007
「へ、変態って……、私は素直なだけよ!」
「ふんっ! すぐに男の人をころころ変えるなんてありえないもん!」
「したこともないアイシャには分からないわよ!」
「なにゃっ……⁉」
「っ⁉」
アイシャの姉、アイギスのとんでもない発言に、俺を含めた周囲の男たちが唾を飲んでいた。
「お、おい、二人ともやめろよ……」
俺にとってはこれが精いっぱいの仲裁だった。
男同士の争いなんて拳ひとつでどうにでもなる。
だが、女同士……それも下ネタを含めたような言い争いにはあまり関わりたくない……。
「なにさ! 君もこんな乳がでかいだけのエロい女の方がいいっていうのかー!」
こちらを振り向いてそう言うアイシャの顔は真っ赤である。
「え、いや……俺はだな……」
「どうなのさー! 乳がでかいだけのエロいお姉ちゃんとこんなまな板の私! どっちがいいのさ⁉」
アイシャの顔が目の前に……近い、近い……!
っていうか、男なら「乳がでかい」「エロい」とくれば、それだけで十分条件なんだが……。
アイシャの姉というだけあって美人だしな……。まぁ、あとは性格の問題だけど……。
「ふんっ、アイシャのぺたんこな胸じゃ、彼だって満足できないわよ」
腕を組む姉のアイギスが上から目線でアイシャを見下ろす。
その腕に揺られるのは、やはり豊満な胸。
「なにをぉおお……⁉」
「と、とにかく二人とも落ち着けって……」
「わ、私だって、男の一人や二人、満足させられるもん!」
「え、ちょっと……」
言い終えたアイシャが俺の腕に上半身をくっつけ、腕を絡めてくる。
「ふーん、やれるもんならヤッてみなさいよ」
「言われなくてもやりますぅーだ! ほら、行こっ!」
「お、おい……」
アイシャにべったりとくっつかれたまま、アイギスの隣を横切っていく。
「アイシャのぺたんこな胸に飽きたらさ、私の所に来ていいからねー」
ニコニコしながら手を振るアイギス。
一応、アイシャの姉ということで手を振り返すが――――
「なんで君は手を振り返してんのさ⁉」
「すまん……」
アイシャの一喝により停止。
「ほら、あんなのほっといて行くよ!」
「あ、ああ……」
抱きついたままでいいのだろうか。
ぺたんことはいえ、少しだけは膨らんでいる胸が当たっているんだが……。
「……」
ふむ、言うべきか言わないでおくべきか……。
「どしたの⁉」
歩いたまま、怒り気味にアイシャが聞いてくる。
「いや、まぁ……」
「男でしょ! はっきり言いなよ!」
赤らんだ頬に、泣きそうな目のアイシャ。
「その……さっきから近いというか……色々当たっているというか……」
腕とか肌とか胸とか……。
「え、あっ……あれっ……⁉」
アイシャはようやく今の状態を把握したらしい。
「あれ、私なんで君に抱きついて……ひゃぇええっ……⁉」
真っ赤になったアイシャの目がグルグルと回りだす。
頭からは湯気が上りつつ、あわあわと口が震えている。
「ば……ば……」
「お、おい、大丈夫か?」
アイシャが壊れたかもしれない。
「シュ、シュヴァルツ君のバカァアアアアアア!」
「な……いっ⁉」
バシンッと、綺麗な音が町の中に轟いた。
「いってぇ……」
思いっきりビンタされた……。
「バカ! バーカ! あほー!」
「ちょっと……どこ行くんだ!」
「知らないっ!」
暴言と共にすごい勢いで走り去っていくアイシャ。
露店を見ていた数人の冒険者が、アイシャに轢かれて地に伏せている……。
「はぁ……、面倒くせぇな……」
飯に行くだけだったのになんでこうなったんだ……。
「――――おい、あのガキ、女の子を泣かせたぞ」
「――――ああ、あのガキ、将来はとんでもない大物になるぞ」
…………。
周囲の目が痛い……。
男からは嫉妬と尊敬らしき視線を、女性からは差別に近い視線を感じる……。
俺が悪いわけじゃないだろうに……。
「はぁ……」
とりあえず、酒場でゆっくり飯にするとしよう……。




