握手を交わし、俺は十数年ぶりにダンジョンにこもって修行することとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カクヨムの方が先に進んでいます!

冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める

https://kakuyomu.jp/works/1177354054974837773
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