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七黒星の巨獣狩り  作者: 若狭義
ぶらりデアナ歩き
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【幕間】エナの日記 その1

 今日から日記を始めることにした。

 人の言葉を勉強するためだ。

 セレと町に来てから気付いたが、俺は言葉は知っていても意味を知らないことが多かった。

 セレは人だからなんとなく意味はわかるけど、ちょっと難しい文章になると単語と文法ってやつのせいでわかりにくくなるらしい。

 セレの言葉の知識は俺の知識で、俺の知識はあの小さな村で勉強した知識だ。

 村の学校ってとこには大きな子供はいなかったから、それに合わせた勉強しか俺はできてなかったみたいだ。


「たぶん村では必要ない知識だったんだろうな」


 確かに村の奴らはあんまり村から出なかったな。

 村で手に入らないものをたまーに何人かで買いに行くくらいだった気がする。

 勉強も、文字と計算っていうのと、あとは草の見分け方とか簡単な魔術とかだったな。

 それならしょうがないな。



 セレは昨日、本をいっぱい買ってた。

 その中に教科書っていう文字がいっぱい書いてある大きい子供用の本があった。

 ギルドにも置いてたけど、いちいち借りるのも面倒になったらしい。

 セレはそういうとこあるよな、面倒くさがりだ。

 教科書は勉強をするための本で、セレはこっちの言葉の勉強をするって言った。

 だから、俺も一緒に勉強することにした。

 でもどうすればいいかわからなかったから、セレに聞いてみることにした。


「そうだな…………ああ、日記とかいいんじゃないか? 書いて覚えることもあるだろうし、なんでもやってみればいい。ちょうど手帳も買っただろ」


 わからない言葉を自分なりに噛み砕いて書いていけば、言葉の意味も覚えるだろってセレは言った。

 日記、そういえば村の学校でも見たことがある。

 言葉の勉強で、宿題というのにされてたやつだ。

 日記というのは、昔の思い出なんかを読み返したりもできるらしい。

 旅の思い出なんかを書けばいいんじゃないかって言われて、それはいいなって思った。

 別に旅の思い出じゃなくても、つまらないことでもなんでも思ったことを書いていいものなんだと。

 今日は書くことがいっぱいだから大変だな。

 


 とりあえず思ったことを書くことにする。

 人の文字を書くのは久しぶりだが、この手帳とペンっていうのはいいもんだ。

 ちょっと萎びた大きい葉と村で拾った炭というやつ、あれとは比べ物にならんくらい書きやすい。

 本当はあの時も鉛筆ってやつが欲しかったけど、勝手に持っていくのはダンディじゃないからな。

 文字を書いてると、村で文字の練習をしてたのを思い出すな。

 ヒゲセンセイが黒板って板に文字を書いて子供らに教えてたのを、俺はこっそり見てた。

 ヒゲセンセイは村で勉強を教えてたやつだ。

 たまにでかい声で吠えるけど、普通にしてたらなんかいいやつそうだった。

 そういえば、ヒゲセンセイは祭りっていうのが好きそうだったな。

 祭りの日は村の子供をいっぱい連れて、いっぱい食べて、いっぱい笑って楽しそうだった。

 外から見てた時はよくわからなかったが、祭りってのは楽しいもんなんだって俺も昨日わかったぜ。

 たぶん祭りが好きすぎたんだろうな、でかくなった子供らが、祭りのたびにヒゲセンセイの石に食べ物とかを持っていくくらいだ。

 きっとヒゲセンセイは祭りができなくて悔しがってるんじゃないかと思う。

 ヒゲセンセイもセレみたいに長生きだったらよかったのにな。



 セレといえば、セレは今、本を四つ読んでる。

 精霊の話が書いてる本と、教科書と、辞書ってやつと、変なぐにゃぐにゃした線が描いてる白い本。

 その白い変な本は何だって聞いたら、白地図本っていうんだって教えてくれた。

 地図っていうのは地面をギューって縮めて、国とか町とか、場所をわかりやすくしたものらしい。

 見せてもらうと、確かにわかりやすかった。

 森がこんなに広かったんだって初めて知ったし、大陸はそれよりさらにでかかったし、一番北にあったデアナはなかなかの大きさだった。

 俺の知ってる場所の名前なんかは爺に聞いた話ばっかだったから、実際にこの目で見てみるとなんとも言えない気持ちになった。


「この地図が白いのは、自分でいろいろと書き込めるようになってるからだ。見聞きしたことを書いたり……それこそ日記みたいに、旅先での思い出なんかを書いてもいい」


 しばらく精霊の本を読んで、たまに辞書と教科書を見て、白地図に書き込んでっていう繰り返し。

 本に出てくる場所のことを書いてるらしい。

 書き込んだら忘れないしな、いい考えだと思う。

 精霊の本は結構分厚いから大変そうだけどな。

 今日は休日っていう仕事を休む日で、今はやることもないからちょうどいいんだと。

 そういえばセレはずっと仕事をしてた気がする。

 休日ってのも、宿のやつの店で俺の風呂桶を貰った日が最後だったような。

 結局ギルドで本を借りるのもできてないしな。


「んー……? ああ、蟲騒ぎの後は依頼で森の中だったな……まあ、そういう忙しないのも慣れてるから大丈夫だ。精算まで二日もあるしな、その間は本を読みながらだらだらするさ」


 確かセレがこっちの世界に来る前も忙しかったって言ってたな。

 寝て休むならわかるけど、勉強は休みなのか?

 俺には考えてもわからんことだが、たぶんセレの中では入るんだろうな。

 俺なら一日中寝てるけどな。



『――あ、もう書けなくなっちまった』

「うん? ……うわ、文字小さ……よくもまあそんなびっしり書けたな」

『全然書き足りないぜ。まだ曲芸のこと一個も書けてないからな!』

「頑張れ」

『おう!』


 日記、なかなか難しいじゃねえか。

 次こそは紙一枚に収めてやるぜ。

  


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