私はこの世界に生きている
完結は目指します
俺は馬鹿だ。
常に自分の本能が赴くままに行動し、後のことなんて考えた事すらない。
今回のことだってきっかけは何も考えずに白い子猫を助けたことだった。
蒸し暑い五月の雨に何処と無く気持ちを沈ませながら下校する俺は自転車に轢かれそうになった白い子猫を咄嗟に助けたのだ。自動車ではない、自転車だ。
俺は頭は悪いが運動神経には自信がある。それはもう華麗に子猫を助けた。周りに女の子が居たら確実に俺に惚れていただろう…何故ここにいないのだ…
そんな風に心の中で悔しさを抱えていた俺に子猫は話しかけてきたのだ。
「なんや自分めっちゃ勇気あるなあ!正直こんな簡単にすぐ勇者選べると思わんかったわ!!」
「関西弁…!?」
寡黙な俺もさすがに驚いた。そう、俺は寡黙なのだ。喋ると馬鹿がバレてしまう。
「何言うてるねん自分。ところで暇?暇やなくても取り敢えず連れてくけどな、ほな行くで〜!」
「えっ、ちょっ、何!?」
子猫の下に薄紫色の魔法陣が浮かび上がる。魔法陣は怪しげに煌めきながらジワリジワリと俺の方まで伸びてくる。
雨が降っているのに紋様は全く濡れてもいない。まるで其処だけが別の世界のようだった。
俺の本能が警告している、《逃げろ》と
「失礼しましたぁぁ!!!さようならぁぁぁ!!!!また会う日までさようならぁぁぁ!!!!やっぱり会いたくないさようならぁぁぁ!!!!」
走る走る走る!!ここから離れなくては!
足よもっと早く動け!もう俺は猫派ではない!!犬派になるのだ!!!
「って走ってたんですけどここ何処ですか?」
先ほどまでアスファルトの上を走っていたはずなのに今俺は黒い床の上に立っている。
辺りを見回せば目に入るのは黒い柱と光り輝く水晶玉だけだった。塵一つなく荘厳な雰囲気に満ちた部屋、というより神殿に居るようだ。気分はドラ◯クエ。
「ようこそ勇者様」
水晶玉が強く光を放ち、思わず目を瞑った俺が次に目を開いたとき
それはそれは美しい女が目の前に立っていた。
しっとりと輝く白銀の髪は腰元まであり、大きな潤みがちの瞳の虹彩は深い赤。
あどけないながら妖艶な顔つきで深いスリットの入ったドレスからスッと伸びた手足の肌はシミひとつなくきめ細かい。
何より胸が凄い、絶妙な大きさを保ちながらも華奢である。絶世の美女だ。
「いきなりお連れしてしまい申し訳ありませんでした、ですが此方も非常に急いでおりまして…
端的に申し上げさせていただきますね、勇者様にはある世界を浄化して頂きたいのです。」
「浄化…」
ゴキブリでもいるのかな…
「ええ。浄化です。勇者様には神に仇なす者どもを殺して頂きたいのです。」
そう言って女は優しく微笑んだ。