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3. 第一戦目【アップテンポ】

タイトル変更させていただきました。

【ゲームよ恋を運んでこい】→【ゲーム×恋廻る~非凡な幼馴染みと平凡な幼馴染み】

私事ながらすみませんが、どうぞ宜しくお願い致します!


また、『ゲーム×恋廻る~非凡な幼馴染と平凡な俺』

零話と一話の一部修正、またその一部を一話へと分離しました。

より見やすくなったと思います。

また、今後三話、四話、五話と、誤字脱字等を修正していきます。

 ボードゲーム研究部。


 広さは教室の半当分ほど、無数の傷跡が刻まれた木製の床がこの部屋の年季を語っている。


  奥側の壁には、この部屋唯一の窓があり、部屋の片隅に一段高さのある畳スペースが設けてある。中央には木製で簡素な長机一つと四脚のパイプ椅子、その上には二機ディスクトップPCが泰然と設置されている。

 左手側の二段構造の棚には、ボードゲーム研究部と名乗っているにしては役不足と言えるほどのボードゲームが無造作に置いてあった。しかもそれは全て平沼が持参した物のみ。


 平沼は言っている。


「なぜボードゲーム研究部と謳っている我が部に肝心のボードゲームが少ないのだ!」などと、非常に最もなことを……。


 そもそもの話、わが部には予算というものがない。

 いや、厳密に言えばあるはあるのだが、その既存する予算が雀の涙よりも少ないのだ。

 それはというもの、世知辛い話、雀宮高校の部活動は完全に実力主義だったりする。実績が多い部活ほど当てられる予算の数は多く、比例して実績の『じ』文字も存在感すらない我らボードゲーム研究部には、少量ながらも予算が与えられていること自体逆に凄いとまで俺は思っているほどだ。


 そうやって、多くの諸先輩方の悲惨な姿を見てきたのだから余計にそう感じざるおえない。

 そう思い返してみると、返って予算をせがむ行為は自らを劣悪な環境に沈ませてしまう行為ではないだろうか。


 だが、その点うちの部活動にはそれこそミジンコ一匹ほどの問題もないと保証、いや、断言出来る。

 なぜなら、我がボードゲーム研究部の部長が平義俊沼という男だからだ。


 奴は俺と同様にコミュニケーションを不得意とする男。クラスは違えど、あいつが特定の誰かと一緒にいるところなんて見たことがない。

 そんな男が、生徒会にタテつけるほどの度胸もなく、そもそも頻繁にこの部室に足を運んでいる副生徒会長様にも未だ何も言えず、びくびくしていらっしゃることから、ハンカチを噛みしめることしかできていないのが現状である。……悲しくなんてないよ、ゔゔ……涙なんて流れてなんかないんだからね!


 一方で、今、その副生徒会長様はというと、長机の上に我もの顔で泰然する二機のデスクトップPCの前の椅子に俺と横並びで座っていたりする。


 立ち上げて間もないHDDハードディスクドライブがせっせと仕事をこなし、処理能力の高さも相まってか、早くも液晶画面に映されたリズムゲーム『アップテンポ』というポップな文字で彩られた文字達が踊る。


 第一戦目、『アップテンポ』。


 その名の通りリズム感が肝となるリズムゲー厶。

 画面上方からアップテンポなリズムに乗って流れてくる円板状の音符をキーボード一つでリズミカルかつ正確に処理していくことで総スコアを競い合うシステムとなっている。


 その中でこの『アップテンポ』の売りは、何と言ってもそのリズムの速さの段階が豊富だという点だろう。

 選択可能なリズム速さの段階は全部で十段階。

 今回はその最高段階に位置する『ヘルモード』を使った勝負となる。

 従来の音ゲーのそれを遥かにに凌ぐ『ヘルモード』は、アップテンポをこよなく愛する音ゲーマー達然り、俺のようなマルチなゲーム好きにもにはたまらない一品に仕上がっている。


 今回の勝負判定は、ベストスコアが高い方が勝者となる。要は一瞬の洞察力と、いかに正確無比なキーボード操作が出来るのかがこの『アップテンポ』では試されるのだ。


「……これ、懐かしわね」


 映し出されたスタート画面を見たやよいがぽつりと呟いた。


「そうだな、リメイク版とか近頃出ているらしけど、俺達の『アップテンポ』つったらやっぱこれなんだよな」


 実は今回の対戦ゲームは全て、俺とやよいが幼い頃によくやり込んでいたゲームで構成されていたりする。

 これは最近生徒会の実務で多忙を極めるPCゲームの現をぬかしている暇がないやよい優先して、俺達が幼い頃から拮抗してきた昔ながら作品であり、すぐにでも対戦できるという点が大きい。


 だからこそ、やよいも追想に耽ってしまったのだろう。


「……」


 俺もその郷愁漂う横顔を見ているとつい頬が緩んでしまう。

 やよいの心がまだここに残ってくれているよう気がして嬉しかったのだ。

 だからこそ、今は悠長なことは言ってられない。

 俺は緩む頬を引き締め直し、思い出すようにキーボードに触れているやよいに問いかける。


「そろそろ始めるぞ、準備はいいか?」

「ええ、問題なさそうだわ。早速始めましょうか」


 どうやら早々に感覚が戻ってきたらしい、その証拠と言わんばかりに浮かべる表情には余裕の色が見える。

 しかし余裕ぶっていられるのも今のうち、十分後に浮かべる悔やんだ顔が俺には目に見めるようだぜ。——くくくく、せいぜい束の間のゆとりを噛み締めておくんだな!


