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003

「間違いなくウルフの群れだろうな」

「ご、ごめん! 私が大声だしたから……。危ないから下がってて!」


 アイシャに肩を掴まれ、「後衛に」と促された。

 しかし、俺はその手を振りほどいて進んで前に立つ。


「まぁ気にするな、向こうから来てくれた方が手っ取り早い」


 家に落ちていた黒い剣も使ってやらないといけないし。

 大剣と違って軽いし持ちやすい分がどうでるか。


「まぁ、試し切りには丁度いい」

「ちょっと君! もしかして戦おうとしてない⁉」

「そりゃ、モンスターが来るなら迎え撃つしかないだろ」

「それはそうだけど……!」


 焦るアイシャに背を向けて、右手に剣を握り締める。


『アォーン!』

『ガルルゥッ!』


 洞窟の幅はゆったりとしているが、我先に襲いかかろうと走るウルフが道を塞ぐように迫ってくる。


 一番前を五匹、その後ろに五……十……十五匹くらいは居るんだろうか。


「ちょっとは楽しめればいいが――――なっ……⁉」


 アイシャに後ろから服を掴まれた。


「はいはい、新人君はちょっとどいててねー」


 特に武器も持っていないアイシャが俺の前に立とうとする。


 アイシャの正面には既に、駆けてきたウルフの第一集団が身構えている。


 灰色の毛に赤い目つき……。何匹かは口の端からよだれを垂らし、今にも俺たちに襲いかかる雰囲気だ。


「おい、俺の獲物だぞ」

「君、魔法はまだ使えないでしょ?」

「あ、えっと……それは……」


 使えない、わけではないんだが――――――――


「こういう一本道で正面にしかモンスターが居ないなら、武器を使うよりも魔法がいいんだよ」


 言い終えたアイシャが片手を前に出す。


「迅速の風よ、敵を斬り刻め……その刃は硬く貫通し獲物を切断した後も残り続け――――」

「おい、目の前にモンスターが居る状況で詠唱魔法をする馬鹿がいるか!」

「えっ……?」


 注意もむなしく、三匹のウルフが同時にアイシャへと飛び込んでくる。


「ちっ……」


 正面の一匹がアイシャに噛みつく手前、アイシャを後ろへと押し倒し、剣をウルフの喉奥へと突き刺す。


 左側のウルフには顎下を狙って裏拳を叩きこむ。


『ギャウッ……』


 手の甲を守る鉄製のガントレットは薄手でも、ウルフの顎を砕くには十分の威力を発揮してくれる。


『ガウガウッ!』


 右側、第一波の最後の一匹だが―――――


「くそっ……!」


 突き刺した剣が抜けずに三匹目を斬ることができない。


 噛みつかれた右腕に衝撃が加わる。


「くっ……念のために装備を整えておいて正解だったか……!」

「シュヴァルツ君!」


 後ろからアイシャの焦った声が聞こえる。


「大丈夫だ! ちょっと離れて待ってろ!」

「で、でも!」

『ガウゥウ! ガルルルゥ!』


 噛み千切ろうとするウルフが右に左に頭を振ってくる。


「鬱陶しいな……」


 次のウルフたちも、こちらを睨みながら様子をうかがっている。


 地面を擦りつける足の音。


 そろそろ来そうだな……。


「アイシャ、俺がひきつけている間に詠唱しろ」

「え……でも……」

「早く!」

「う、うん! 分かったよ!」


 いつまでも噛みついて離れないこいつは…………、投げ飛ばすのが正解だな。


「うぉぉらぁああっ!」


 体を回転させながら腕を振り切る。


『グパッ……⁉』


 ウルフの歯がガントレットの上を滑り、群れの方へと飛んでいく。


『『ギャウッ!』』


 投げ飛ばしたウルフが別の一匹へとぶつかり倒れる。


 だが、二匹ともすぐに態勢を立て直し、こちらへと向き直る。


「風切りの刃、無数に飛び散りて敵を切り刻め……」


 アイシャのやつ、詠唱するにしても長すぎる……。


 文言、言葉の列挙はそのまま魔法に反映される。


 長ければ長いほど、精密な魔法を唱えることは可能だ。しかし、今の状況でそれをされると前衛としてとてもやりづらい……。


「やっぱり一人の方がやりやすいな……」


 攻撃の間が空いた今の内に、ウルフから突き刺した剣を抜き取る。


 引き抜いた剣先からはウルフの血が滴り落ちていた。


 一度、剣を振り切り血を払う。


「さて、仕切り直しだな」

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カクヨムの方が先に進んでいます!

冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める

https://kakuyomu.jp/works/1177354054974837773
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