004
「いいか、アイシャ、シズク。俺が煙玉を投げてあの二人を連れてくる。魔法の詠唱でアイシャはあの二人を足止めしろ。シズクは俺がこっちに戻り次第、入り口を氷の壁で塞ぐんだ。やれるか?」
シュヴァルツは真剣な表情を二人へと向ける。
「ハルギは元上級冒険者だよ……、いくら君でも近付くのは……」
「戦うわけじゃないさ、心配するな」
「うぅ……」
それに、今の俺があいつと対等にやれるかも分からない……。
ここは二人を連れて撤退するしか選択肢が残されていない……。
「すぐ戻ってくるさ」
「わ、分かったよ……でも、気を付けてね……」
「お前に言われなくても大丈夫だよっと……」
アイシャの頭を軽く撫でて、俺はバッグから煙玉を取り出した。
よし……。
ハルギの後ろめがけて煙玉を放り投げる。衝撃によって破裂した玉からは、煙が一気に噴出した。
「「――――っ!」」
二人の位置は特定済みだが、動かれては困る。
「――――全員! その場から動くな!」
俺は洞窟全体に響くように、声が反響するように大声で叫んだ。
「な、なんだ!」
「っ……」
二人を拾うため、近寄りながら、ナイフを遠くの方へ投げ飛ばす。
カラン……カラン…………。
「くっ……! ギルドの奴らか⁉ どこだ! どこに居る!」
ビルドはその場から動いていない。ハルギも、動いたような音は聞こえない。
「……ッ⁉」
驚きに目を丸めるジャックをひとまず脇に抱え、ナイフを四方に投げ飛ばす。
カラッ……カラカラカラン…………。
「か、囲まれてるのか⁉ くそっ、煙で見えねぇ!」
「……っ⁉」
……よし、バレッタも確保だ。
「お、俺はここで死ぬのか⁉ くそっ!」
「騒ぐな、落ち着けマヌケ……」
「仲間もお前に殺され、ギルドの連中が乗り込んできてるかもしれないこの状況で、誰が落ち着けって⁉」
「はぁ……これだから半端者を雇うなと言ったのに……」
奴らが言い争っている間にさっさと戻ろう……。
二人を抱えて静かに移動を開始。
アイシャとシズクは煙から離れるように、少し後ろの位置まで下がっていた。
「二人とも、頼むぞ」
「――――切り裂け、シルフィード!」
アイシャの横を通りすぎた後、かまいたちがハルギたちの居る場所へと飛んでいく。
「――――壁となれ、氷帝……」
煙の中から、巨大な氷壁が生み出される。
アイシャのかまいたちを弾いたであろう音が木霊する。
「うそっ……、あんなの一瞬で作るなんて……!」
「――――仲間を守る氷の壁よ、高くその身を築きあげよ、アイシクル!」
「アイシャ! 下がれ!」
「う、うん!」
シズクの構えた位置からアイシャを後退させる。
シズクが地面に手をついた瞬間、左右に広がる氷の結晶たち。
地面から突き生えるように、いくつもの氷の結晶が壁を覆いつくしていく。
結晶から結晶を生み、広場へと続く通路を塞ぐ氷壁が完成した。
「二人ともよくやった! このまま第五階層まで走るぞ!」
「うん!」
「はい!」
人質は救出完了。あいつらも足止めはできたはず。
二人を抱えたまま、急いでその場をあとにするが…………――――
「くそっ……さすがに……」
二人を抱えて走るのはしんどいな……。
「んーっ! んんっ……!」
「バレッタ落ち着け、もう大丈夫だ」
「んんっ⁉」
見合わせたバレッタの顔が驚きに目を見開いた。
あ、そうか……。俺が一緒に居たおっさんだって知らないんだもんな……。
そりゃ、知らない奴に名前を知られてたら驚くか……。
「ジャックも、無事か?」
ジャックは揺られながらも肯定の意思表示を俺へと向けた。
「さすが、キングの息子だな」
さっき放った魔法のタイミングも良かった。
それに、この状況もちゃんと理解しているようでありがたい。
「シュヴァルツさん、裏ギルドのハルギ・ディーセストは……その、捕まえなくても良かったんでしょうか……?」
走りながらのシズクの問いかけ。
「人質が居る上に、こちとら対人戦に不慣れな二人だ。俺一人ならまだしも、敵の拠点で長居する必要はないさ」
「でも、あいつたくさん殺してた……、捕まえないといけないんじゃないの?」
「アイシャ、言っておくがあいつは強いぞ」
アイシャへは、注意喚起として力強く伝えておく。
「うっ……それはそうかもしれないけど……」
「アイシャ、シズク、今からは無傷で逃げ切ることが次のお前らの任務だ。とにかく走れ!」
「わ、分かったよ!」
「はい!」
さてさて……、このままあいつらが追って来なければそれで――――――
ドゴォォォォォォォオオオオオ……!
「「「――――ッ⁉」」」
後ろから轟く豪快な音……。
多分、シズクの氷壁が砕かれたんだろう。
「まぁ、そう上手くはいかないよな……」
俺は立ち止り、抱えていた二人を下ろす。
そのまま、取り出したナイフを使って二人を縛っている紐を断ち切った。
「――――はぁっ、はぁっ…………!」
涙目のバレッタが荒い吐息を漏らし、ジャックがバレッタの背中を擦る。
「バレッタ、大丈夫かい?」
「うぅっ……あんな……あんなのっ……」
ここで長居はできない。
俺の役目は後ろの奴の足止めだ……。




