002
「あんたが――――」
「やめろ! その壺は――――」
パリーン。
「あぁ……五十万バルスの壺がぁぁ……」
怒鳴り声に泣き声、物が壊れる音も聞こえ始め、寝ても立ってもいられない状況になってしまった。
そろそろリーダーが来ないと、また改修費でダンジョンに行かなきゃならない生活が始まってしまう……。
俺はこの茶番劇に加わるのは御免だからな……。
「バレッタ、危ない!」
「きゃっ……」
顔にむにゅっとした柔らかいものが当たる。
膨らみは二つ。サンドラは薄板なので確実にバレッタの胸である。
おっさんにはありがてぇ。
「――――はぁ……またですか……」
お、主役は遅れてやってくるって言うが、本当に遅いぞこいつ。
「ピーターもサンドラも、バレッタもアレクも落ち着いてください……」
このパーティのリーダーであり、唯一の常識人。
若いながらもこの鬱陶しいメンバーをまとめている頑張り屋さんだ。
「ジャック! 聞いてくれ! サンドラの奴がアレクと!」
「ハァ⁉ 元はと言えばピーターがバレッタに手を出したのが悪いんでしょ⁉ この短チン!」
「なっ⁉ 誰が短チンだ!」
「ち、小さくてもッ……ピーターはすごい優しくしてくれるんですよ……?」
バレッタの言葉は火に油でしかない……。
「二人とも落ち着いてくださ……」
「うぁあん! ジャックゥ……」
「ちょ、バレッタ……そんな恰好で抱きつかないでくださいよ……」
「だってぇ……みんな怖いんだもぉん……」
あぁ……もう、このパーティ面倒くせぇなぁ。
ということで、隠れみのには持って来いだったが、ここらで抜けさせて頂くとするか。
「よいしょっと……」
裸で立ち尽くしているバレッタに毛布をかけてと。
「おい、お前ら」
「「っ⁉」」
おお……全員の目がこっちに向くとは思ってなかった……。
「あのさ、俺このパーティ抜けるわ。んじゃな」
「え⁉ ま、待ってくださいビオリス! 貴方は――――」
「あら、別にいいじゃないジャック。大剣持ってるのに後衛ばっかりで魔法も使わない役立たずなんだから」
ジャックの言葉をサンドラが遮る。
中々の言われようだが気にすることでもない。
「と、いうわけで後衛の大剣使いで魔法もロクに使えない俺は抜けさせてもらうよ」
「ま、待ってください! ビオリス、せめて新しい仲間が加わるまで!」
「俺は後釜が来るまで待つ気はねぇぞ」
「いやいや、それは責任逃れではないか?」
腕を組みながら、屈強な体つきをしたアレクが目の前に立ちはだかった。
ちらちらとバレッタの体を見ているが、今は黙っててやろう。
「いや、責任は『抜けたい』って思わせるパーティに問題があると思うが?」
「自分の役目を担う者が来る前に居なくなるのは責任逃れだろう」
はぁ……。
責任逃れし続ける茶番劇をした後に、その当人から言われるとはな……。
「その責任逃れって言葉、お前にも、ここに居る全員にも、そっくりそのまま返すわ。男女関係でこじれるパーティなんざダンジョンに潜る価値もねぇ」
「「…………」」
ほれ見たことか。全員俯いて黙っちまったじゃねぇか。
「んじゃ、さいなら」
壁に立てかけていた大剣を背中に預け、手を振りながらその場を後にする。
広間から扉を開けて玄関へ、そして町へ。
夕暮れのぼやけた世界。町の一角に建てた家も、住人があれじゃ可哀想だ。
「さーてと」
自由になったことだし。
「とりあえず、酒場で一杯やるか」
こうして、俺は面倒臭い仲間たちと別れ、再びソロ活動に戻ることにした。