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七黒星の巨獣狩り  作者: 若狭義
駆け出し狩猟者
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21. “根啜蟲の女王”の調査3

《デアナの()()の地図があるなら見せてほしい》



 フローラリアに尋ねたところ、「地下、ですか。デアナの地下には地下用水路と下水処理施設がありますね」と返ってきた。

 この世界には魔導具という非常に便利なものがあるが、絶えることのない水源や下水処理のための設備を個人で賄うのはさすがに無理なようで、インフラの整備は公共で行っているらしい。個人で飲水を生み出せるだけでも大したものだが。


 ギルドの資料室から持って来てもらったそれを見ると、地下用水路のさらに下、大層立派な構造物がデアナの地下にはあるらしい――つまり、その構造物の深さまでは“人の手”が入っているということになる。


「仮に女王が農園の多い北西エリア近くにいるとして――私はここ数日、北西エリアをあちこち歩いたが、女王らしき気配は感じたことがなかった。だから女王は“感知範囲より地下深くにいる”と考えた」

「セレはどれくらいまでわかるの?」

「平時だと、地下へはせいぜい2、30メー……メットってとこだな。で、フローラリアに聞いた話では地下用水路はそれほど深い場所にある訳じゃない。それならそのさらに下、下水処理施設をあたった方がいいと思ったのがまず一つ」

「30……ここに来た理由は理解したわ」

「他にも引っかかることがあった――いや、こっちが本題だな。農園の依頼主達の話では、根啜蟲(イビル・イータ)の数が増えたのはここ数か月の話らしい。魔導具の柵を越えてくる奴が増えたんだと」



《今までは大した被害がなかったのに――》



 魔導具である柵を設置し、しっかり害獣対策をしていた農園であるほど聞いた言葉である。ある時期を境に、よく畑に現れるようになったのだと。


「数匹が紛れ込むくらいは今までもよくあった話らしい。でも、急に手に負えないほどの根啜蟲(イビル・イータ)があちこちの農園で出てきた。しかも普通よりぶくぶく肥えて大層立派なんだとさ」

「ぶくぶく肥える……それって、魔草を食べたからじゃないの?」

「それだと順序がおかしい、もともと柵で防げてたんだからな。そうなる前、ここ数か月で急に力をつけたんだろう――産み出した兵隊(オス)が、()()()()()()()()()()から畑に入ってくるくらい、強くなった程度には」

「――うわあ……」

「そしたら、その“魔草以外の養分”はどこから調達したのかって話になるだろ? ――根啜蟲(イビル・イータ)は、主に魔草の()()を養分にするらしいな」


 根啜蟲(イビル・イータ)に関わらず、魔物などの魔力のある生物は“高い魔力”を優先して襲う――そう聞いたのはつい一週間ほど前、デアナに足を踏み入れた日のことだ。

 デアナの生活用水が創られるのは地上だ。地下用水路はあくまでそれを届ける通路なので、水流管理の魔導設備などはあるだろうが、下水処理施設より大規模ということはないだろう。


 そして、過去最大サイズの女王が発見されたという“魔素溜まり”とは、文字通り“魔素の溜まる場所”である。

 魔物は魔素の濃い場所ほど強力な個体が多いという。魔素と魔力は性質が近いので、魔素溜まりは魔力を糧とする魔物にとっては非常に肥沃な環境なのだ――そして、その魔素溜まりという特殊な環境と似た()()が、今のデアナの町の中にも存在する可能性がある、ということになる。


「デアナの地下には“人の手”が入ってる――立派な魔導設備が山ほどあるよな」

「ねえセレ、私いやーな予感するんだけど」

「大掛かりな魔導具は動力に魔石を利用するって話だよな。こんだけでかい魔導設備の魔石ってどんな大きさなんだろうな」


 大型の魔導設備が稼働するさまを眺める。あれはゴミを固めているのだろうか。隣の魔導設備から流れてきた塊がみるみる縮んでいく。

 “最悪を想定して動く”――巨獣狩りとして、人処が近い場所では特にそれが求められる。この場所に女王がいないのに越したことはない。むしろそうであってほしい、嫌な推測は外れるに限るのだ。


 魔導具は大型になるほど、消費する魔力を補うために魔石を必要とする――“小型生水(せいすい)器”という魔導具を見ていた時に魔導具店の店員が教えてくれたことだ。

 その水筒型の魔導具は魔力を流せば飲水が湧き出るというもので、飲水に耐えうる水を生成できる魔術士でもない限り大活躍間違いなし、という触れ込みだった。実際人気の品であるらしい。


 エナが飲水レベルの水を創れるので必要はなかったが、単純に物珍しくて仕組みが気になった。尋ねてみると、なにやらいろいろな魔術が重ねがけされているらしい。日用品サイズの魔導具は大体そうだという。魔術を“付与”し、複数の効果を重ねがけするのだと。

 動力はどうなっているのかと聞くと、日用品サイズの魔導具であれば“大気中の魔素を魔力に変換し、動力にする”効果や、“流された魔力を動力にする”効果が付与されているらしい――そして、それでは追いつかないほど大型だったり、付与が何十とされた複雑な魔導具は、動力に魔石を使うことが多いのだと。


「魔導設備……魔導具――まっ、魔石? まさか魔石の魔力を!? でっでも、職員さんの話では、しっかり管理されてるって話でしょう?」

「だからあくまで“確認”だ、異常がないことのな。もし今言った推測が事実だったら――今にも魔導設備がえらいことになって、下水が地上に……みたいなことになりかねないしな」

「うえぇ、それやだぁー……」

「ここに一番に来たのはあくまで確認だが――魔物が街中にいる可能性がある以上、どっちにせよ誰かが確認する必要はあるだろう。ここは“何かあったら困る施設”でも上位だろうしな」

「――――! ……確かに、そうね」


 エナ達がこちらに向かってくるのが見えた。どうやら設備を一通り見て回ったようだ。

 こちらもあらかた確認を終えた。巨大ろ過設備では特に異常は見られなかった。一番重要な設備が無事で何よりである。


 次は“第一浄水設備”だ。まだまだ道のりは長い、一つ一つ可能性を潰していかねばならない。


「まあ、構造図を見る限りだと北西エリアに設備はなさそうだし、軽い点検みたいなもんだな。北西エリア以外の地下の浅いところにいる可能性ももちろんある。そう祈っとこう」

「あぁーん森の神様ぁ、どうか全部無事に終わって飲み会させてくださーい、私は今日女子会がしたいでーす」

「ヌッ」「ヌフ」「ヌ?」「ヌヌ」「ヌン」

「……神も見放しそうな祈りだな」



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