003
「う~ん……。なら、どうすれば信じてくれるんだ?」
「ん~…………」
「な、なんだ……」
アイシャがこちらをじっと見つめたまま動かない。
眉を八の字にして、口をとんがらせて……。
この状況だけ見れば、俺がシズクに近寄ろうとする輩で、アイシャがそれを阻止しているように見えなくもない。
「ん~っ………………」
「なんなんだよ……」
そんなに見つめられても汗しか出ないぞ……。
「はひゅぅ~…………」
アイシャの空気が抜けていく。
真剣な目つきに切り替わったアイシャがまじまじと俺のことを見つめた。
「まぁ、君の実力は認めてあげる。ウルフの群れに襲われた時の対処も的確だったし、あの動きもEランクやDランクの冒険者じゃなかった。私に注意したことも正しかったしね……あれはちょっとムカついたけど……」
「ちょ、ちょっと、アイシャちゃん……?」
言いながら、シズクが抱き枕のようにギュッとアイシャに締めつけられる。
「まぁ、話が早くて助かるよ」
これでようやく対等な関係に――――――
「でも……」
「でも……?」
「やっぱりムカつくぅ……!」
言い終えたアイシャがムスッと頬を膨らませる。
おっさんの時に可愛がっていた子だし、どれだけムカつかれようが何も気にならない。むしろ微笑ましい限りだ。
「まぁ、とにかくだ。第六階層に向かおう」
「え、でも、約束の時間はまだ……」
シズクの言葉に、俺は先輩冒険者として、多少の知恵を伝える。
「エアリエルの中は太陽なんて当たらない。一階層と二階層は薄暗い洞窟をギルド員総出で灯りを用意したのが今の環境だ。他の階層はどういうわけか明るい。ここも含めてな」
「は、はい……」
「ちなみに、ダンジョンの入り口から急いで第六階層に来たとして、外でどれくらいの時間が経っているのか知ってるか?」
俺は二人を試すように、質問を投げかけた。
多少は冒険者らしい振舞いをしておかないとな。それに、このパーティの指揮権は俺が持っておきたい。
「しょ、初級冒険者なら一日……中級冒険者でも半日はかかるかと……」
シズクからの回答に対して、俺は肯定の意を示した。
「そうだ。お前たちが出発したのは、ここでの待機時間と休憩も含めて……大体は昨日の夜ってところだろう?」
二人に問いかけてみる。
「そ、そうだけど……」
「な、なんで分かるんですか……?」
「まぁ、少し考えれば大体分かるさ」
クレスと話したあと、二人の出発時間も聞いてたしな……。
「ちなみに、俺が出発したのは今日だ――――――」
あ、ヤバい。若者に対して「どうだ、俺スゴイだろ?」の雰囲気は嫌われてしまう……。
それに、冒険者歴が長い奴特有の「どうだ、スゴイだろ」アピールは、俺が一番嫌いなやつだ……。
「ほ、ほんと……ですか⁉」
驚いたシズクが目を見開いてこちらを見つめるが、体はアイシャにガードされたまま。
アイシャはうざったそうな目線を向けているが……。まぁとにかく、シズクが純粋で助かった……。
「嘘だ……ぜったい嘘だもん……」
「ん、なにか言ったか?」
「そんなのぜったい嘘だねっ! ぽっと出の冒険者が第五階層まで……、それも半日もかからずに来るなんて……ありえないもん!」
ビシッと指を差しながら完全否定してくるアイシャ。
たまに語尾が「もん」になるのはアイシャのクセなんだろうか。
「そもそも、俺がここに通い詰めて二十――――」
……いや、言っても信じてくれないか。
「「二十……?」」
二人がまったく同時に、同じ方向に首を傾ける。
どっちも可愛いからその姿に少しキュンとしてしまう……。
「二十……なんなの……?」
アイシャに責められる前に適当にごまかそう。
「に、にじゅ……二十回くらい、ひたすらここまで通って通路を覚えたんだ……ぞ……」
我ながらとてつもなくひどい言い訳である……。
「二十回ってそんなに登ってないじゃんか!」
いや、そうなるよな……。
俺もそう思うもん…………と、アイシャの真似を心の中でしてみる。




