003
「なんでクラリスが一緒に寝てるんだ……」
「ビオリスの疲れが取れるように、添い寝しようかなって♡」
可愛らしい笑顔なのはいいんだが……。
俺は頭を抱えようと手を……手を……――――――
「なぁ、クラリス……」
「ん、どうしたの?」
「服はどうした……」
「素肌の方が暖まるって、誰かが言ってたの」
むぎゅっと腕に絡んでくるスベスベの肌……。
手がちょうどクラリスの腹部の辺りに……。
「ひゃう……! もー……ビオリスのえっち……」
「あのなぁ……、女の子がこういうことするもんじゃないぞ」
「ふふっ、ビオリスは昔と変わってないのね」
純真無垢な少女の眼差し。
「はぁ……」
宿屋の一室で全裸の少女……それも、クラリスと二人きりになるとは思ってもみなかった……。
「ビオリスどうしたの?」
「ああいや、なんでもない……と言いたいところだが……」
「ん?」
クラリスはサキュバスとヴァンパイアの間に生まれた子だ。
もしかしたら、寝ている間に俺の息子が襲われている可能性が……。
「俺が寝ている間に、変なことしてないだろうな?」
「変なことって、どんなことかなぁー?」
サキュバスらしい妖艶な雰囲気に、幼い子どもの微笑みが合わさる。
クラリスが大人の女性だったら……、もう少し大きければ……、俺は我慢できていないだろう……。
自制心を働かせながら、クラリスの頬を軽くつねる。
「その表情は卑怯じゃないか……?」
「えへへっ、好きな人には意地悪したくなるものよ?」
「……」
「ビオリス?」
「えっと……その、なんだ……」
「あ、ビオリスが照れてるー」
ニコニコしながら笑うクラリス。
好かれることに関してはまったく問題ないんだが、正面からハッキリ言われるとなんて言っていいのか分からない……。
……って、クラリスとイチャイチャしている場合じゃない。
「クラリス、十分暖まったから、とりあえず放してくれないか?」
「えー…………う~ん……、もう少しだけこうしていたいけど、ビオリスがそう言うなら……」
絡んでいた柔肌が離れていく。
俺もクラリスの肌の感触は名残惜しい……。
「えへへ……、やっぱり誰かと一緒に居るって安心するのねっ」
ベッドの上で女の子座りしたクラリスの背中が見えた。
「ふぁぁ……、久しぶりに安心して眠れたぁ……」
クラリスがうんと伸びをする。
俺の視線は背中に生えた黒い翼から、腰のラインへと下がっていく。
小ぶりなお尻を一瞬だけ視界に入れてから、シーツをクラリスへと被せる。
「あ……ありがと……」
「気にするな、女の子が裸じゃ気が散るからな」
というか、気が散ってどうにかなってしまう……。
「どっこいせ……」
俺もクラリスの隣に、並ぶようにベッドの上に座った。
上半身はなぜか脱がされているが、ズボンまでは脱がされていないようで一安心だ。
「それより、あいつらはどこに?」
「ん? えっと、アイシャたちのこと?」
赤い瞳をしたクラリスと目が合う。
「ああ」
「隣の部屋でジャックとバレッタが、そのもう一つ隣の部屋にアイシャとシズクが休んでいるわ」
第六階層へと続く階段で出会ったクラリスに、アイシャたち……。
「クラリスがあいつらを助けてくれたのか?」
「ええ、まぁね、貴方の匂いがしたから、たまたま立ち寄っただけよ」
「なっ……匂いって……。俺はそんなに臭うのか……?」
「ち、ちがうっ! そういうことじゃないよっ!」
全力でフォローされると余計に気になる……。
早いとこシャワーを浴びなければ……。
「それにしても……」
「ん?」
「お前が助けてくれるなんて、あいつらも運がいいな」
「た、たまたまよ」
クラリスが「ふんっ」と、素っ気ない態度を見せる。
「ふっ……、本当のクラリスは優しいもんな」
「や、優しくなんかないわっ」
つんと口を尖らせて腕を組むクラリス。
「そう言いながら、昔も俺を助けてくれただろ」
「だってそれは……ビオリスが私を庇ってくれたからで……」
クラリスの声がか細くなり、頬を染めてチラチラとこちらを見つめる。
色白の柔肌に、潤んだ瞳……しおらしい態度……。
可愛いは正義と宣言した奴とは一度、話し合ってみたいものだ。
「とにかく、助けてくれてありがとうな」
クラリスの頭を優しく触り、丁寧に撫でてやる。
「え、えへへ……当然のことを、したまでだもの……」
気持ちよさそうに頬を緩めるクラリスを眺めつつ……。
「さてと、とりあえずあいつらと合流しないとな」
「……あ、あのね! ビオリス!」
「ん、なんだ?」
「元気になったならね? その……お願いがあるんだけど……」
胸元に飛び込んでくるクラリス。
落ちそうになるシーツをかけ直して……。
「お願いってなんだ?」
「あの、ね……、ビオリスのが、欲しいの……」




