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第三十八話

その頃のブレント。短いです。

シリアス回。暗く、黒いです。

ブレントがその屋敷に呼び出されたのは、朝も早い時間だった。

案内されたのは殺風景な小部屋。

椅子が何脚かあるだけで、テーブルさえない。

もちろん茶の一杯も出てこない。


しかしそれも仕方なかった。

ブレントは客ではないから。

王弟ベリー公爵の屋敷。

そこにいる時、自分は公爵以外には見えない透明人間だ。


ここに通されてからすでに数時間、時刻は昼に近い。

これほど待たせるなら、朝早くに呼び出すなという罵倒が浮かぶ。

いつかそれを言ってやったらすっきりするだろうが、今はその時ではない。


ブレントは冷めた目で自身の手を見つめた。


いつか。

この手は人を殺めるのだろう。


軍人になり他国との戦争でか、公爵の手先になり政敵を暗殺するのか、公爵から逃れるためにまたは利用する為に公爵やその部下を殺すのか、はたまた単なる喧嘩の末の凶行かもしれない。


どう転んでも自分は人を殺すだろう。


それが解放なのか、新たな呪縛なのかは分からない。

その日が来てほしいのか、ほしくないのか、それも分からない。


分かるのは、アデレイドが隣で笑っている現在いまが幸せであるという事。

今を守る為なら、自分は何でもするだろう。


カチャリ。

唐突に扉が開いた。

やっとこの退屈な時間が終わるのかと、扉を見たが、そこにいたのはいつもの陰気な執事ではなかった。


立っていたのは二十代半ばほどの小太りな男。

母親譲りの長い金の巻毛、青白い肌。

夜会にでも出席するのかと言いたくなるほど豪奢な服、むくんだ指には大きな宝石のついた指輪がはまっている。

公爵の書類上のたった一人の息子。

母親に甘やかされた腹違いの兄ーールイスは、ブレントに目をやり、顔をしかめた。

ブレントが立ち上がると、見下ろす格好になる。

それも気に入らないのか、ますます顔をしかめた。


「いい気になるな。

お前などに何の価値もない!

お前は父上となんの関係もないのだ!

もし私を脅かすような真似をしてみろ!

すぐに亡き者にしてやる!」


一気にまくし立て、ルイスは去って行った。


ブレントは乱暴に閉じられた扉を訝しげに見つめる。


ルイスは今までブレントに声をかけたことはない。

関心などもなかった筈だ。

それがわざわざ自ら出向いて忠告をよこすとは。

誰かに何かを言われたか、状況が変わったか、どちらにせよブレントを意識し始めたという事だ。


面倒な事だと、ブレントは嘆息した。

敵意を向けるのはいいが、下手に動かれると、ブレントもそれ相応の対応をしなければならなくなる。

ブレントの力を公爵に知られ、有用、もしくは害だと判断されたら、今のままではいられなくなる。


公爵側につくか、敵対するか。

その選択を迫られるだろう。


「しかし、あれがこの国の王位継承権第三位か」


ブレントはルイスの去った扉を呆れた目で見つめる。

王位継承権は、王太子が一位、王弟である公爵が二位で、その息子のルイスが三位だ。

次代の王である王太子は、幼い頃から病弱で式典以外は姿を見せない。

あまり長くは生きられないだろうとの噂だった。


「病弱が聞いて呆れる」


ブレントはどかっと音を立てて椅子に座り、腕を組んだ。


ブレントは王太子に会ったことはない。

だが、王太子らしき人物には最近毎日会っている。


(暗殺を逃れるために病弱と公表し、本人は正体を隠して学園で堂々と生活しているとはな)


ブレントにも確証があるわけではない。

だがその可能性に気付いてからは、色々と気になりだした。


いつもは子供っぽく、わがままなエロ少年なのだが、たまにとても冷静で落ち着き払った対応をする。

前にブレントとグレアムの言い争いを止めた事があるが、その時の彼はいつもとは全く違った。

重い口調の中に、静かな怒りを含み、ブレントとグレアムに諭す様な事を言ったのだ。


彼は、グレアムの事を『カーヴェル』と家名で呼び捨てた。

まるで臣下を呼ぶように。


アデレイドの事を本気で想い、ブレントとグレアムの行いに本気で腹を立てたからこそ出た言葉、態度。

それは彼にとって大きな失敗だった。


ブレントは口の端をあげて、笑みを浮かべる。


この屋敷にいるのは、王になりたい野心家の公爵。

王太子を見つけたらどうする?


アデレイドにひっついている邪魔な少年は姿を消すだろうか?





お読みいただきありがとうございます。

雰囲気重視の為、説明を結構省きました。

貴族の子弟が集まる学園で、王太子が顔を晒していてばれない何て事ある?などなどは後で。魔法がある世界って色々と便利だと思います。

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