002
「あ……あの……シュヴァルツ君、お久しぶり、です……」
「お、おお、シズクか」
アイシャの後ろからひょっこりと顔だけを出したのは、たれ耳に黒髪の「大人しい」を体現させたような女の子であるシズク。
相変わらずおどおどしているが、それがまた良いところでもある。
あのドジっ子天然はギルド員としてどうかとは思うが……。
「……それで、なんでアイシャの後ろに隠れているんだ?」
「え、いや……その……っ」
なぜ照れるんだ……。
あれか、俺が裸で抱きかかえたから警戒されてるのか?
それとも、胸に意識が向いてしまうのがバレてしまったのか?
だが、男としてそれは仕方ないことだろう。
おっさんとして、それは仕方のないことだろう?
「まぁ、なんでもいいが……。二人とも、任務の内容は聞いてるのか?」
「え、ええ……」
「は、はい……」
あまり気持ちの良い返事ではなかった。
まぁ、今から行くのはダンジョンだがクエストではない。これから行くのは任務だ。
クリアしてもしなくても、命があればいいクエストとは違う。
任された務めを果たさなければならない。
気が滅入るのも仕方ないことだよな。
アイシャとシズクは少しばかりアイコンタクトをした。その後、アイシャが呆れながらにこちらを見つめる。
「内容を聞いてるからこそ、君が担当っていうのが理解できないんだけどさ……」
腕を組んでも、谷間ができないアイシャ……。
胸を張っても、どこにも膨らみが感じられないアイシャ……。
土属性の魔法で「絶壁」なんてあれば強そうだな……。
ああ、でも、アイシャは風属性か。
「……」
「なにかなぁ……?」
少し怒り気味のアイシャに目を逸らしつつ、
「あ、いや……なにも……」
と、返事を返す。
あんまり悲哀の目で見ていると、また引っかかれるかもしれない。
「あ……あの……!」
ようやく、シズクがアイシャの隣に並んだ。
「おお……」
ほほう……これは中々の装備……。
エアリエルの東町で流行り始めた和服とかいう衣装か。
上から下まで、着替えが一括でできる便利な衣服と聞くが……。
ふむふむ、これは中々素晴らしい。
黒を基調に、生地の端は赤いライン、動きやすさを意識された太ももの半分程までの布地。
加えてシズク特有の胸の谷間と、大人しそうな見た目が完全に合致している。
和服の獣人……、アリだな。
「あ、あの……シュヴァルツ君……?」
「…………」
若いって素晴らしいな……。やっぱり獣人族は可愛いのが多くて助かる。
「そ、そんなにじっと見られると……その、恥ずかしい、です……」
シズクのこの初々しい反応も、おっさんからすればレア素材……。
「シュ、シュヴァルツ君……?」
「いや、これはまた見事な――――」
「ちょっとちょっとぉー!」
アイシャがシズクに抱きつき、俺の視界からシズクを消された。
まぁ、アイシャとシズクなら、女子同士でも構わない。
可愛いは正義とか誰かが言っていたが、本当にそう思う。
「なんかさー、私たちのこと、イヤらしい目で見てない?」
「ち、違うぞ……こ、これは念のために装備を確認しているだけだ……」
と、一応ごまかしておくが……。
「それにしてはなんかイヤらしい目つきだったんですけど……シズクの体まじまじ見てたんですけど……」
シズクを庇うように、俺の視界から遠ざけようとするアイシャ。
「さ、さぁ……なんのことかな……」
さすがに見すぎたか……。
いや……だがしかし、こんな装備でおっさんとパーティを組むこの二人が悪いのであって、俺が二人の体に目が行ってしまうのは自然なことだ。
つまり、俺が悪いのではなく、この装備を選んで着てきた二人が悪い。
「はぁ……。それで?」
独りで自分の言い訳に納得の頷きをしていると、アイシャが引き気味に問いかけてきた。
「ん、なんだ?」
「なんで君なのか、その答えを聞いてないんだけど」
シズクに抱きついたまま、アイシャが俺へと問いかけてくる。
「クレスから頼まれたんだよ。お前たちとジャックの救出を頼むってな」
「…………」
「ん、どうした?」
「……絶対うそじゃん…………」
「……いや、本当なんだが」
「いやいや……ありえないでしょ……」
とてつもなくドン引きされているんだが……!
ドン引かれているんだが……⁉
本当のことを言ってドン引きされるって……、若いってだけでどれだけ信用がないんだ……。
いやまぁ、俺も逆の立場ならその判断しかしないだろうが……。




