第二話
とりあえず連投です
俺は神って奴を信じてない。だってそうだろ?そんな奴がいるんなら、こんなホイホイ戦争なんて起きないだろうし、さっきまで隣にいた同僚の首から上が炭になって寝てるなんてこともないだろう。神官だの魔導師だののお偉いさんは『この力は神から頂いた尊いものだ!』とか言ってるが、その尊い力でやってる事は金儲けと人殺しが大半だ。俺たち傭兵が端金で銃ぶっぱなして人殺してんのと何が違うってんだ。
魔術だって万能じゃない。死んだ人間は生き返らないし、人生のやり直しだってできない。だったら科学と何が違う?所詮足が早いだとか頭がいいだとかの個性の範疇だろ?むしろ日進月歩の科学さんの方が発展性あるんじゃないか?
――だから俺は神を信じない。――
熱風が俺達の頭の上を通り過ぎていく。
「で?何職場で優雅に物思いにふけってるんですか?死にたいんですか?まさか、私が好きすぎて心中したいんですか?」
ちっとも笑ってない笑顔で問いかけてくるのはリラ。結構な期間俺とペアで活動してる女傭兵だ。やや童顔で、なんでこんな仕事してるのかわからんくらいには顔も体も整っている。いや、本当になんで傭兵なんかやってるのかわかんねぇ。聞いても教えてくんないからなぁ。今回の仕事で俺達が組み込まれた傭兵団でも既に何人かが手を出そうとして返り討ちにあってる。うん、気持ちはわかるぞ。だって普通に可愛いし、こんな男ばっかの仕事で隣にいたら手を出したくなるさ。だが済まないな諸君、リラには既に俺という男がいるんだ!…いや、すいません嘘吐きました。俺も袖にされてますハイ。嫌われてはないと思うんだけどなぁ…リラ的には同僚って意識しかないんだろうか…。
いかんいかん、状況の理不尽さにまた現実逃避してたわ。
「いやー、つい世界平和について考察って奴をね。ほら、俺って育ちのいい平和主義者だろ?『俺たちの想いが世界を救う!』てな。」
「あらそう。じゃあ平和主義者のトーレ様。白旗あげて降伏の使者でもやってくれないかしら?」
トーレってのは俺の名前。特に顔がいいわけでも戦闘レベルでの魔術が使える訳でもない、どこにでもいる傭兵だ。
「すいません、私が悪かったです。お願いですから許してください」
「よろしい。」
なんて、ふざけたやり取りしてるが現状は、任務的には控えめに言って絶望的だ。俺達が組み込まれた傭兵団には魔導師サマも神官サマもいないから後方で補給物資の警備の任に着いてたんだが、連合国の魔導師が本隊無視してこっち狙ってきやがった。
前線張れる魔導師は、50人程度の部隊なら単騎で蹂躙が可能だ。実際、この集積場の守備隊100人もたった4人の魔導師に手も足も出ず絶賛蹂躙中。ちゃんと対策してれば、もう少しまともに戦えたんだろうが、あのクソ団長、対策費ケチった上にあっさりやられちまった。なんとか立て直そうとしたところで、通信妨害されて連携も取れないまま一方的に責められてる。正確なとこは分からないが、恐らく10人残ってないくらいじゃないか?
「で、実際どうするの?アイツらが物資に夢中になってる今なら、私らだけなら逃げられるんじゃない?」
「あー、まぁそうだな。うん。逃げれるよな。俺たち2人だけなら。」
自慢じゃないが、こんな魔術優位な戦場でたった2人のフリーランスの傭兵が活動出来てるのにはそれなりの理由がある。リラは対魔導師の索敵に『魔術使ってんじゃね?』てレベルで優れてるし、俺はちょっとしたツテで手に入れた『魔導師の障壁を抜ける銃』を持ってる。あいつらの目的おそらくはこの集積場の破壊だ、たった4人の魔導師を全滅させる必要がないなら、確実に抜けられるだろう。・・・でも・・・
「同じ釜の飯食った仲間が蹂躙されてんだ。仇討ちなんていう気は無いけど、戦いもせず逃げるってのもなぁ。」
耳障りのいい理屈で説得を試みるが、
「いいじゃない。あの人たちには悪いけど、ロクな対魔導師の準備もせずに戦場に来る方が悪いんだから。2人だけで戦ったって勝ち目なんてほとんどないし、逃げちゃった方がいいって。」
リラは早めの撤退を勧めてくる。まぁ安全をとるなら間違っちゃいない。だが、1人2人潰すくらいなら俺たち2人なら普通にやれる。勝ち目なんてないなんて言いながらも、敵の増援がないならうまいこと立ち回ればなんとかなるだろう。問題は逃げたあとなわけで・・・
「こんな業界だ。任務ほっぽって逃げ出したってなると、次からたかが2人の傭兵に仕事回ってこねぇぞ?。せめて1人くらいは潰してやれるだけはやりました感だしとかないと。」
「確かにそうだけど、命あっての物種じゃない?それこそ、2人だから仕事が来ないならどっかの大きい傭兵団に入るって手も・・・。」
「無いだろ。」
リラの提案を切って捨てる。こいつの索敵能力は異常だ。魔導師を相手にする場合、魔導師のいない傭兵団ではその存在を事前に知ることが出来るだけで生存率が大きく変わる。故に、傭兵団に所属してしまえば常に最前線に送られる。仕事を選べなくなる。死に近い位置に身を置かなければならなくなるのだ。
俺はともかく、リラは死なせられない。もしそんな状況になったら、命張ってでもこいつは助ける。それだけの借り・・・いや、恩があるからな。
「ゴメン・・・」
「気にすんな。俺もリラのその能力に助けられたんだ。」
…さーて、どうすっかねぇ。




