第2話 名前
驚いた表情で彼女は振り向いた。
「私に何か用ですか?」
「あっあの……」
少年はいざ話そうとした瞬間どう話していいか分からなくなった。不思議な町に来たとでも言っていいものなのか。
相手は凄く美人、カッコつけていたかったな……
そんなくだらないことを考えつつも、用件を口にした。
「ここってどこ…ですか?」
笑われてしまうかな?
「ここはランウィスタです。」
「へっ?」
あまりにも平然な反応に変な声が出てしまった。
「何か間違ってますか?」
「いやっ、間違ってません!急にここどこ!なんて聞いたから、不審に思われるかなって思ったんだ。」
少年は慌ててそう彼女に言った。
「…………。」
「…………。」
そしてつかの間の沈黙。少年は何を話していいか分からなくなっていた。すると、彼女は口を開いて、
「少しお話をしませんか?」
そう言ってくれた。
* * * * * * * *
「気がついたらここにいた?」
少年は事情話した。彼女は真剣に悩んでくれているようだ。
「貴方の服は見たことありません。どこから来たのですか?」
自分の服を見てみると普通に制服。逆に俺からしたら彼女の服をの方が気になった。
「俺はリゼハから来ました。高校生だから、制服を来てるんです。じゃあ貴方はどうして袴なんですか?」
桃色の着物に紺色の袴の彼女は、とても和風な印象で、他の人の服装とは違っていた。
「これは、私の制服のようなものです。魔法学園に通っているので。」
「魔法っ!?」
ついに魔法まで出てきたか!!!!
少年はそう思った。
じゃあここは、異世界とかそういう空間なのか?
「私にとっては、ここは普通の世界で貴方の世界が異世界に感じます。魔法で驚くし、リゼハっていう町は聞いたこともありません。」
どうやら口に出ていたようで、彼女は少し困った顔をした。
困らせたかな?と少年は心配すると、急に彼女は立ち上がった。
「今はどうしていいか分からないけど、いつかきっと見つかります。だから、それまでこの町にいればいいです!」
きっと帰れますよ。
ただ俺を安心させるために言っただけの、気休めの言葉かもしれない。
それでも俺にはとても嬉しい言葉だった。
「私は、フリージアです。貴方の名前は?」
「俺は……」
名前を言おうとした瞬間、俺は止まった。
あれっ?
自分の名前が一瞬思い出せなかったからだ。
再び少年は口を開いた。
「俺の名前はレン。よろしくな!」
「レンですか、いい名前ですね。」
「フリージア行くよー。」
誰かが、フリージアを呼んだ。
「あっ!じゃあ私は行かないと行けないから、何かあったら、これを誰かに見せて下さい。」
フリージアは何かを紙に書いて、レンに渡した。
「それじゃあ、また貴方の世界のお話聞かせて下さいね。」
手を振って去る彼女にレンは
「ありがとうっ!!」
心からの感謝を込めて言った。知らない人にここまでしてくれる人はなかなかいないだろう。
フリージアが見えなくなると、レンは一息ついた。
「よしっ!それじゃあとりあえず町でも回ってみるか。」
レンは歩きだした。
レンはしばらく歩いていると、声をかけられた。
「さっきのお兄ちゃんだ!」
声をかけてきたのは、さっきの小さな少女だった。
「おう。何か用か?」
小さな少女は首を傾げキョトンとしていた。
「どうしてそんな変な格好してるの?」
いやいや、俺からしたら君の方がよっぽど変だよ!
レンはそんなことを考えながら、口を開いた。
「じゃあ君はどうしてその格好なの?」
少し意地悪かな?
レンは少女の目の高さまでかがみ、優しい口調で聞いた。
「うーん。どうしてかなー?」
幼い頭で精一杯考えているようで、何と答えるのか気になった。
あっ!と少女は何かを思いついたようだ。
「生きてるから!!」
答えが正しいかどうかは微妙だが、少女が精一杯考えた答えなのだから、レンは、気にしないことにした。
「そっか。可愛い服だね。」
薄い紫の生地にレースがつき、胸元にはリボンがあり、フワフワしているためドレスに近いワンピースのようだ。
一言でいうなら、妖精といったところだろうか。
髪の毛の色が綺麗な金色のためか、可愛らしい雰囲気を出している。
「お兄ちゃんは、さっきのお姉ちゃんと知り合いなの?」
「いいや、さっき初めてあったんだ。」
そっかーと少女は残念な表情をした。
「お姉ちゃんにまた会えるかな。」
どうやらフリージアに好いているようだった。
「今のお洋服も好きだけど、お姉ちゃんみたいなのも着たいの!」
「魔法学園に入りたいってこと?」
すると少女はまたキョトンとしてしまった。
あぁそうか、この子は袴が着たいだけか。
「どうすればお姉ちゃんみたいになれるのか、聞けばよかったなー。」
「今度会った時に聞けばいいんじゃないか?」
すると少女は迷いなく言った。
「お姉ちゃんはきっと遠い人だから。」
「それってどうい…「アヤメー!帰るわよ!」
今日はよく遮られるな…。
「あっ!ママ!じゃあお兄ちゃんまたねー!」
バイバイと手を振って去りたいところだが、日も暮れかけている今、このまま去ることは出来ない。
「あの!すいません!」
レンは少女の母親に声をかけた。
「はい、何でしょう?」
無茶ぶりなことくらい分かっていた。しかし、他に頼りがない以上、聞いてみるしかない。
「しばらくの間、家に住まわせて貰えませんか!!」
レンは、おもいきり頭を下げて言った。
「俺には今、頼れる人がいません!」
母親はきっと困った顔をしているに違いない。
「頭をあげて下さい。」
レンは頭をあげて、母親と目を合わせた。
「あなたが困っているのは伝わりました。」
「じゃあ……」
「でも、お断りします。」
当たり前かだなとレンは思った。
「ランウィスタにも物騒な人達はいますし、うちには、主人はいません。それにアヤメがいますから、見ず知らずの信用出来ない人を住まわせるわけにはいきません。」
一人の子供を持つ母親として当然のことを言われただけなのでレンも食い下がるつもりはなかった。
「当たり前ですよね。変なこと言ってすいません。」
苦笑いをしながら言うと服の裾を誰かに引っ張られた。
「お兄ちゃん!さっきのお姉ちゃんから何の紙貰ったのー?」
少し目線を下げると、裾を引っ張っていたのはアヤメ?だった。
「あの…これ。」
レンはフリージアの言っていたことを思い出し、渡された紙を母親に渡してみた。
母親は紙を受け取り、レンは母親が読み終わるのを待った。
「…………、わかりました。貴方を信じます。」
「えっ?いいんですか?」
「えぇ。でも、怪しく思ったら、すぐに追い出しますよ!」
そういいつつも、母親の顔は少し笑顔だった。
「ありがとうございます!!」
よかったーと安心感が心の中を埋め尽くす。
「よかったね!お兄ちゃんっ!」
「君もありがとう。」
「私はアヤメ!」
「俺はレン。よろしくなアヤメ!」
アヤメはとびっきりの笑顔を見せてくれた。
どうして受け入れてくれたのか、紙に何が書かれていたのか、気にならないわけじゃない。
「それじゃあ帰りましょう。」
「あっ!はい!」
「はーい♪」
アヤメの母親が歩き出したのと、きっとフリージアの好意だろうと思ったから、
敢えて聞かなかったんだ。