006
「ということで、俺の実力はAランクと思ってくれていい」
ギルドでの基準はよく分からないが、元々Sランクだった身だ。身長が縮んだ分、Aランクと言っておけば大して問題ないだろう。
「おっけい! んじゃ、君の本当の実力を見せてもらおうじゃんか」
「あ、あの……! よよ、よ、よろしくお願いしましゅ……!」
「「…………」」
シズクが噛んだ瞬間、俺とアイシャは無言で芽を合わせた。
俺とアイシャが一斉にシズクを見つめると、シズクの顔が勢いよく赤く染まっていった。
とても可愛らしくシズクが噛んだことに和みつつ……。
さて、任務が任務だけに、緩い空気もここまでだな。
「んじゃ、本題だ。とにかく、二人の実施試験も含めたジャックの奪還任務だ。気を引き締めてくれ」
うん、と二人が同時に頷いた。
あとは戦闘時の立ち位置だな…………。
「……ア、アイシャちゃん」
「ん? 小声でどしたの?」
「その、シュヴァルツ君ってカッコいいね……」
「んー、そうかなぁ。なんか喋り方とかおじさんみたいじゃない?」
「そ、そんなことないよっ……」
「二人とも、なにを話してるんだ?」
こっちは二人をどう守るか考えている最中なんだが……。
「いや、シズクが――――――――」
「な、なんでもないです! なんでもないです!」
頬を染めたままのシズクが、遠慮がちにアイシャを制止させた。
「そ、そうか」
まぁ、なにはともあれ…………。
はぁぁ……、これでようやく昔の立場になったぞ……。
長かった……。ここまでの関係構築に無駄に時間がかかってしまった……。
「よし……それでだ。シズク、今の時間は?」
「は、はい! ちょっと、待ってくださいっ……」
シズクが先程のアイテムで時間を確認する。
「え、えっと、夕方の五時くらい、ですっ」
あたふたしながら時間を教えてくれるシズク。
なんだかぎこちないが大丈夫だろうか……。
「にしても夜まであまり時間がないな。二人とも、準備はいいか?」
「もちろんっ」
「わ、私も大丈夫です!」
アイシャは双剣だとして…………。
「シズクの武器はなにを使うんだ?」
「私は、その、魔法がメインなので武器は持ってないです……」
素早さ重視のアイシャに魔法使いのシズクか。
俺は前衛がメインとなると、アイシャと俺で前衛が二人、シズクで後衛が一人、バランスとしては問題ない。
バーサーカーみたいなガード役が居れば、もう少しマシなメンバーになるんだが、俺が居ればどうにかなるかな……。
アイシャには、任務だし後衛に回ってもらうしかないな。
「よし、役割は大体わかった。基本は俺一人で前に出る。二人には後方から支援を頼む」
「いやいや、私も前衛なんだけど……」
「二人には怪我をされたら困るんだよ」
「わ、私だって戦えますぅー! この間はたまたま油断しただけであって……」
膨れっ面のアイシャの声がだんだん小さくなっていく。
「油断した」という理由は、冒険者としてありえない。その「油断」が死を招くのだから、常に準備万端で挑むべきだ。
そのことに自分から気がついたんだろう。
「前衛に出てくれるのは頼もしいんだが、アイシャも念のために魔法での支援をしてくれ。前衛と牽制は俺の仕事だ」
「なんでさ!」
「ア、アイシャちゃん……」
突っかかるように攻めてくるアイシャを、シズクが止めようと手に触れる。
「理由は単純なんだよ」
ここから先は遊びでも冒険でもない。
対人は気を緩めてやれるほど、甘いものじゃない。
ゴーレム戦の時、裏ギルドの連中は必要のない冒険者を躊躇することなく殺した。
相手を殺さなければこちらが殺される。その戦況、状況に立たなければ、生き物は理解できない。理解できるはずがない。
「アイシャ、シズク。これは先に言っておく。犯罪者や人殺し相手にはこっちも本気で立ち向かわなければいけない。多少の覚悟だけではどうにもならない。相手を殺す覚悟がない奴を、俺と同じ前線には立たせられないし、立たせたくもない」
なるべく声は荒げず、諭すようにしたつもりだったんだが……。
二人とも落ち込んでしまったか……。
「そ、それは……そう、だけどさ……」
「アイシャちゃん、シュヴァルツ君は多分、私たちのことを考えて言ってくれてるんだと思うよ……?」
「わ、分かってるよっ……」
このままではパーティの士気が駄々下がり……。少しはフォローしてやらないと……。
俺は立ち上がり、下を向いていたアイシャの肩をぐっと掴む。
「アイシャ」
「な、なに……⁉」
「ウルフと戦闘した時、武器も持たずに来たのは、確かにアイシャが悪い」
「うぅ……」
アイシャのケモ耳がへにゃりと垂れた。
「だがな」
「……うん?」
俺はアイシャの頭に手を置き、なるべく優しく話しかけた。
「あのウルフたちを一掃できたのはアイシャのおかげだ。あの詠唱はもう少し工夫の余地があるにしても、アイシャの魔法は中級冒険者の中でも上のランクだ。だからこそ、前衛もできて後方での支援も可能なアイシャを、シズクと一緒にしておきたいんだ」
「えっ、そ、そんなこと……まじまじと見ながら言われても……」
アイシャの顔が赤くなっていく。
「なにか問題あるか?」
「なっ、なにもないですぅーだっ!」
頭に置いていた手をはたかれた。
年頃の娘を持った親父の気持ちがなんとなくわかった気がする……。
手をはじかれると悲しくなるんだな……。
「で……、シズクはなにか気になることは無いか?」
「わ、私は大丈夫です……!」
二人ともちょっと顔が赤いんだが、まぁ大丈夫か。
「よし……、んじゃ今から任務開始だ。第六階層に向かうぞ」
「「は、はい!」」
二人のぎこちない返事。
俺個人としては、ギルドの受付嬢を傷つけるわけにはいかないからな……。
汚い仕事は裏方に回ってくるもんだ。
それに、相手が裏ギルドの奴らなら…………尋問してリーダーの居場所を吐かせて――――――――――殺そう。




