003
「シュヴァルツ君ね、それでシュヴァルツ……なに?」
「えっとだな……」
「んー?」
覗き込んでくるアイシャの顔が近い……。
それにちょっと良い匂いがする。そもそも、なぜ女性は良い匂いがするんだ……。
「シュヴァルツ……シュヴァルツ、ビオリス……」
おっさんには新しいネーミングセンスなど皆無だった。
「シュヴァルツ・ビオリス君ね。あれ、んじゃ名前があのおじさんと逆ってことかー」
勝手に納得し始めるアイシャ。
目の前ではクレスの眉間にシワが寄っている。
仕方ないだろ……急におっさんに話を振るもんじゃねぇんだよ。
「年齢は?」
「多分、十六……」
どれだけ年齢が若返っているかが分からない以上、適当にしか答えられない。
「たぶんってどゆこと?」
アイシャがコテッと首を傾け、頭に疑問符を浮かべた。
まぁ、そうなるよなぁ……。
「自分の年が分からないなんてないよね?」
クレス、助けろ……。俺にはどうにもできない……。
「アイシャ、彼はその……」
クレスもそこで口ごもった。
「ん、クレス様?」
アイシャは俺とクレスの顔を交互に見つめては、不思議そうに頭を右に左に動かしている。
「(クレス、お前なにか言えよ!)」
「(あとは頑張れ……)」
「(お前が一から冒険者やり直せって言ったんだろうが……!)」
「(その方が都合がいいんだ……)」
「あの~……お二人とも、そんなに見つめ合ってどうしたんですか……?」
「あ、いや……なにもないよ。さぁシュヴァルツ、君の年齢を教えてくれ」
あとで覚えとけよ……。
クレスのことを睨みつけると、明らかに目が泳いでいた。
「ほら、クレス様の時間がもったいないでしょー」
「そうだね、私も忙しい……」
クレスめ……目を逸らしてさっきの本を読んでやがる……。
「ほらー、はーやーくー。お昼の休憩使って来てるんだからー」
「え……、もう昼なのか?」
酒を飲んでからいつの間に……。
クレスの奴、起こしてくれればいいものを……。
「こーのー……」
「ん?」
「寝坊助めっ!」
ペチンッとデコピンをされ――――
「っ……⁉⁉⁉」
痛みと頭痛が合わさって苦痛になった。
「いってぇぇ……頭が割れる……本当に割れる……」
今すぐにでも、頭だけを取り外したい……むしろ頭部だけ消したい……。
「お酒なんか飲むからでしょっ。はい、早く年を教えて!」
もう、なんでもいいか……。
「十六だって言ってるだろ……」
「初めからそうやって言ってくれればいいのに、君が『多分』とか言うからでしょー!」
「うるせぇ……」
「なぁあああああ! その面倒くさそうな目つきとか言い方とか! あのおじさんにそっくりなんですけどぉおお!」
発狂したアイシャに他人の振りをするクレス。そして、俺は頭痛がひどい……。
もう今日は帰りたい……。
「なぁ、とりあえず明日の朝にでも来るからさ、今日はとりあえず帰って――――」
カーン……カーン……カーン……。
「あぁああ! お昼終わっちゃったじゃん! クレス様、失礼します!」
ビシッと立ち上がったアイシャがクレスへとお辞儀する。
「あ、ああ……。あ、そうだ。ついでにシュヴァルツ君の登録をそのまま頼むよ」
「おま――――」
「分かりました!」
「では、また仕事が終わったらここへ」
「はいですっ!」
「おい! 俺の話を――――――なっ……」
「よいしょっと」
あれよあれよという間にアイシャの脇腹に抱えられた。
モンスターに若返らされて、からかっていたはずの相手に抱えられて……。
昨日ダンジョンに行かなければこんなことにはならなかったのに……。
「おいクレス! お前との話がまだ終わってないだろ!」
抱えられたまま、正面に座っているクレスへと言い放つ。
「アイシャ、そのまま連れて行ってくれ」
「はいですっ!」
「無視するなよ! あと、ギルド長が冒険者の話を無視するなんて許されるのか⁉ 横暴だぞ! 人権侵が……んんっもごっ……んんっ⁉」
アイシャに口を押さえられ、足をじたばたさせるしか出来なくなった。
「はいはい、ギルド長がこうして新人の君と話をしてくれただけでもありがたいと思ってねー。ではクレス様、失礼しますね!」
「ああ、よろしく頼むよ」
クレスの野郎……今度会ったとき覚悟しとけよ……。




