003
「裏ギルドの連中がこのモンスターを見つけた時が厄介なんだ」
「裏ギルドの連中、ね……」
裏ギルド……。目的のためなら手段を選ばないゲス野郎ども……。
「あ、ああ、すまないビオリス……」
「いや、気にしないでくれ。もう過ぎたことだろ」
「それはそうだが……」
俯いたクレスの顔が曇っていく。
お互いにため息が自然と吐き出される。
今のこの町はクレスが運営するギルドのみが存在する。
ひと昔前、冒険者たちから金を巻き上げるべくギルドは乱立していたが、全てを丸く収めたのがこのクレスだった。
クエストの管理も冒険者の管理もここで全て担ってくれている分、若い時に比べれば現役冒険者たちは恵まれている方だろう。
クレスのギルドが冒険者手続きをする正式な場所。
それとは別、影に潜み悪に手を染める者たち……無法者どもが作ったギルド――――――
裏ギルド長の名はオプス・キュリテ。お尋ね者であり懸賞金がかけられた罪人。
ゴーレム討伐の際、冒険者を襲った罪、住居への不法侵入、誘拐、監禁、窃盗に人身売買などなど……犯した罪の数ならば歴代一位だろう。
「奴らさえ居なければ、ゴーレムは討伐できたはずだ……」
クレスは歯を食いしばりながら怒りを滲ませた。
「もう過ぎたことだろ、終わった出来事を蒸し返しても仕方ねぇ」
「一番気にしているのはビオリス、お前だろう?」
「……」
ゴーレムとの戦闘が始まった途端、編成に混じっていた裏ギルドの連中は冒険者たちに襲いかかった。
あの一瞬、あの時の判断……俺が魔法を渋らずに唱えていればスカーレットは……。
「ふん、私もお前も、あの時の記憶は忘れたくても忘れられない。忌まわしき過去だ」
「さぁな、昔のことなんて忘れちまったよ」
「お前が嘘をつく時、必ず目を右に逸らすんだ。知っているか?」
「……」
やはりクレス相手には分が悪いか……。
話を元に戻さなければ……。
「まぁ、裏ギルドの連中がサカマキのことを知っても、今はダンジョンの入り口はギルド管轄で警備もされてる。俺以外の上級冒険者にも依頼してるなら大丈夫だろ?」
「あ、ああ。前のようにモンスターがダンジョンから出てきても、どこかの冒険者が連れ出そうとしても、ギルド直属のパーティで制圧する。そのためにギルド内のメンバーは精鋭を揃えているからな」
「ふっ……頼もしいねぇ」
ギルド受付嬢のアイシャも、その内の一人ということなのだろう。
「ビオリス、それよりもだ」
「ん?」
「サカマキと次に遭遇したらどうするつもりだ?」
「まぁ、今回は油断しただけだ。次は確実に倒す。瞬間移動と魔法を使う前にとどめをさしてやるさ」
単純に気を抜いていた俺が悪い。あれは確実に倒せていたはずのモンスターだ。
モンスターの種類、弱点、特徴を「知らなかった」では済まされない。
次は確実に――――――狩りに行く。
「ふふっ……お前も、頼もしさは小さくなっても大きくなっても変わらないな」
まるで子どもを見つめるようなクレスの優しい微笑み。
「うるせぇ……」
「ふふっ、ビオリスはいつまで経っても変わらないな」
「お前……俺が小さくなってバカにしてるだろ……」
「いやいや、そんなことはないさ」
「どうだか……」
口元を押さえて小さく笑うクレス。
俺は机の上に置かれた本を閉じて、クレスに投げ渡した。
「おっと……、これでも大切な資料だぞ」
「はいはい……。はぁ、なんか朝からアイシャとお前と話したら疲れた……」
クレスに伝えたいことは言ったし、家に帰ってひと眠りしよう。
「おい待てビオリス! お前、今の自分がどういう状況なのか分かっているのか?」
「ん? 若返って多少は元気になったが?」
なんなら歓楽街で発散しそこなって多少ムラムラが残っているんだが――――
「いや、そういうことじゃない……」
なぜか頭を抱えるクレス。
「今、お前がビオリスだと知っているのは、理解できるのは私だけなんだぞ」
「……ん?」




