9. ゲーム勝負はいつも突然に ──やよいside
「ではお先に失礼します。お疲れ様でした」
午後一時半過ぎ。
早めに職務を切り終え、背中に投げかけられた様々な「お疲れ様」に押されるような形で生徒会室を退室した私は、深閑さに満ちた休日の校舎を颯爽と歩く。
コツコツとした小気味良い自分の足音。抱き抱えるように持ったファイルが擦れる音。校庭から時より聞こえてくる活気に満ちた声。 平日の喧騒に満ちた校内では味わえない休日独特の雰囲気を別段私は嫌とは思わない。
もちろんワーカーホリックではないし、休日だって相応に好む。
買い物だって人並み以上にするし、映画だっても観に行ったりもする……というか、もっと沢山色んな物を観に行ったり食べに行ったり遊びに行ったりしたい、そう、したいのだけれど……。
「はあ……」
思わず漏れ出るため息。思い返すだけで無意識に漏れ出てしまうのだ。最近は職務中にも漏れ出ることがあり、生徒会役員達から心配されることもしばしば。これもあれも全てあのゲームバカのせいだ。
私の幼馴染みは極度のゲーム好きだ。
休日の大抵は自宅に引きこもり、黙々とPC画面とにらめっこ。そんな幼馴染みを仕方なく外出させるようとするが、見え透いた彼の挑発に乗ってしまうが最後。気がつけば、ゲーム勝負に持ち込まれ、惨敗して、勝利をもぎ取るまで仲良く液晶画面とにらめっこ。気づけば夕暮れ帰宅時間。
「はあ……どうしてあんなにも変わってしまったかしら……。まぁでも、私も私よね……」
昔はもっとアクティブで、どちらかと言えば彼の方が引っ込み思案な私を外に引っ張り出してくれていたのに……。
それなのに中学校に進学してからというもの、初めてクラスが別れたあの時期を境にもともとゲームバカ気質があったあのゲームバカは、明確なゲームバカにクラスチェンジしてしまったのだ。
あまつさえ休日は外に引っ張り出すのにも一苦労していたというのに、クラスチェンジを果たした今では、夏祭り規模のイベントに連れ出すのには相当な労力が必要となる。
そう、毎回行われるゲーム勝負がその大半を占め、現在進行形にして私の悩みの種の一旦を担っている。……担うな、ばか。
そして、そのせいだとは一概にも言えないけれど、お陰様で私自身も様々なゲームを研究し、張り合えるようなレベルまで己を磨いたこともあった。そしてそれが皮肉にも彼を連れ出すのに最も効率が良かったのだから仕方がない。
他にもその影響は意外なところにも影響してくれて——。
例えば──。
同じ高校の同性の友人達とお泊まり会が開催された際の小話から一つ。
高校二年生、ゴールデンウィークお泊まり会と命名されたそれは、ゲーム好きなクラスメイトの自宅で慎ましやかに開催された。
いわゆるパジャマ女子会というやつらしい。メンバーは生徒会から二名、クラスメイトから二名、計後五名。普段私が日常を共にする気のおけるメンバー達だ。
午前中は主催者の子のご自宅に集合となり、各々買い揃えてきた材料を用いてお菓子試作会を行った。午後からは、市内へショッピングに出掛けたり、カラオケに行ったりと同性同士ならではの楽しみに興じたのだった。
そしてその日の晩の事——。
ゲーム好きな同級生ならではの、もっと言えば主催者の意向で今夜のシメと呼べるゲーム大会が同時進行で決行された。
ゲームと一概に言ってもみんなが知っているような某有名会社の対戦バトルアクションゲーム。とにかく各ゲームのキャラクターが選り取りみどりな乱闘戦。
そして私はやってしまったのだ、やらかしてしまったと言ってもいい。
そう、私は、ゲーム好きで絶対優勝すると息巻いていた主催者である女の子の実力を見誤り、つい加減を間違えてボコボコにしてしまったのだ。
