合わない宿
「どうした、そんな難しい顔して、審査で変な奴と揉めたのか?」
昼の時間帯の仕事が終わってから同僚の様子がおかしい。
もう10年も審査官の職をこなしているはずなのに、同僚である俺はあんなに落ち込んだあいつの顔を見たことがなかった。
「ありえねぇ」
「え、何が?」
ようやく口を開いた同僚が変なことを語り始めた。
「なぁ、一目惚れの相手が男だったら…どうする?」
同僚は斜めに上の方向に頭を向け、ささやくように意味不明なことを呟き、しばらく会話が止まった。
「おまえ、どうしたんだよ、大丈夫か?」
そう言うと俺は ぽかーん とした同僚の背中を叩いてみた。すると…
「は!」と、いきなり声を出して、背筋が一瞬でピーンの伸び、その反動で後ろからイスとともに床へ倒れると、同僚は頭を抑えながら、こっちを見てきた。
「いってぇ」
予想通りの答えが返ってきた。
「あ、おかえり」
そう言った後、もう一度聞いてみた。
「おまえ、本当にどうしたんだよ。悩みがあるなら…」
「分かった、分かった、話すよ」
そう言って長い話が始まった。
「おまえはエリーズ魔法学校の入学試験を受ける奴ぐらい、見たことあるだろ」
「あぁ、なんかお金持ちが凄い豪華な馬車に乗ってくるやつだろ」
続けて俺は「9割ぐらいは失敗に終わるがな」と苦笑いしながら言った。
「で、それがどうしたんだ?」
「おまえあの学校の推薦状、見たことあるか?」
「は?そんなのあるわけ無いじゃん」
当然の返しだった。
何故ならあの学校の推薦は今までに前例がない。
大魔導士であるメアリーや不滅の英雄なんて呼ばれてるエリックでさえ試験を受けている。
だからありえないのだ。
まさかと思い俺は、「ありえねぇだろ、そんなこと」と低いトーンで言った。
「俺もそう思ったんだけど、上の奴らに見せたら、『すぐに通せ!』て、焦って言ったんだよ」
「上の奴らがか、だとしたら嘘とは考えにくいな」
なんとなく俺は納得したのであった。
「でも、なんでお前がそんなに落ち込んでるんだ?」
ちょっと気になっていた事を口に出すと同僚は、「可愛いかったんだよ…」と言って話が終わった。
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長い審査が終わった後僕は入学するまで泊まる宿を探していた。
「うーん、どこがいいかな」と迷っていると、1人の茶髪の女性が僕に話かけてきた。
「そこのお姉さん、宿探しでお困りかなぁ」
「え、なんでわかるんですか?」
思わず感心して、僕は続けて話を聞いてみた。
「ははは、長い間宿の手伝いをしてきたから分かるんですよ〜」
とても明るい女性だとすぐに分かった。
「それにしても綺麗ですねぇ」
「え、何が?」
そう反応すると女性は むすっ とした顔になった。
「とぼけないでください!あなたみたいな綺麗な人、初めて見ました!!」
僕は色々と戸惑っていると女性は ごほん と軽い咳払いをした。
「で、どうします?うちの宿に泊まりますか?今なら割引しますよ!」
と、泊まってくださいと言わんばかりのキラキラした目を見て、なんか断りづらい雰囲気になったので、僕はこの宿に泊まることにした。