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第三十二話

また遅くなってしまいました、すみません。

昨夜のダーレンの件は、ベイカーがその場にいた生徒に口止めをしたので、直接には何があったのかは知られていない。

だが、停学が解けたはずのダーレンが登校していない、部屋にも戻っていないという事で色々な憶測が流れている。

アデレイドが戻ってきたダーレンとまた揉め事を起こしたとか、今度は魅了して自分の思うように動かそうとしているなど、多少事実に近い事も流れている。


昨夜は、ダーレンを医務室に運んだ後、知らせを受けた副学園長ーーアデレイドの叔父のルパート・ベレスフォードに事情を話した。

その時はまだカーラの事は知らなかったので、アデレイドとダーレンの諍いが度を超えて、こんな事になった、という認識だった。

しかし、カーラが妖精の血を引き、その力を使って人を惑わせているというのなら、話は全く違ってくる。

これは学園長に相談するべきと思ったが、学園長は不在。しばらく帰ってこないらしい。


なので、アデレイドは副学園長に相談した。

副学園長は終始難しい顔をしていたが、彼は普段からいかめしい顔であまり感情が表に出ないので、どう思ったか分からない。




カーラやティモシー、ダーレンやデクスター、キャロラインの件など、アデレイドには解決していない問題が沢山ある。

しかし、その日の夜、アデレイドは新たな問題にぶち当たった。


「アデレイドさん、あなた夜会に出ないつもりなのですって?」

「! なぜそれを!?」


夕食後の談話室で、アデレイドは副寮長リネットに夜会の事を問われ、ついうっかり素直に驚いてしまった。

しまった、と思った時にはすでに遅く、リネットはすっと目を細めた。


「アデレイドさん、今まであなたの事は学年代表に任せていたけれど、これからはそうはいきません。

あなたは生活態度や学園での態度に問題があるわ。

これからは私の監視下にいてもらいます。

部屋も私の部屋に移りなさい。

あなたのたるんだ根性を直してあげますから」


一息で言われた内容に、アデレイドは目を見開く。

学年代表というのは、アデレイドの学年ではダーレンだ。

ダーレンが今はそれどころではないから他に任せるというのは分かるが、なぜわざわざ部屋を移動してまでリネットの監視下に?

そこまで考えて、ある考えに辿り着く。

もしかして、リネットはアデレイドの事を心配して部屋を移って来いと言っているのではないだろうか。

副寮長のリネットの監視下にいては、少なくとも寮内ではアデレイドに何かしようとは思わないだろう。


「ええっと」

「反論は許しません。今日から私と同室です。

いいわね」


寮生が多くいる談話室では、その真意を問う事は出来ない。

アデレイドは素直に頷いた。

一瞬リネットが微笑みを浮かべる。

アデレイドもつられて笑いそうになったが、すぐに表情を引き締めたリネットからアデレイドのサボり癖などを細かく指摘されて泣きそうになった。

夜会に出る事をアデレイドに約束させ、小言は一応の収束を見せた。

リネットと同室では仮病も使えそうにない。

アデレイドは夜会に出るしかないと腹をくくった。


リネットの小言から解放されたアデレイドは、機嫌良く笑うジャスティンに迎えられた。


「アディ! 夜会に出る事になったね!」

「・・・」


一瞬、アデレイドが夜会に出ない事を告げ口したのはジャスティンか、と思ったが、こんな真似をするのはタイミング的にもケイシーだろう。

ケイシーは、本気でジャスティンに賭け替えて、勝ちに行く気らしい。


「ジャス、夜会に出る事になったんだけど・・」

「うん! 嬉しいよ! アディ、いっぱい踊ろうね!

楽しみだなー!」


満面の笑みで喜びを表すジャスティン。

続きを言い辛い。


「あのね、ジャス。

私と夜会に行くのはやめた方がいいと思うの」

「なんで?」

「私といると嫌な思いをすると思うのよ。

今だって色々言われているし、それに・・」


ジャスティンはアデレイドの手を取り、ぎゅっと握りしめた。


「僕はそんな事は気にしないよ。アディと一緒にいたいからいるんだ」

「ありがとう、でも・・」

「それに、覚えてるよね。

僕をパートナーにするって約束を破ったら、僕の言う事をなんでも聞くって話」

「・・・?」


そんな話があったただろうかと首を傾げると、ジャスティンは不機嫌そうに顔を顰めた。


「覚えてないの? アディ」

「えーと、いつの話?」

「僕をパートナーにしてくれるって約束した時に一緒に話したよ!

忘れたの!?」

「えーと、あー、思い出した」


パートナーにしなかったら何でも言う事を聞くと、確かにそんな会話をした。

森で約束をしてからそれほど日にちは立ってないのだが、ここ数日色々な事があり過ぎてすっかり忘れていた。


「ひどいっ! アディ、忘れてたなんて!