ここで一つ言い訳をさせてもらえるのであれば、当然忖度も考えていた。なんてったって彼女は主催者だ。
プライベートの場である自宅を他所もである私たちに提供してくれた、大仰な言い方をすればスポンサーとなる相手。でも、「あたし、すっごく強んだから遠慮しないで思いっきり勝負しましょ」なんて素敵な笑顔で明言するもんだから、つい……。
今でも覚えている。
あの時あの瞬間、私を視ていた主催者の子を除いた他三人の瞳に浮ぶ感情の色を——。半ベソかいていじけるあの子を宥めるのに苦労したのも忘れはしない。
総じて、何が言いたいかと言えば、あのゲームバカが悪い。
私だけ振り回さてが右往左往しているみたいでバカみたい。割に合わないのも甚だしいことこの上ない。
だから今日、つもりに積もった苦労とかツケとか責任とか、その他諸々引っ括めて返納してもらわなければならない。
ズンズンと荒っぽい音を鳴らしながら、下って上がって曲がっての順に歩みを進めている内に、私は特別棟四階に位置するゲーム研究部の部室前に到着した。
もともとこの部室は、学校七不思議研究部の部室だった。
しかし、今年の六月上旬。
私の手元に実は彼ら、学校七不思議研究部はその部名にそぐわぬ活動を行なっているという情報を入手したのだった。
一考の余地ありと、部室まで押しかけたところオカルト関連の資料や活動報告などが一切が出てこなかった。
問い詰めたところ、代わりに露見されたのは物々しい数のアイドルのグッズやそれに関する活動報告というなんとも形容し難いもの。
これは生徒会でも問題となり、学校側に審問しようかとなっていた時、私ある名案を思い出した。
善は急げと、その問題を引き継いだ私の記憶の片隅には、駿達が新たな創部を模索してるとった情報をサーチ。
優しい微笑みで、眼鏡をかけた集団を少し脅し——もとい、協力の打診を申したところ、すぐに部室を明け渡してくれると約束してくれた。
そんな背景を持ったこの部室は現在、ボードゲーム研究部の部室件、私の憩いの場として多大なる貢献を見せてくれている。
そろそろ約束の時間も近いので部屋の中に入ろうと、取手に手を掛ける。けれど一向に扉は開く気配がなかった。
「……施錠されているじゃない」
不満げなため息が漏れる。昨晩の記憶では、確か誰かが先に訪れているはずなのだが……。
コンコンと軽くノックをしてみる。
「……」
反応はない。もう一度、さらに強く。
「……」
やはり反応らしきものは返って来ない。本当に誰もいないのかしら……。
だが不思議とそういう気配がないわけでもない。めげずにもう一度。これも無反応であれば、幼馴染みに電話して鍵の行方を調べる他ない。
その後、十回ノックして、たっぷり十秒ほど待機していても結局音沙汰なし。
「……私の思い過ごだったのかしら」
渋々スマホを取り出し、こちらに向かっているであろう幼馴染みにクレームの一つでも送ろうとしたときだった。
扉の奥からバタバタと騒がし足音が地鳴りのような勢いと共に近づいてくる。二歩下がり最悪の事態を回避。
案の定、一秒も経たないうちに、弾かれたように扉が開かれた。次いで鼓膜をつん裂く荒々しい声があたり一帯に響を渡る。
「この大バカ者がー!き、貴様のせいで我がジェンガ史上最高の記録が水の泡とかして消えてしまったではないか!この落し前、どう付けて……もらおう、か……」
初めは烈火の如く責め立ててきたが、『この落し前』辺りで視線が交わり、『どう付けて』辺りぐらいからはその勢力が目に見えて鎮火されていった。言い切った今となっては顔中に脂汗を掻き、ずれ落ちた眼鏡の奥からこちらを見据えた細長い切れ目が点となっている。
総じて間抜けな表情だと私は強く思う。