 俺がそんなことを考えていると、画面上にはゲームの対戦を告げる『3、2、1』といったカウントダウンが始まっていた。


 キーボードを打つ指にも自然と力が入る。

 まずは一勝だ。 


 他のジャンルと比べ、俺は比較的に音ゲーなるものをを得意としない。そのためこの『アップテンポ』を先取すれば勝利は見えたも同然だと言っても過言ではない。

 さらに、昔からこの手の類はやよい十八番であり、ブランクを差し引いたとしてもやはり勝負はわからない。完全に未知数。未知の実力。


 俺は背もたれから体を起こし、緊張感を一身に張り巡らせ、映し出された『スタート』の文字に全集中を注ぎ込んだ──。


 ——そしてその十分後。


「う、嘘だろ……」

 俺の口から漏れ出したのは乾いた声だった。

 正直信じられない。画面上に映し出された『You Lose』の七文字、何度見かえしても変化のない七文字。翻って、やよいの画面には『You Win』の六文字。


「ふふ、これで私の一勝ね」


 未だ驚愕の淵に立っている俺をよそに、隣の席から愉快げな声が聞こえてきた。わざわざ横を向いて確認する必要はない。俺は負けた、幼馴染みに敗戦を喫したのだ。

 厳密には、気付いたら負けていたと言った方が諸々正しい。

 別に俺も調子が悪かった訳でもなかった。むしろ『ヘルモード』相手にあそこまで健闘した事を踏まえると調子が良いと言っても良かったのではないだろうか。

 タイピング速度も、流れてくるリズミカルな音符だって多少のミスはあったものの、それほど卑下するほど乱れていなかったはずだ。


 ならばやはり、考えられるのは一つ。

 答えは簡単だ。

 やよいの持つ、タイピン速度、正確性、リズミカルさ、その全てにおいて俺を上回っていたということだ。リズム感には元々定評があったやよいだが、しかし俺の記憶の彼女と今の彼女のそれは一線を画すレベルだった。


「お、おい……、随分とキーボード捌きが上手くなったじゃないか」

「ええ、生徒会の仕事では必須スキルですもの。後は流れてくる音符を逃さず丁寧に打っていければこのゲームは簡単に攻略できるわ」

「ま、まぁそうだな、それはその通りだなんだが……」


 幼馴染みの何気ない言葉に俺は言い淀む。

 確かに、彼女のいうことは尤もでとても理に適っている。しかしそれを実行に移せるかどうかは別の話、さらにこれが『ヘルモード』ともなれば別次元の話になる。

 それと同時に気になることが一つ。


「ときにやよいさん、このゲームをプレイしたのはいつぶりで?」


 極めて平然を装った俺はちらりと視線を横に向けて問いかける、いや、問いかけられずにはいられなっかった。

 先ほど、やよいの口振りを聞く限りでは、『アップテンポ』自体プレイするのが久しぶりだと言っていたように聞こえたからだ。対して俺なんか、昨日めっちゃくちゃ練習したんだぜ⁉︎なのに負けたって、めちゃくちゃ恥ずかしすぎるんですけど!

 人知れず羞恥に染まった俺の心情をよそに、やよいは淡々と口を開いた。


「そうね、最新版なら一ヶ月前に、『ヘルモード』機能が備わっているバージョンはこれしかないから……おおよそ一年ぶりかしら」

「で、ですよね、一年ぶり……って、一年ぶり⁉︎、まじか、まじなのか⁉︎」


 驚きのあまり椅子から立ち上がってしまった。

 そんな俺の驚愕ぶりに大きな瞳をぱちくりさせたやよいは、


「え、ええ、そうだけれど……そんなに驚くことかしら?」


 と、これまた自分がしでかした凄さに気が付いていない様子だった。けど、やよいの場合、本当に気がついていないのだ。

『ヘルモード』をプレイしてみたことのある人間が、先ほどの話を聞けば誰しも驚き慄くことだろう。『ヘル』とは日本語で地獄を意味する。


 すなわち、地獄のような難易度を誇り、数多のゲーマー達を沈めてきたモードなのだ。それは世代が変わった今でも変わらず、多くのファンに愛され、牙を剥き続けている。

 つまり、やよいが見せた技術は少なくとも俺にはできない芸当で、大抵のゲーマーも地に伏せてしまうほどの技術を彼女が有していたということなのだろう。

 しかも、彼女はそれを軽々と攻略して見せるのだ。

 そしてそんな彼女のポテンシャルの高さをその横で数多く見てきた俺は、誰よりも彼女の凄さを鮮明に感じてきたからこそ、それが紛れもないほど真実だということがわかってしまう。

 いや、きっと、彼女の凄さには誰だってそう感じてしまうのだ。

 彼女ほぼ無意識に、常人では困難な問題という問題も、試練という難題を、いとも容易く超えていけるほどの『才能』を持っている。


「まあ、素直にすげーと思ったよ。久しぶりに『才能』、『センス』の差ってやつを思い知らされた気分だ」


 天井を仰ぎ、俺は正直な心境を言葉に変えた。皮肉なんて一切合財なくて、完全完璧に格の違いを痛感させられた。一層逆に清々しい気分まである。

 けれど、決して悔しくないと言えばそれは嘘になる。ただそれ以上に、あまりにも衝撃的すぎて負け惜しみの言葉が出てこなかったのだ。


「そ。では第二戦目に行きましょうか」


 しかし、帰ってきた返答は存外素っ気ないものだった。興味がない、端的に言えばそんな感じ。普段のやよいにしては珍しいとも言える。

 疑問に思いつつも、どこか引っ掛かりを覚えながらも、だからと言って、別に俺から問いただす事もしなかった。

 早くも意識を第二戦目に切り替える。

 ただでさえ『アップテンポ』では完敗を喫しのだ、今の俺には他の感情にかまけている余裕なんてものはなかった。


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