001
クレスの部屋、ギルド長の室内に俺とクレスが横並びに座り、その目の前にはもう一人、懐かしい昔馴染みが座っていた。
「……えっと、なんで俺は呼ばれたんだ?」
「な? 本当に若返ったビオリスだろ?」
俺の質問を無視したクレスが、話をすり替え目の前の人物へと問いかける。
「ほう、本当に若返ったとはな」
警備隊の鎧に身を包み、眼帯をつけた大男。
短い白髪頭に渋めの顔つきは、人間で言えばダンディな野郎だ。
二人がけのソファの大半を使うほどに大きいそいつは――――――――
「キング、久しぶりだな」
「うむ、本当に久しぶりだ」
微笑みこそ優しいオヤジだが、体格は座っていても立っているかと思うほどに大きい。
「それにしてもギルド長のクレスに警備隊長のキングまで居るなんて……そんなに大ごとか?」
ゴーレム討伐隊の一人であり、かつて俺やクレスとパーティを組んでいた仲間―――――――バーサーカー族のキング。
クレスと同じく冒険者を引退し、今はエアリエルの町を守る警備隊長の座に就いている。べっぴんさんとよろしくヤッたあと、生まれたのがジャックなんだが……。
あれ、俺だけ役職もらってなくないか…………?
「かつてのメンバーが三人も集まるとなると、昔を思い出すな」
微笑むキングの顔は、完全に強者の笑みと化している。
昔は赤髪だったキングだが、一応はバーサーカーも人間みたいに白髪になるらしい。
ん……、よく見れば顔も少しは老けたか。
「でもよ、エルフとかバーサーカーはいいよなぁ。歳をとっても見た目はあんまり変わらないんだからさ」
目の前に座るキングへと嫌味たらしく伝える。
「がっはっは! ビオリスだって見た目は変わってないじゃないか! がっはっはっは!」
「うるせぇ……」
図体がでかい分、キングの声は部屋中……いや、部屋の外まで響き渡っていた。
頭を撫でるキングの手が近づいてくる迫力は計り知れない。
正直、握り潰されるかと思った……。
「ごほん……。二人とも、久しぶりの再会はそこまでだ」
隣に座っていたクレスが、落ち着いた声で俺たちを静止させた。
「あ、ああ」
「了解した」
「それで、なんだってんだ……、俺は暇じゃないんだぞ」
ギルドに行って昇級クエストを受けようにも、アイシャは隠れるし……。
他のギルド員を連れて行こうとしても「忙しくて今は……」とか言われるし……。
あいつら昇級させる気ねぇのかよ……。
新人冒険者がくすぶってるのって、絶対ギルドのせいだろ……。
そもそも、基準も教えないで昇級クエストがーって……、どこかに張り出してほしいもんだぜ……。
「まったく……面倒くせぇ……」
「――――おいビオリス、聞いてるのか?」
「あ、ああ……聞いているぞ、もちろん」
「なら話は早い。頼んだぞ」
「……え?」
「やっぱり……お前、話聞いてなかっただろ……」
クレスが呆れたように頭を抱え、俺はその対応にため息で返した。
「し、仕方ないだろ……。クエストを受けたいのにあいつら……」
「……クエスト? どういうことだ?」
クレスは横目に俺の方を見つめる。
キングはといえば……俺の目の前で、差し出されたエルフの酒を樽ごと飲み干していた。
俺はクレスに、アイシャと共にダンジョンに赴いたあと、それから数日間、誰もギルドの従業員が俺の相手をしてくれないことを告げた。
「ふっ、アイシャに逃げられたか……ふふっ……」
「こちとら元から嫌われてんだよ……」
「まぁ、お前は女性の相手が下手だからな……」
クレスの嘲笑に自然と眉間にシワがよる。
「なに……?」
「本当のことだろう?」
「ちっ……、無駄話しに来ただけなら俺は帰るぞ……」
こんなむさい奴らしか居ない部屋にいられるかよ。
「俺は酒場で可愛い子に相手してもらうぜ」
「いや、それは困る」
「ん……?」
立ち上がった俺を、制止するように声をかけたのはキングだった。
空になった樽を床に置き、鋭い隻眼が睨みつけてくる。
「なにか問題でもあるのか?」
「お前に任せていたジャックの護衛、忘れたとは言わせんぞ」
「うっ……」
言葉に詰まりつつ、クレスへと助けを求めるが――――――
クレスにも睨まれていた……。
「いや、だがしかし……俺は新人の冒険者になったんで……、そんな上級冒険者のギルド任務は白紙に……」
「――――なるわけないだろう」
「だ、だよなぁ……あは、あはは……」
クレスに突っ込まれ成す術なし……。
「それにビオリス……お前、ジャックの護衛の任務を忘れていただろ」
「い、いや……覚えていたさ。ただ、色々あってだな……」
「色々あってなんだ?」
「色々とはなんだ」
クレスとキングの両者から鋭い眼光が向けられた。