パートナーの約束を破ったら、僕の言う事をなんでも聞くんだからね。

約束を破ったら、僕はどんな無理難題を吹っかけるか分からないよ」

「ごめんごめん。思い出したからそう怒らないで」

「むー」


ジャスティンは頬を膨らませる。

拗ねた様子が大変可愛らしい。


しかし、困った。

別にジャスティンをパートナーにする事が嫌なのではないが、ただでさえ色々言われている上に、ドレスではなく制服であるローブで出席したら間違いなく嘲笑されるだろう。

ジャスティンを巻き込みたくない。


「うーん」

「何で困ってるの? 僕をパートナーから外す方法を考えてる? 僕じゃ役不足?」


口を尖らすジャスティンに、アデレイドは笑顔を向けた。


「そうじゃないの。

夜会に出るつもりがなかったからドレスを用意してないの。

だからローブで行く事になるけど、ジャスはパートナーがローブじゃ嫌でしょ?」

「用意してないの? 今から仕立てるんじゃ間に合わないかな」

「間に合わないと思うわ」


そんなお金もないし、と心の中で呟く。

本当は随分前に、母親からドレスを仕立てる為の金を、副学園長経由で渡されたのだが、その日のうちに全て返してしまった。

ドレスなんて仕立てるより、その金は弟妹の為に使って欲しい。


アデレイドには兄弟姉妹が現在八人いる。

ただでさえお金がかかるのに、アデレイドの父親はふわふわふらふらした性格で金勘定という感覚がない。

アデレイドが家にいた頃から、駄目親父が方々で作る借金の取り立てが、家に来ていた。

母親曰く、ぎりぎり払えるぐらいの絶妙な借金具合がむしろすごい、との事だった。


「じゃあさ、明日ちょうど休みだし買いに行こうよ。

アロウズにならいいのがあるんじゃない?」

「アロウズね」


アロウズというのは王都中心部にある店で、食料品から洋服、宝石まで揃うというとても大きな店である。

アデレイドも一度行った事があるが、色々な物があって面白かった。


ただドレスを買うとなるといくらぐらいかかるのか分からない。

今、手元に持っている金で足りるのか。絶対に足りないと思う。


「お金がないから無理」


はっきり言うと、ジャスティンは首を傾げる。


「お金がないの?」

「ないの」

「今なくても、後で家の人に払ってもらえばいいんじゃない?」


アデレイドは苦笑した。

ジャスティンの家ーーボラン家というのは爵位のある家ではないようだが、多分上位貴族に縁のある裕福な家だ。

ジャスティンは言葉使いは子供っぽくて少し粗野だが、振る舞いがとても綺麗だ。

赤の寮の上位貴族の集まるサロンに出入りし、グレアムやキャロラインと普通に話すのもそういう事だろう。

だから、アデレイドの言うお金がないという意味が伝わらなかったようだ。


「違うの。後で払うお金もないの」


ジャスティンはキョトンとした顔をした。

しかしすぐに理解したらしく、少し考えるといい事を思いついたとばかりに顔を輝かせる。


「じゃあグレアムさんに出してもらおう」

「カーヴェル様に?」

「うん。明日グレアムさんにも付いてきてもらえばいいね。

その方が色々都合もいいし。グレーー」

「ちょっと待って」


グレアムを呼ぼうとするジャスティンを慌てて止める。


「勝手に決めないの!

私はカーヴェル様にお金を出してもらうつもりはないわよ」

「えー、いいじゃないか。

グレアムさん、アディに謝りたいって言ってるし。

謝罪は受けないにしても、これくらいさせてあげてよ。

グレアムさん落ち込んでるよ?」

「それとこれとは別!

それにドレスを買ってもらうなんて、これくらいの事ですまないでしょ。

私はローブで行くわよ。ジャスが一緒にいるのが嫌ならいなくてもいいし」

「一緒にいるのは嫌にはならないけど、せっかくの夜会なんだよ?

僕、アディが着飾った姿が見たいなー。

グレアムさんが嫌なら僕が出すよ。

それならいいでしょ?」


ジャスティンは可愛らしく首を傾げる。

しかしアデレイドの中ではそれも受け入れられる事ではない。


「それも駄目。

ジャスティンにドレスを買わせることなんて出来ないわよ」

「何で? アディは僕のパートナーだし、僕がアディの着飾った姿を見たいんだ。

僕の我が儘を聞いてよ」


アデレイドは渋面で黙り込む。


ジャスティンに、『魅了されてる人からの贈り物は受け取らないようにしている』と言って納得するだろうか?

魅了された人はその時はアデレイドに贈り物をしたいと思っても、後でその気持ちはなくなる。

下手に物を貰うと後々揉めるのだ。

だが、それをそのまま言ったらまたジャスティンを傷付ける。


アデレイドはかぶりを振った。


「とにかく駄目。

ドレスは買わない。ローブで行く。

それが嫌ならパートナーは解消」

「パートナーを解消するならアディは僕の言う事を何でも聞くんだよ。

僕は、僕の用意したドレスを着て夜会で踊って、そのまま教会に行って結婚してって言うからね」

「無茶を言わないの」

「だって、アディが頑固なんだもん」


ジャスティンはまた拗ねたように頬を膨らませた。





お読みいただきありがとうございます。


最近暑いですね、体調を崩されないよう休み休み頑張りましょー。

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