004
「実はな――――――」
数日前、八階層に上がったパーティが大剣を拾ってギルドに届けた。
そして、その大剣の持ち主がビオリス・シュヴァルツだと判明。
Sランク認定されていた冒険者が一人、ダンジョン内で息絶えたと……。
「――――――ってことなんだ。人間で唯一のゴーレム討伐隊のメンバーで、なんかスゴイ奴だったらしいぜ。聞いたことないんだけどな」
「僕も、そんな奴が居たなんて今まで知らなかったんだけどさ」
クレスの奴、大剣のことなんて一言も言って来なかったぞ……。
しかも、名前すら知られてなかったって……、俺はどれだけ影の役者なんだよ……。
「まぁ、俺たち獣人にバーサーカー、エルフにアマゾネスがほとんどだし、他の種族なんて少数だしなぁ。むしろ、人間で上級冒険者だったなんてすげぇぜ!」
「ここによく通ってたらしいよ」
「一回くらい、そんな奴とパーティ組んでみたかったぜ……」
「うん、死ぬ前にどれくらいの実力なのか、鍛えて欲しかったよ」
トントン拍子に二人の会話が進んでいく……。
「そ、そうか……」
クレスの野郎……本気で俺を抹消しやがった……。
「……ところでさ」
「ん?」
「兄ちゃんは人間で合ってるかい?」
「あ、ああ……」
「そうかいそうかい……それは悲しいよな……」
片方の獣人に肩をポンポンと優しく触られた。
「死んだビオリスっていう人間の冒険者のためにも……お前さん、頑張れよっ!」
「僕たち、応援してるよ!」
「え、いや……うーん……」
死んだとされる本人が目の前に居るんだが……。
「どうしたんだ?」
「ああ、いや……なんでもない。ありがとな」
「構わないさ、何かあったら頼ってくれよな!」
「僕たち、冒険者には平等なんだ」
気さくな奴らだな……。
死人だと思ってる相手になに言ってんだか……。
「んじゃま、なにかあったら頼むよ」
「「ああ!」」
手を振りつつ、クラリスの元へと戻り……。
「おかえりなさい」
「ああ……」
なんか、疲れた……。
「どうしたの?」
尋ねたクラリスは、水の入ったジョッキを両手で持ち、コクコクと飲んでいた。
「クレスの奴、八階層で俺が死んだことにしたらしい」
「ッブフゥウウウウウウッ!」
「…………まぁ、こうなるよな」
ぽたぽたと、俺の頭から水がしたたり落ちていく。
「ご、ごめんなさい!」
慌ててクラリスが立ち上がる。
拭こうと近づくクラリスを「大丈夫だ」と言ってその場に座らせた。
「これでお互い様だから気にするな……」
口に含んだ「おっさんの水」と「美少女の水」だと、だいぶ差があるけどな。
自分で突っ込むのもあれだが、なんか「美少女の水」ってエロいな……。
「ビ、ビオリス、大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
「――――ビオリス……?」
うん? 今、誰かに呼ばれたような……。
「はーい! ご注文の品をお持ちしましたー!」
料理ができたらしく、テーブルの上には美味そうな肉料理が並んでいく。
牛の骨付き肉にはオリジナルソース、鳥と野菜の串焼きは塩コショウで、店主のおススメの料理は、四角くカットされた牛ステーキだった。
「はわぁぁ……! 美味しそう……!」
思っていた以上にクラリスの目が輝いている。
まぁ、クレスの奴がなにを考えてるのか分からんが……。
とりあえず、今はクラリスと飯だな。
「ここは俺の奢りだ。足りなかったら遠慮せずに追加してくれ」
「え、いいの……?」
「ああ、助けてくれたお礼もできてなかったしな。こんなので申し訳ないが……」
「ううん……、一人だとこんな所に来れないから嬉しい! んじゃ、遠慮なく……!」
「どうぞ」
先に食べるようにクラリスへと促す。
「あーん……っむぐむぐ…………」
パクパクもぐもぐと、クラリスが美味しそうに肉を頬張っていく。
「はっ……!」
「だ、大丈夫か?」
「……んまぁぁ♡」
「ふふっ……それは良かった」
クラリスが美味しそうに食べるのを眺めつつ、俺も串焼きを口に運ぶ。
焼きたて熱々、肉汁が弾けては、野菜が綺麗に優しく包んでいく。
「やっぱ美味いな……」
酒が飲めれば一番いいんだがなぁ……。
これにあの冷たい泡で流し込んだら、それだけで一日の疲れが吹っ飛ぶのに……。
「はぁ、若いって損だ……」
「……あ、あのっ!」
「ん?」
クラリスとご飯を食べている最中、話しかけてきたのは、元気のないマリアだった。
俯いたまま、俺の隣に立つマリア。
そのマリアの胸を、クラリスが敵意剥き出しで見つめている。