名前は知らないがこの男は私の敵だ。ライバルではない、邪魔者から始まり目の上のたん瘤で終わるような存在。どこに誰だか知らないが私がこの部室に遊びに——もとい、活動状況の確認の一貫で訪れた際に必ずと断言していいほど我もの顔で居座っているのだ。
正直言って、邪魔だ。
放課後、生徒会の職務のちょっとした時間を割いてわざわざ幼馴染みに会いに——ゴホン、活動状況の確認のチェックに訪れている意味がない。扉を開けた際に、物の一番にその間抜けな顔が視界に入った日には軽く殺気が芽生えるというに、なぜ休日の土曜日に、あまつさえ部員でもなんでもないこの男がこんなところにいるのだろうか。
確かにわなわなと怯える邪魔者の奥には、無残に崩れ去ったジェンガの残骸がチラチラと見える。申し訳なさはある。けれど、過去の邪魔者が働いた非道な行いに比べれば下手にでる必要はない。
腕を組み、極めてに冷淡な口調で私は言った。
「いいわ、その落し前、早速つけてあげましょう」
靴を脱ぎ、部室の中へと足を踏み入れる。この手の輩には、実力の差を心底に刻ましてやるのが最も効率的だと自負している。
鼠色のカーペットの感触を足裏に、目指すは部屋の中央に設けられた長机。その上に二台のディスクトップPCが並び置かれいる。立方体のブロックの数々はマイクロタワーの影に隠れる形で四方に散らばっているようだった。
「ちょっ、あの、その、えーと、い、今から、何を……」
背後から戸惑いと逼迫を含んだ声が聞こえてきたが、構わずそのまま長机に向かう。
そして、散らばったブロックを一つひとつ集め、順に縦横に三つずつ重なりが出ないよう交互に重ねていく。最終的には計五十四本、一八段のブロック達で形成された立方体が完成する。これがいわゆるジェンガというボードゲームのデフォルトで、最上段を除き、(最上段に三本揃わないうちは、すぐ下の段から抜きってはならない)あとはルールに従い、各々自由に引き抜き、いかに倒さずに保っていられるかスリルを楽しむことが出来る。
最後の一段を並び終え、私は、早速落し前とやらの精算に取り掛かることにした。
振り返るもせず、背後でわなわなしている男子生徒に極めて平坦な口調で私は言った。
「決まっているでしょう、ジェンガで負った落し前とやらをジェンガで返してあげるのよ。あなたのジェンガ史上最高記録がいかほどのものか知らないけれど、私がそこまで導いであげるから。ああ、もし良かったらその史上最高記録とやらを今ここで、私が、抜き去ってあげましょうか?そうね……、ざっと五分くらいってとこかしら」
「な、なぬぅ〜〜〜‼︎この我を超える、だと⁉︎そのうえ、五分で、だと⁉︎」
「ええ、昔からジェンガも得意なゲームの一つなの」
そう嘯きながら、昔、幼馴染みと共に競い合った日々の記憶が駆け巡る。あの切迫した緊張感や緊迫感だけは何度体験しようが慣れるものではない。それに、なんといっても、終盤間際の不安定な木製の立方体が今にも倒壊寸前——という場面でしたり顔を浮かべたまま穴場を引き抜く幼馴染みの顔が、そのまた予想外の展開へ移るにつれて、慌てふためく姿は何度見ても飽きることはない。
思い返しただけで、笑みが溢れてくる。
しかし、背中越しに伝わってくる戸惑いと焦燥感に満ちた視線を受け、思考は再び現代へと舞い戻る。
ゴホンと咳払い一つ。何事もなかったかのように、私は聳え立つジェンガへ手を伸ばした。
「では、早速始めましょうか」
壁掛け時計の長針が五十五と重なったと同時に、朝飯変わりと言わんばかりに最下段から四番目の三列並んでいるうちの右端に私は目を付けた。
手始めに右手の人差し指で軽く押し出すように触ると、一見ビクとも動かなそうな立方体は予想通りするりと抜き出でてきた。あとは顕になった木面の部分を左手の親指と人差しを器用にかつ慎重に使い、一気に引き抜く。最後に最上段に追加の段として積み重ねることが出来て次のブロックへと挑戦できる。
