001
ジャックを守りながら第五階層を目指すアイシャとシズクは、モンスターたちに足止めをくらっていた。
「ちょっとさ……、ゴブリンの量、多くないかなー……」
「う、うん……、これはちょっと……」
追い剥ぎゴブリンが三体、それに加えて手下のように五匹ずつ、こん棒を握り締めたゴブリンたちが集団となって立ちはだかっている。
――――――計十八体のゴブリン。
すでに数体のゴブリンは倒せているが、二人の額には汗が垂れている。
アイシャが前衛を、シズクが後衛を務めながらなんとか凌いでいるのだが――――――
「ゴブリンの動きってこんなに統率とれてたっけ……」
「シュヴァルツさんが気をつけろって言ってたけど、まさかここまでなんて……」
ゴブリンたちは扇状に、陣形を広げて道を遮っていく。それは第五階層の道のりを遮断するごとく、アイシャたちににじり寄る。
「もー……急がないといけないのに……!」
両手に剣を握り締め、ぐっと歯を食いしばるアイシャ。
「アイシャちゃん、下手に攻めたら……」
「うん、分かってる……だから余計にもどかしいんだよ……」
洞窟へと向かう道中に、アイシャとシズクは既に魔法を連続で使用していた。
磨り減った気力という名の魔力は、使えば使うほどにその力を低下させてしまう。
結果として、疲労により魔法が撃てなくなる。
――――――つまり、このままゴブリンたちに一斉に攻め込まれれば、ここで全滅は免れない状況である。
「下手に動けば一気に崩されちゃうかな……」
「うん……そうだと思う……」
「…………なんとかしないと――――――――」
アイシャに一体のゴブリンがこん棒を振り上げながら飛び込んでくる。
「ぐっ……こんのぉっ……!」
『グガァアアアア!』
両手の剣でこん棒をガード。すぐさま別のゴブリンが横から襲い来る。
「あぶなっ……イッ……!」
ステップを踏んで回避したアイシャだが、最初の一体の攻撃が太ももを掠めた。
「アイシャちゃん!」
「だ、大丈夫っ!」
こん棒を振り切ったあとのゴブリンの顔に斬りこみ。
後ろから追撃しようとするゴブリンが爪を立てる。腕に巻かれた鉄製のプレートが、辛うじてゴブリンの一撃を受け止めた。
「くぅ……」
「氷弾を撃ち込め、アイシクル!」
氷のつぶてが複数、アイシャを囲もうとしていたゴブリンたちに当たる。
他に襲いかかろうとしていたゴブリンたちも、シズクの氷魔法に後ずさりしていく。
「あ、ありがと……!」
「これくらいしか出来なくてごめんね……」
「ううん! 助かったよ!」
アイシャがゴブリンたちの攻撃を耐えつつ、シズクが援護射撃をする。なんとか囲まれることを阻止してはいるものの、いつまで持つか……。
そして、疲弊してきた今の二人に、ゴブリンを倒す力は少ししか残されていない――――――
「僕も……戦わないと……」
そう呟きながら、状況を静かに見つめていたのはジャックだった。
「バレッタ、ごめん、おろすよ……」
「えっ……?」
シズクの後ろに下がっていたジャックが、バレッタを優しく地面へと下ろす。
「え……、やだっ……こんなところでなんて……怖いよ……ジャックぅ……」
白いウサ耳をたらしたバレッタは、そのまま力なく地面へとへたり込んでしまった。
ジャックは怯えているバレッタの肩にそっと手を置き、目を見つめる。
「加勢しないとあの人たちが危ないんだ。バレッタも可能なら戦ってほしい」
「でも……」
二人が言葉を交わす間にも、攻防は続いている。
「くっ、このやろー!」
アイシャが右手の剣でゴブリンの一撃を防ぎ、左手で斬りつける。だが――――
「やっぱり浅いか……っ」
ゴブリンは痛がってはいるものの、致命傷には至らない。
ゴブリンとアイシャの両者が後ろへとさがる。
「はぁ……はぁ……、道中にあれだけ魔法を使って、帰りに走りまくったらさすがにしんどいよー……」
汗を拭いながら、アイシャが弱音を吐いた。
汗でピッタリとひっついたパンツに、くいっと指を通して張り直すアイシャ。
『ウガァアアア!』
「え、ちょっとま――――」
「――――敵を貫け、アイシクル!」
『グギャァ……!』
シズクがアイシャに近付こうとした一体のゴブリンにとどめを刺す。
「アイシャちゃん、大丈夫⁉」
「だいじょぶっ! ありがと!」
アイシャは剣を縦に回転させながら、先ほどダメージを与えたゴブリンに斬撃を繰りかえし与える。
『ウッ……ギャッ……ギャァッ!』
浅くとも、剣の舞いは確実にゴブリンにダメージを与え、なんとか地面へと沈めることができた。
「はぁ……はぁっ……もー、お風呂はいりたいなぁ……」
膝に手をつき、ひと呼吸するアイシャ。
「アイシャちゃん、無理しちゃダメだよ……?」
「うん……でも、シュヴァルツ君のためにも頑張らないと…」
だがしかし、モンスターたちは待ってはくれない。
「アイシャちゃん!」
シズクの呼びかけ。
「……うぁっ……!」
――――――――ガキンッ……!
横から襲いかかってきたゴブリン。それに対し、こん棒による一撃を双剣で受け止めるアイシャ。
確実に、疲労は既に限界へと近づいていた。




