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サツドル  作者: 暮メンタイン
2/5

はる隠し

はるなんの握手会で人が消える。一緒に行った友達が出てこない。そんな噂がたち始めたのは一年ぐらい前から。「はる隠しに遭う」僕らはそう呼んでいた。ファンにとってはる隠しに遭うことは特別なことで、はる隠しには続きがあった。はる隠しに遭ったものははるなんから究極のファンサービスを受けられる。僕らはそう信じるようになっていた。そして次の握手会で僕はついにはる隠しに合えるかもしれない。なぜなら次の握手会は僕にとって10回目の鍵開けになるのだから。


 自分の目の前を遮るものはない。鍵開けとして十回目の握手会は待っている時間も清らかだ。それなのに開門10分前を迎えた時騒ぎは起きた。ここからじゃよく見えないが二人の男がケンカをし始めたらしい。怒声が飛び交っているのがここまで聞こえる。

「どっちが譲るかで始まったらしいぞ」

「先に仕掛けたのはバンダナの方だってよ」

握手会ではよくある話でどっちが最後に並ぶかでもめ始めたらしい。栄えある日に水を差された形になって気分が悪い。背伸びして見ると思った通りろくでもない見た目のやつだった。一人はガリメガネでチェックの服を着たいかにも陰気そうな奴、もう一人は周りのやつが言っていた通りバンダナを巻いたごつい体つきの男で、知能の低いゴリラみたいな奴だった。こんなやつらに今日という日を汚されたくない。僕の思いは通じたようで数分もしないうちに警備員が飛んできて騒ぎは収まった。結局ゴリラの方が先に手を出したということで譲る形になったらしい。開門五分前になった。係員の動きもせわしくなる。1分前になり秒読みに入る。集中力が高まり自分の体が神聖なものになっていく。近くに神の存在を感じる。ついに目の前の係員が一歩踏み出した。その時が来たことが分かる。ゲートを開ける係員がスローモーションに見えた。あとははるなんがいるあのテントに歩いて行くだけだ。

 

自分が立っている場所は出口側であることは目の前の順路を示す矢印の先になにもないことでわかった。僕は今日はる隠しに遭うはずだったのに何でこんなところに突っ立っているのだろう。つい数秒前の記憶がない。時間になって係員がゲートを開けて、そこからぷっつりと記憶が途切れている。思いだそう思い出そうとしているうちに何かが顔から垂れた。透明なそれは自分の目から出ていて僕は泣いていたということが分かった。自分はまた選ばれなかったのだ。向こうのほうでバンダナゴリラとガリメガネの姿が見えた。二人はさっきのケンカがウソみたいに行儀よくしている。僕はその場でぼーっと突っ立っていた。少ししてガリメガネはテントから出てくると、鍵閉めになれた優越感なのか気持ち悪い笑顔を浮かべていた。僕はあり得ないと思った。係員が拡声器で本日の握手会が終了したことを告げる。出口に向かう人の波に逆らってガリメガネに駆け寄った。

「ねぇ、あんたの前の人」

「なに君?」

「あんたの前にいたバンダナの人どこ行った?」

「しらないよ。あんなやつ」

メガネの奥から陰気な目が一瞬だけこちらを向いたがそれだけで何も答えずに行ってしまった。会場の方を見る。係員は撤収作業に入ってこちらを気にしている様子はない。出口側からもう一度テントに入ればまだはるなんがいるかもしれない。

「はるなん」

テントの中には何人かのスタッフがいてその中心にはるなんが座っていた。

「何だ君は」

こちらに気付いたスタッフがすぐに駆け寄ってくる。

「さっきの男出てきてないよね」

次々に大人がやってきて僕の体を掴んでいく

「はる隠しなんでしょ」

「早くそいつを外に出せ」

はるなんの近くに座っていたスーツの男が苛立ちながら叫んだ。


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