この一連の動作をを基本ベースにして次々に押し出し、引き抜き、ときには細かく振動させるようにつつきながら攻略していく。
今回の戦略としては、下層はあえて中央を抜き取り抜き、左右のブロックだけを残して安定性をより重視。中層からは、あえて左右のブロックにターゲットを絞り、上層になるにつれまた中央を抜き取っていくという構想だ。
そうしていくと、最下段から二、三、四、五段目までが二本ずつ、六段目、七、八段目までが一本で支え、九段目からはまた二本ずつを残る寸法だ。あとはその繰り返し。次第にブロックの間から覗く光の数も増えていく。
そして、ジェンガを始めてから三分ほど経過し、ジェンガの高さが三十三段と積み重なってきたときだった。
今まで背中で感じていた男子生徒の気配がいつの間にか消失していたことに気がついたのは——。
振り返ってみてもやはりそこには誰もいなかった。
先ほどまでこちらがブロックを抜き出し重ねていく間、一挙一動が騒がしいかったので、自然にその存在感を忘れ去っていたのだろう。本当に、全くもって、気付かなかった。どことなく申し訳ない気がするが……。
「……まあでも、今日は調子良さそうね」
手先も解れて丁度良かった。謎にロングコートを着た邪魔者も無事いなくなり、部室奪取を成功したので、結果オーライ。計算通りだ。
やることもなくなったので、我ながら器用に積み重なったブロックタワーを慎重に解体していくことにした。
ちなみに、ジェンガというボードゲームは、倒壊するまでの焦燥感や、倒壊してからの苦渋、積み重ねたことによる達成感を味わうことを趣としたボードゲームなのだが、散らばったブロックをかき集めて、また初期のデフォルトに戻すのも面倒だったりするのだ。
しかし、私ほどの上段者になれば、上段に重なっているブロックを抜き取り、元にあった箇所に戻すことによって、解体する時間も省けると同時に、ジェンガというボードゲームを二重で楽しむことが出来る。
「そんなの簡単でしょ?と思ったそこの君、これが案外難しんですよっと……」
そんなことをひとり呟きながら、最後のブロックを元あった隙間に押し入れ、机の下に置いてある専用の箱に収納してから、いくつもボードゲームが並ぶ正面の棚の中に戻した。
「……まだかしら」
一段落付いたところで、ふと壁掛け時計に視線を向ければ、二時五分。
幼馴染みはまだ来ていない。
一人になった部室には深閑な雰囲気が覆い、とりあえず手持ちぶさになったのでパイプ椅子に腰を下ろすことにしたそのとき——。
ザッ、ザッ、ザッ、という特徴的な摩擦音を伴った足音が一つ、こちらに近づいて来た。遅れて、コンコンコンとノック音が三つ。
「………ふふっ」
誰なのか、どんな人物なのか、もはや考える必要はなかった。
今すぐ出迎えたい気持ちを押し留め、私は音を立てず席を立ち上がる。
そのまま抜足忍び足の心得の元と扉の前まで歩み寄る。当然、返事も返していない、だからといってそこに理由も理屈も存在しない。言うなればただの気まぐれ。なんとなくこうしていたかっただけ。我ながらしょうもないことしていると思う。けれど私がこうした態度を取れるのも扉の向こうで逡巡しているであろう幼馴染みの前だけなのだから、少しぐらい許容して欲しいと思ってしまう、要するに構ってほしい……のだと思う。
しかし、自然と緩む頬に力を入れ、そんなことを思っているのだとおくびにもお出さないが私である。
今、心臓がドキドキしてうるさいのは、高揚か、それとも嬉々なのか、今となっては名付けることにが難しい感情が心中渦巻く。
その後も立て続けに二回のノックにそっぽを向き続け、そのときをじっくりと待つ。
数秒後、痺れを切らしたように扉が軋む音を伴って開らかれていく。
