4話
そこからはとても早かった。パパはまるで魔法使いのように宇宙船を動かし、ガムテープを切り扉を開け、そして空気を入れ替えた。パパはさすがだ。
ちなみにママはというと、窓を突き破った衝撃で飛び起きたはいいけど、何も出来ずにあたふたしていた。
でも、カナちゃん達が部屋に突入したのは遅すぎた。女の子が自殺を図ってからここまでの時間は、生死の境をさまようには十分すぎる時間だった。
普通だったらこのまま死んじゃっていたんじゃないかな。でも今回はカナちゃんのパパがいる。
「うん、これなら何とか意識を取り戻すことはできそうだ。」
「パパほんと? ありがとう!」
「ああ、意識は……な。」
今回はパパにも完全に治療することが出来ないものがあった。命を助けることは出来たけど、大きな障害が残る事は確実だった。
パパのパソコンには、数週間後には女の子の目が見えなくなるだろうというデータが写っていた。『治療』の範囲ではどうにも出来ない後遺症だった。
「意識が回復するまでは6時間といったところだろうか。起きる前に帰るぞ。」
「……嫌。」
カナちゃんは反抗した。
「パパは平気なの? この子をこのまま放っておいて。この子、またきっと同じことを繰り返すわ。もし繰り返さなかったとしても、この子はすぐ目が見えなくなっちゃうのよ。このままには出来ないわ。」
「でも我々にはこれ以上の事は――」
「決めた。あたしこの子を協力者にするわ。」
カナちゃんは決心した。でもこれにはパパも猛反対。静観していたママもびっくり。
「あのな、お前、自分の使命を忘れたのか? もっと慎重に選ばなければならないってずっと言ってきたじゃないか。それなのに、こんな自分の命も大切にできない、活動している様子も観察できてない地球人を協力者に決めて、失敗したらどうするんだ!」
「パパは何のために科学者になったの? こんな弱くて悲しい子がいるのに救わないで逃げるの? あたしは嫌よ。あたしがこの子を助けるの。この子にはあたしが必要だわ。」
こうと決めたらてこでも聞かないカナちゃん。でも流石にここは親としても、科学者としても簡単に折れるわけにはいかない。家族会議は3時間にも及んだ。
結論から言うと、この彼女を協力者とすることになった。カナちゃんの全面勝利である。満足そうな顔をしているカナちゃんの後ろで、パパが泣いていたのは気付かなかったことにしてあげよう。
割れた窓ガラスも修復し、部屋の状態を元に戻した。
さぁ、あとは彼女が起きるのを待って話をするのみ。
彼女を説得するのはカナちゃんの仕事。
カナちゃんは、お母さんの用意してくれたお茶と芋けんぴを食べながら、その時が来るまで静かに待った。