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003

 ……。


 ん、二人から返事が返ってこない。


「二人ともどうしたんだ?」

「ビオリス、すまないんだが私たちは町からは動けない。有事の際を考慮してな。もし、私たちが離れれば、裏ギルドの連中にここを襲撃されかねない」

「まぁ、それはそうだが……お」


 次の言葉を言う手前――――――

 目の前から俺の肩を優しく掴んだのは、キングの豪快な手だった。


「な、なんだキング……」

「その為に、お前が居てくれるのだろう。なぁ、ビオリス」


 警備隊の隊長であり元上級冒険者……。現役時の異名は、その勇猛果敢な戦いぶりから「勇気の先導者」と呼ばれたバーサーカー。


 そんな男に任されるのは、一般の冒険者ならばさぞ光栄なことなんだろう。


 だが――――――――


「……あのな、ずっと裏方っていうのは意外としんどいんだぞ……」


 ため息混じりに愚痴をこぼし、テーブルの上に置かれていた飲み物を一口。


「っ……!」


 これ、酒じゃねぇか……。


「表舞台は嫌だの面倒だのと言っていたのはどこのどいつだ?」


 上から目線の、見下ろすようなクレスの眼差しから目を逸らす。


「さぁな……」


 少しだけ口にしてしまった酒を拭いつつ、俺は二人ともども目を逸らした。


 ギルドに属するのも警備隊に入るのも、面倒だと断った結果、俺は冒険者を続けることにした。


 クレスとキングは昔馴染みということもあり、クエストや任務の報酬をくれた。そのおかげで、特に生活で困る事もなかった。


「…………」


 ただ……年をとっていく感覚、老いという感覚だけは、俺の心を少しずつ虚弱にしていった。


 目の前に迫っていた「引退」は、俺から活力とやる気を削いでいった。


 任務を半ば放棄して、ジャックのパーティを抜け出して、八階層まで勢いで上がって、自分の今の力がどんなものかと、おっさんになっても生き急いで……。


 はぁ…………。


 人間なんて、冒険者なんてバカばっかりだ。


 だが、それでも……。


 若返った今の俺には……もう一度……もう一度だけ、チャンスが与えられた。


「ビオリス、もう一度、冒険者として出発するんだろ?」

「…………っ」


 クレスの問いかけに俺は無言を貫いた。


「ビオリス、お主は仲間を見捨てるような奴でも、責任から逃げ出すような奴でもない。そうであろう?」

「あぁあああ……くそっ、年寄りどもがうるさいぞ……」

「ふっ、人間の子どもに言われるとは、なにも言い返しようがないな」


 馬鹿にしたように笑うクレス。


「ああ、まったく。あの頃のビオリスと変わっとらんわ」


 キングは静かに、俺の方へと微笑んだ。


「ちっ……、子ども扱いばっかりで面倒くせぇ奴らだ……」

「ははは、私たちからすれば子どもにしか見えないさ」


 ぽんぽんとクレスに頭を触られる。


 人間で言えばそこまで小さくはない。


 まぁ、大人でもない中途半端な見た目なのは事実だが……。


「クレス、やっぱりお前はムカつくわ……」

「そうか?」


 なにがだ、と言わんばかりの表情のクレス。


「はぁ…………もうなんでもいい……。とにかく、俺が対処するとしてだ、ダンジョンへの進入はどうするんだ? 俺は今、Eランクの冒険者でしかないぞ」

「それなら……」


 クレスが不意に立ち上がり事務机の方へ向かう。


 机の引き出しからなにかを取り出したクレスはこちらを見つめた。


「これを持っておけばいいだろう。ほら、受け取れ」

「お、おっと……」


 クレスから放り投げられたのは、剣の形をした銀色のネックレス。


「これは?」

「それはCランク冒険者に渡される初級冒険者の証。五階層まで行ける者に渡すものだ。それを身につけておけばダンジョンへは自由に入れるだろう。第六階層へも進入できる」

「それなら前と同じSランクのやつをくれよ……」

「それじゃ、再出発にならないだろ。いや、そもそも前に渡した分はどうしたんだ?」

「あれ、そう言えば……」


 冒険者の証って昔に貰ったな……。


 家に置きっぱなしになっているような……。


 ん……そういえば――――――


「あれ、俺がダンジョンに入る時に足止めくらったことないんだが……」

「そりゃ、大剣を使う奴なんて少ないからな。お前が目立とうとしなくても目立つさ」


 そんな理由で通っていいのか……。


「顔パスでダンジョンに行ってもいいのかよ……」

「お前なら大丈夫だろ」


 はぁ……。


 ギルド長ともなればなんでもアリか……。


「いやまぁ助かった。一人でダンジョンに行きたかったんだよ」

「なら、ジャックのことは頼んでいいんだな?」


 クレスに質問され、俺は頭をかきつつ、

「あいあい……たまには仕事でもやりますよ」

 と、半ば投げやりに答えた。


 元々、俺が受けた任務のトラブルだしな。俺で処理しなきゃいけないのは明白。


 第六階層までちゃちゃっと行って終わらせ……。


「そういえばよ、第六階層まで行ける相手って、俺一人でいいのか?」

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カクヨムの方が先に進んでいます!

冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める

https://kakuyomu.jp/works/1177354054974837773
― 新着の感想 ―
[良い点] 39/39 ・大人の会話っぽくていいですね [気になる点] シュバさんがじたばたするのなんかかわいい [一言] さぁお供は誰だ?
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