次いでムワッとした熱気とセミの声、視界を差す陽光に目を細めるその先に、待ちに待った幼馴染みの姿を目の前に捉えた。
少し癖にある黒髪、気概の見えない眼、これまで運動系の部活動に参加してこなかった体の線は細く、並んで立つと少し目線が高い身長。至って普通の男子高校生。それが私の幼馴染みであり、大切な人であり、今日絶対に負けられなライバルでもある。ちなみにあの邪魔者は、私のことをライバルだと公言しているようだが、邪魔者は所詮邪魔者に過ぎない。
そんな私の心情など、まるで気づいていない様子で入室してくる幼馴染みを、私は正々堂々、不適な笑みをもって出迎える。
「待っていたわ……ずっと」
放たれた声は、先ほどよりもわずかに高揚していることが自分でも分かる。
正直すぎる自分の本能を厳格な理性で抑え付ける。と同時に、幼馴染み——駿もこちらの存在を黒い瞳に捉えた。すぐに視線が交わった。そして、日頃やる気の見えないその眼に込もった熱量を私は見逃さなかった。
こちらを真っ直ぐ見据えた黒眼は、負けず劣らず不適な笑みを浮かべた。
「準備は出来ているか?」
そして、不躾にもそんなことを訊いてきた。
「愚問ね」
言葉通り、応える必要はない。こちらは何十年も待ち続けてきたのだから……。
それに、ある程度の準備も怠っていない。
今日、勝敗を喫するためプレイするであろうゲーム自体にも予測はついている。
——というのも昔から私達が勝負事を持ち出すとき、プレイするゲーム自体に変化がないのでそれが確信の根拠に繋がっていたりする。
そして案の定、駿は、右手を目先に突き出し、親指と小指を折り、残った三本指をこれ見よがしに見せるけるようにして言った。
「勝負内容はPCゲームの内、リズムゲームの『アップテンポ』、シューティングゲームの『ロックオン』そして、最後のゲームは『Little Gigant』、バトルロワイアルの三種三番勝負制でどうだ?」
「ええ、問題ないわ」
推測通りの言葉を、私は一言で済ます。
『アップテンポ』、『ロックオン』、『Little Gigant』は、それぞれ異なる三つのゲーム制だが、この三つのPCゲームは幼いころ特に慣れ親しんだゲームだったのでさしたる問題はない。
そう判断した私は、「では早速始めましょうか」と短く言葉をまとめ、踵を返す。
歩み寄る先は、今回使用する二台のディスクトップPCが置いてある一脚の長机。
二脚のパイプ椅子のうち、私が右手側の椅子に腰を据える。追って駿が、空いた左側の席に腰掛けた。
すぐさまPCを起動させ、HHDがいそいそと仕事を始める。
「……」
膝上に添えた自分の指先の感覚が、いつもより心なしか鈍く、力んでいるような気がする。
——緊張しているのだろうか?
悴む指先をほぐすように、開いては閉じるを何度も繰り返す。いつの間にか呼吸も浅く短くなっている。
——ああ、これは違う、これは緊張ではない……。
そう確信しながら、伏せた目をちらり横へとスライドさせる。
その瞬間、その横顔を捉えた瞬間、心が軋んだ。
彼と、幼い頃から、今日まで同じ日々の中を過ごしてきたそんな彼と、本当に離れば離れになってしまうと、そう頭の片隅で考えてしまっているからだ。
震える指先を、ギュッと握りしめる。
——大丈夫。と、弱気になる心を鼓舞する。勝てばいい、この一世一代の勝負に勝利をもぎ取とることが出来れば、何がかきっと変わるのかもしれない。そうでなくとも、今は、そうであるべきだと確信しておくべきだ。
息を吐き、新鮮な酸素を体に取り入れる。力んだか指先も幾分と落ち着いた。
さあ、気を引き締めていきましょう。
ここからは、私における、私史上最初で最大にして最高のハッピーエンドになるのだから——。




