004
「水の魔法なんて……火のモンスターにしか使えねぇ……」
頭をかきながら文句を垂れるビオリス。
魔法の属性には「火、雷、氷、土、風」の五種類の属性に加え、特殊な「光、闇」の属性があるのだが……。
ビオリスの属性は「氷」ではなく、水であった。
魔法を使わない大剣使い、ビオリス。
この魔法を誰にも見られたくないと頑なに封印し、大剣のみでダンジョンを攻略し続けてきた。魔法を使わずに、己の力と経験のみでここまで生き残ってきたビオリス。
彼を見下す者、パーティの加入を断る者、おっさんだと笑う者、目立たないように実力を磨いてきたビオリスは、後ろ指を向けられることの方が多かった。
そんな彼だが、一昔前にあった町の強者が集まった混合編成パーティー。それに参加していた実力者でもある。
口喧嘩していた若い元パーティの連中がそんなことを知るはずもなく、ビオリスは再び一人、二十年も共に過ごしているダンジョンでため息を吐く。
「はぁ……。おっさんにもなって『アクアージ』なんて……唱えたくねぇな……」
サラマンダーの素材を拾いながら、腰に着けているアイテム袋へと詰め込んでいく。
二十年、このダンジョンに来ては、倒しても湧き出てくるこいつらと対峙して戦って、素材を手に入れては武器やら防具やらを鍛えてもらって……。
年をとったら冒険者から引退して隠居生活……。
最終的には老いには勝てずに死んでいく。
「エルフや獣人の寿命が長いなんて羨ましいこった」
そんな愚痴を砂漠に吐き捨て、ビオリスは重い腰を上げた。
「勢いで八階層まで来ちまったし、五階層の休息地によって帰るかねぇ」
歩き出す一歩。それと共にピキピキと嫌な音が腰から鳴り響いた。
背負われている大剣も、心なしか申し訳なさそうにビオリスへ、その重心を預けているようにも見える。
「あぁ……さすがに年だな……。ギルドの連中もこんな老いぼれに依頼を送ってくるなんてどうかしてるぜ、まったく……」
帰り道への一歩を進め始めたその時――――
「ん……?」
子ども……よりも小さい何かが居る。
ドワーフ? いや、獣人か?
ステップをしながら、その奇妙なものがこちらへと向かってくる。
確実に分かるのは、子どもでもなく冒険者でもないこと。
つまり――――――
「モンスター……だよな?」
見たことのない姿に反応が鈍る。
二足歩行で背が低い。祭りの仮装みたいな、青と白だけで色付けされた衣服。
目は丸くて顔も丸い。被っているとんがり帽子と合わさると、女うけが良さそうな可愛らしい見た目だ。
『サッカサー、サッカサー、サッカサマー!』
「なっ……」
モンスターが喋っている……だと……。
距離はまだ大剣の範囲よりも外側。動きもゆっくりしている。
大丈夫だ。焦らずにやれば大丈夫。
がっちりと大剣を手に持ち、目の前の正体不明のモンスターへと構える。
「レアモンスターかもしれないし逃がすわけにはいかねぇな……」
だが、それにしても二十年も冒険者として過ごしていて初めて出会うとは――――――
『サッカサマー!』
まばたきをしたほんの一瞬。極僅かしかないその間。
ビオリスと対峙していたモンスターは、ビオリスの足元、真正面へと移動していた。
「っ⁉ 瞬間移動なんて聞いてな―――――」
『サカマキ、サカサマ、サッカサマー!』
モンスターは両手を構えて呪文らしき言葉を口にする。
「なっ……」
まばゆい光に目が眩み、思わず目を閉じてしまう。