001
第六階層から第七階層への階段が続く場所。ここは、モンスターたちとの急な遭遇を防ぐために、周囲の木と茂みが無くなっている。
そして、そこから横道に外れた位置、指定された場所へと向かう。
「これか……」
岩の裂け目から、確かに奥へと通じる道が存在した。
狭い入口を一人ずつ入っていくと、中は少しだけ横幅が広がっていた。
二人が並んで歩くには少し狭いくらいだろうか。
「二人とも、足元に気を付けろよ」
俺が先頭を行き、二人が後ろを注意深く進んで行く。
岩壁には点々と、俺たちを引き込むかのように、ランプの灯りが揺らめいている。
ジャックとバレッタを連れ去った奴らは間違いなくここに居る……。
岩の裂け目は徐々にその幅を広げていき、歩いた先には開けた場所が見つかった。
空洞……広場か……?
「ッ――――⁉」
俺は二人に「止まれ」と後ろ手に合図を送る。
「「ッ……!」」
そのまま振り向き、口に指を当てながら二人に「静かに」と無言で告げる。
「「…………」」
慎重に、足音を立てずに中の様子をうかがう。
空洞の中には数人の冒険者が一定の距離をとって立っている。
「っ……!」
ジャックとバレッタはすぐに見つかった。だが――――――あいつは…………。
黒い鎧に身を包み、青い剣を地に突き刺したまま、まるで銅像のように止まっている者の姿。
その下に、二人は拘束されて転がっていた。
あいつはハルギ・ディーセスト…………。
ゴーレム討伐隊の一人であり、裏ギルドの幹部と思われる人物。
全身を包む黒い鎧が印象的であり、手に握る青い剣は奴の属性を反映している。
「はっ……これは厄介な奴が居たもんだ……」
自然と額から滲みでる汗。
十年前の敵が目の前に居るこの状況……。冷静に……冷静に状況を判断しなければならない……。
「ハルギの旦那ぁ……」
「……」
裏ギルドのメンバーらしき男がハルギへと近づいていく。
「お目当てのジャックは連れて来ましたし、この獣人の娘は俺たちにくださいよぉ」
ハルギの足元で、手足を縛られ、口も塞がれている二人。
男の声にバレッタが涙を流していた。
「旦那ぁ、聞いてますかい?」
「……」
黒い鎧は微動だにせず、ハルギは無言を貫いていた。
「旦那もさぁ、一発ヤればスッキリしますぜ?」
「……」
男の言葉に、周りの連中が自然とバレッタの近くに寄っていく。
ニヤニヤと、下心が見え見えの男たちはバレッタを凝視する。
「……んっ~! んんーっ!」
武器を持った冒険者たち、若い者も居れば獣人やエルフも混じっている。
バレッタは自分の身に迫る者たちに恐怖し、声にならない泣き声をあげていた。
「ね、旦那っ、獣人の若い体はあっちの締まりもよくて――――」
「口を開くな……」
動かない鎧から発される低い声。
その声音に、集まりかけていた彼らの足がピタリと止まる。
「え……今なんて……?」
男は冷や汗をかきながら、ハルギから一歩だけ後ろに引き下がった。
「それ以上……その薄汚い口を開くなと言っているんだ……」
「だ、旦那、そりゃ――――」
「目障りだ、散れ……」
ハルギの冷たい態度に、男はイラついたらしい。
「お、俺たちがそいつらを捕まえて来たんだぜ旦那ぁ! ちょっとは――――ひぃっ!」
ハルギの頭部がゆっくりとその男の方を向く。それと同時に、男は小さな悲鳴をあげた。
「私は『ジャックを』と言ったのだ……獣人の小娘なんぞ頼んだ覚えはない……」
「こ、これは旦那にと思って……」
「要らん。お前たちの好きにすればいい……」
「あ、ありがとうございやす……!」
緊張からか、男の笑う顔はひきつっている。
「んじゃ、さっそく」
「……だがな」
「えっ?」
バレッタへと手が伸びていた男がピタリと止まり、ハルギの頭部を見つめる。
「ッ――――――!」
次の瞬間、地につけていた青い剣が、男の首元を斜めに移動した。
斬られた頭がゆっくりと宙を舞っていく。
「「「――――っ⁉」」」
浮いていた頭部が、ごろっと地面に転げ落ちていく。
「んん~っ! んん~ッ⁉」
バレッタの目の前に落ちた生首が、目を見開いたままその動きを止めた。




