001
エアリエル第六階層は草原地帯が広がり、茂みと木々に囲まれた階層である。
出現するモンスターと言えば、人間の背丈の半分ほどの大きさのゴブリンたちだ。
ゴブリンのリーダーを務めるように、こん棒や斧、防具を装備している追い剥ぎゴブリンが、同時にこの第六階層に出現する。
第五階層から第六階層に上がったシュヴァルツたちは、まず最初に周囲の警戒から行っていた。
見晴らしのいい開けた場所から、三人は歩みを始める。
一階層とは違い、第六と第七階層は昼間のように明るい場所となっている。明るい分、モンスターの位置や気配は察知しやすい。
しかし、厄介なことにゴブリンたちはウルフとは違って知恵がある。彼らは投てきもすれば武器も使う。言ってしまえば人間に近いモンスターだ。
ただまっすぐに突っ込んでくるモンスターならば、まだ簡単に倒すことができる。
ギルドの定める初級冒険者のCランクは、「第五階層のペンタグラムまで到達できる者」。
Bランク、つまり中級冒険者は「第七階層まで登れる者」となっている。
CランクとBランクが下のランクよりも差があるのは、第六階層に上がった途端に戦闘の難易度が数段上がってしまうからである。
初級冒険者から中級冒険者に上がる者たちにとって、第一関門とも言えるのがこの第六階層。
「――――アイシャ、シズク、茂みや木にはあまり近寄るな。ウルフやスライム、ベアウルフとは違うぞ」
「そ、それくらい分かってるよ!」
「き、気を付けます……!」
シュヴァルツの声かけに二人の緊張が高まっていく。
いつでも戦闘が可能なように、シュヴァルツの右手には常に、腰にぶら下がっている剣の持ち手へと置かれている。
頭をかきながら、シュバルツは訝しそうに周囲を見渡す。
「ある程度の道は覚えてるんだが、なんだか嫌な雰囲気だ……」
シュヴァルツが片目を瞑りながら小さく呟いた。
かつての冒険者たちが歩きつぶした道は、生えていた草をすりつぶして茶色い土を露出させている。
そのおかげで冒険者たちは、第七階層へと続く道を探索せずに歩むことができる。
「そもそも…………第六階層に来いって言われても、一体どこに来いっていうんだよ……」
一人だけ前を歩くシュヴァルツが、高い天井を見ながら言う。
後ろの二人は警戒しながらシュヴァルツの歩いた道をついていく。
「なにか手がかりがなけりゃ、ジャックを探せって言われても――――――っ……」
カサカサ……カサカサ……カサッ……。
「……」
不自然な茂みの揺れに立ち止まるシュヴァルツ。
左手を上げた動作に、アイシャとシズクも足をとめた。
「っ……」
三人の歩いている前方の茂み。そこから発する違和感。
「なにか隠れてるな……」
ガサガサと揺れが大きくなるそれは、明らかに風で揺れているものとは違う人工的なもの。
まだ三人から距離はあるが、シュヴァルツがゆっくり近づくたび、その音もまた大きくなっていった。
「二人とも、構えておけ」
「う、うん!」
「はいっ……!」
シュヴァルツが腰から引き抜いた剣が、光によって黒く艶やかに照らされる。
アイシャが両手に持つのは、エッジのきいた二つの短剣。
シズクはいつでも詠唱が可能なように身構えていたのだが……。
「あれ、その剣は……」
「ん? シズク知ってるのか?」
「し、知ってるもなにもそれは有名な鍛冶屋タナトス様の――――――」
「お、おい! 誰か居るのか⁉ お願いだ! 助け…………」
――――――ドゴッ……。
茂みから男性の声。その直後に響いた鈍く低い打撃音。
「ぼ、冒険者かな……?」
アイシャの小さな問いかけにシュヴァルツは真剣な眼差しで答える。
「そうだろうが、不用意に近づくなよ」
「う、うん……」
茂みから声を発したのは一人の男。しかし、茂みの揺れからして一人とは思えない。
シュヴァルツはマントの下に隠しているナイフを取り出した。
「え、なにするの?」
「なにって、投げる以外になにするんだ?」
「冒険者に当たったらどうするのさ!」
「分かってるって、まぁ見てな」
シュヴァルツはナイフを半回転させ、刃を器用に指先で摘まむ。
「よっとな」
次の瞬間、ナイフは茂みの手前へと音を立てて突き刺さった。
『――――ウガァ!』
『ウゴゴッ! ウガァッ!』
茂みから飛び出してきたのは、剣やこん棒を持った追い剥ぎゴブリンたちだった。
全身が緑色の体に、大きく開いた口。
鋭い目つきは見慣れない者ならばたじろいでしまうほどに、ギョロギョロと辺りを睨みつけている。
『ウゴガァッ⁉』
ナイフの音に釣られて飛び出したことに気付かず、追い剥ぎゴブリンたちはその場で困惑しているようだった。




