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第三十六話

「あれ? アディ、どうしたの? ドレスは?」


アデレイドはジャスティン達が待っている個室のドアを開け、中を覗いた。

中にいたのはジャスティンとカーヴェル家の従僕のサムだけで、グレアムはいなかった。

アデレイドは安堵し、中に入る。


「ジャス、お待たせ。

ドレスは着させてもらったわ。

桃色のふわふわのドレス。

可愛いドレスが着れて楽しかった」

「え、うそ。もう終わり?」


アデレイドの今の格好はいつもの紺色のワンピース。

きちんとカツラ、眼鏡もかけて元通りだ。


「なんで! 僕、アディのドレス姿見たかったのに!

楽しみにしてたのに〜!」


ジャスティンは立ち上がり、地団駄を踏んで悔しがる。


「どうして着た時に呼んでくれないの!」

「別に見せるものでもないし」

「僕は見たかった〜。

ラナも、なんでアディを止めなかったんだよ」


ジャスティンの顔がラナに向く。

ラナは困ったように、眉を寄せた。


「わたくしもドレス姿をジャスティン様やグレアム様にお見せするべきと申し上げたのですが、アデレイドお嬢様がどうしても嫌だと仰られたので」


ラナが痛ましげな目を向ける。

先ほど小部屋でドレスを着た時に散々説得されたが、アデレイドはついに首を縦に振らなかったのだ。

なぜなら。

下着姿を見られた挙句その事を大声で叫ばれた後に、ドレス姿可愛いでしょう? なんて披露できるわけがない。

今日の事はさっさと忘れるべし。

そもそも今日はキャロラインと話をする為に来たのであって、浮かれている場合ではなかったのだ。

グレアムに見られて、頭が沸騰した後冷めたアデレイドは、さっさと気持ちを切り替える事にした。

せっかくなので一着だけ着させてもらい、姿見を見て一人堪能したが。


「今日はドレスの為に来たわけじゃないでしょ。

だから、もういいの!」

「よくない〜!

アディのドレス姿見たかった!

アディ、もう一度着てきてよ!

今度は僕も一緒に行く」

「駄目に決まってるでしょう。

もう着ないの!」

「アディの意地悪〜!」


子供の喧嘩のようなやり取りに、ラナやサムから呆れたような視線を向けられた。

アデレイドは気を取り直す為に、こほんっと咳払いをした。


「ねえ、カーヴェル様はどうしたの?」

「グレアムさんなら追い出したよ。

覗きに行って真っ赤な顔してたから」

「・・・・」


アデレイドは何とも言えずに黙り込む。

その事はもうなかった事にしたい。記憶から消してほしい。


「罰として、アディのドレス姿を見せない事にしたけど、僕も見れないなんて。

僕、何もしてないのに。グレアムさんだけずるいー!

僕も覗きに行けばよかった!」

「あのね、ジャス」


アデレイドは眉間に寄りそうなシワを手でほぐす。

ちょいちょい出てくるジャスティンのセクハラ発言。

今日はちょっと流せない。


「ジャス、もうその事は言わないで。

忘れて、今すぐに」

「だってずるい」

「今度言ったら絶交だから」

「むー」


ジャスティンは口を膨らませたが、一応黙ってくれた。

よしよしと頭を撫でると、少し機嫌を直してくれたようでホッとする。


「もう行こうか。

カーヴェル様、外で待っているんでしょう?」

「どうかな?

アディにお詫びに何か買ってこーいって言って追い出したから、まだ戻ってないかも」

「えっ」

「あ、大丈夫だよ。

アディが気にしないぐらいの値段のやつにしなよって言っておいたから。

それと、アディはいつも紺色のワンピースだから明るい細工のブローチがいいんじゃないかなって助言しておいたよ」


明るい声で言うジャスティン。

多分、グレアムが考えるアデレイドが気にしない金額と実際に気にしない金額はものすごい隔たりがある。


「カーヴェル様はどこに買いに行ったの?」

「この階にいる筈だよ」


この階にあるもので、アデレイドが気にしない金額のものは一つもないと思う。

アデレイドは頭を抱えた。


「もう買っちゃったかしら? 止めなくちゃ」

「いいじゃないか、お詫びの品を買わせるぐらい。

本当なら、爵位継承権を放棄させて、遠方に飛ばしたいぐらいだよ。

僕の未来の奥さんの着替えを覗くなんて」


(誰が未来の奥さんだ)


アデレイドは心の中で突っ込んだ。

それと絶交決定。

ジャスティンは優しくすると、すぐに調子に乗る。

しばらく口をきくのをやめよう。


「お言葉ですが、ジャスティン様」


アデレイドがジャスティンを無視しようと決めると、横からラナが口を挟んだ。

ラナはジャスティンの前で、丁寧に頭を下げる。


「アデレイドお嬢様は、ジャスティン様の未来の奥方様と決まったわけではございません。

当家でもアデレイドお嬢様をお迎えする心積もりでおります」


(あー、あー、あー。

何も聞こえなーい。聞こえなーい)


アデレイドはラナの言葉を聞くのを放棄した。

とりあえず、グレアムにしっかりと釘を刺すのを忘れないようにして、後は全部聞かなかった事にする。

この二人はアデレイドの言う事を聞いてくれないから。


「グレアムさんにはあげないよ。

僕の奥さんだから」

「恐れながら、へい・・ジャスティン様のお父上様が許されないのではないですか?」

「アディなら大丈夫だよ。

全てはアディ次第。アディが望めば全てが叶うよ」

「では、アデレイドお嬢様がグレアム様を望まれたら?」

「アディは僕を選ぶよ、決まってるじゃないか」


ジャスティンとラナの間で火花が散る。

何となく話が変な方向に行っているが、アデレイドは気にしない事にした。

ジャスティンとラナの争いもどうせ今だけの事である。

アデレイドはサムの横に下がって、二人の争いを見守っていた。







お読みいただきありがとうございます。

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