003
「あの子、あれで働けてるの……?」
「一応はここの看板娘なんだがな……」
「あれで?」
「あ、ああ……」
「胸が大きければ、あんなんでも働けるのね……」
クラリスの中で、マリアに対する評価がどんどん下がっていくのが伝わってくる……。
「ま、まぁ、気にしてても仕方がないし飯にしよう。クラリスは何がいい?」
「えっ……と。それじゃ、肉料理で美味しいのがいいかな」
「よし、肉料理なら良いのがある。おーいマリア、こっち注文いいか?」
「ハッ……!」
「うん?」
元気のなかったマリアのケモ耳がピクッと立ち上がった。
「おーい、こっちだ」
少しだけ元気になったように見えるマリアと目が合う。
だが、すぐにまた耳が垂れ落ちた。
「はーい……」
とぼとぼと、元気なく歩いてくるマリア。
「とりあえず酒……は飲めないから、水と……クラリスはジュースか?」
「ちょっと、子ども扱いしないでよ……」
「んじゃ、酒でも飲むか?」
「お、お酒はちょっと……苦手で……」
クラリスは酒がダメなのか。
サキュバスやヴァンパイアは、ワインくらい嗜むイメージだったんだがな。
「んじゃ、すまないが水を二つと牛の骨付き肉、鳥と野菜の串焼きを六本。あと、今日の店主のオススメの料理で頼むわ」
「……」
メモとペンと持ったまま、こっちをじっと見つめるマリア。
「どうしたんだ?」
「……あ、いえ、すみません……。ご注文は以上ですか?」
「ああ」
マリアがじっと見つめてくる……。
「おい、大丈夫か?」
「え、あ、はいっ! わ、分かりましたっ……」
マリアが背中を見せて、注文を伝えに行く。
「…………」
「マリア、どうした?」
「い、いえ……!」
途中でこちらを振り返ったかと思えば、駆け足で去っていくマリア。
「あの子、どうしたのかしら」
「分からん……」
あんなに変な態度のマリアは初めて見る。
なにかあったんだろうか……。
「――――なぁ、聞いたか?」
「――――ああ、八階層に行った冒険者が死んだらしいな」
ふーん……、また誰か死んだのか……。
一つ隣のテーブルで始まった会話に耳を傾けてみるう。
こういう場所は、他の冒険者の話を聞くことができ、情報交換はしなくても、一方的に情報を得られる良い場所だ。
「――――八階層で、しかも一人だったらしい」
「――――八階層で単独って、よっぽどだね」
八階層でってことは、確かにそれなりの冒険者だな……。
「はい、先にお水です……」
「おう、ありがとな」
「……」
俺のことをチラ見して去っていくマリア。
「あの子、態度わるくないかしら……」
「ま、まぁ、色々あったんだろう。そう睨んでやるな」
「むぅ……私と同じくらいなのに、あの胸はなんなのよ……」
「ん、なにか言ったか?」
「な、なにもないわよっ!」
クラリスも機嫌がよろしくないみたいだし……。
マリアのやつも本当にどうしたんだろうか……。
「……」
水を飲みながら、再び隣のテーブルの冒険者に耳を傾ける。
「――――あの大剣使いのおっさんがまさかなぁ」
大剣使いの、おっさん……?
「――――ああ、まさか、ギルド認定されていた冒険者だったとはね。この間、ここの酒場で乱闘を鎮めたの、そのおっさんらしいよ」
八階層で死んだ大剣使い……。
ギルド認定されていた冒険者……。
酒場の乱闘を鎮めたおっさん……。
「――――ゴーレム討伐にも参加していたらしいぜ……あのビオリスっておっさん」
「――――ッッブフォォオオオオオオッ!」
衝撃の内容に、口に含んでいた水が勢いよく外へ……。
「ちょっと……ビオリス……」
「えっ…………」
目の前に座っていたクラリスが水浸しに……。
「す、すまん……!」
「別にいいわ……、水なら乾けばいいだけだし……」
俺はクラリスに謝りつつ、自分の口元を拭いた。
いや、待て待て……。
俺が死んだ? 八階層で?
「ビオリス?」
「…………」
隣の冒険者の話、詳しく聞く必要があるな……。
俺はクラリスに、
「ちょっと待っててくれ」
と声をかけ、話をしていた冒険者二人のテーブルへ。
「なぁ、あんたら、ちょっといいか?」
「「うん?」」
獣人の二人組がこちらに目を向ける。
どちらも若い男の獣人だった。
短剣にソードは持っているが、衣服はダンジョンに行く雰囲気ではない。
「その冒険者の話、俺にも教えてくれないか?」
「ああ、別に構わないぜ」
「うん、すでに広まってるみたいだし」
「あ、ありがとな……」
金でも要求されるかと思っていたが、案外いい奴らだった。




