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第三十話

また遅くて申し訳ございません。

落ちた沈黙を破ったのはブレントだった。


「アデル、果実水のお代わりいるか?」

「あ、うん。ありがとう」


グラスを正面にいるブレントに渡すと、ブレントはオレンジの果実水を注いでくれた。

受け取って一口飲む。

瓶に保冷の魔法陣が描かれているから、果実水は冷たくて美味しい。

甘いけれど、酸味のあるすっきりとした味。

アデレイドは緊張を解くように息を吐いた。


「アデル、カーラ・ギブリングの目的はまだ分からない」


アデレイドの緊張が解けたのを見計らいブレントが口を開く。


「アデルを貶めようとしているのがカーラ・ギブリングだと昨日分かったばかりだからな。

目的が分からない以上、あの女が何をしてくるのかも分からない。

探ってみるから、アデルは下手な事はするなよ」

「分かった。カーラには注意する」

「話をせず、近くにも寄るな。

もし遭遇したら、言葉少なに躱せよ。それとな」


先ほどのグレアムの謝罪などなかったかのように話を進めるブレント。

難しい顔をしているグレアムを気にかけつつ、ブレントの話を聞く。


「寮の治癒士のティモシー・ダルトン。奴にも関わるな」


いきなり出てきたティモシーの名に、アデレイドは眉を顰めた。


アデレイドは昨日学園長から、ティモシーから貰った薬に入っていた草について聞いた。

それは麻薬で、依存性のある危険なものだという。

昨日の物凄い味の緑の薬と学園長の浄化の魔法で、すでにアデレイドの体内からは排除されている。


ティモシーがアデレイドにくれた頭痛薬に麻薬が混ざっていたのは故意か過失かは分からない。

だがもし、悪意を持って入れたのだとしたら?

ティモシーにも何らかの恨みを買っているのかも知れない。


「ジャスに聞いたの? 麻薬の事」

「ああ」


ブレントは不機嫌な低い声だ。


「奴を捕まえてドラゴンの餌にでもしようと思ったが、奴は他にも関わっていそうだからな。

今は様子を見ている」

「ドラゴンの餌・・」


アデレイドはブレントの物騒な言葉が気になったが、ジャスティンはそこは気にならなかったらしい。


「他? 他って何? 昨日ティモシーの話をしていた時は何も言わなかったよね。

何か心当たりがあるの?」

「まあな。ティモシー・ダルトンはカーラ・ギブリングと親しい関係だ。

人気のない廊下で抱き合うぐらいにはな」

「!」


アデレイドは驚いて、コップをぎゅっと握る。


「なぜオールディスはそれを知っている?

昨日、言わなかったのはなぜだ?」


咎めるようなグレアムにブレントは軽く肩を竦めた。


「君らと別れた後に思い出した事だからな。

ティモシー・ダルトンやカーラ・ギブリングの事は、今まで気にも留めていなかったんだ。

すぐに思い出せる訳もない」

「奴らは何を話していたのだ?」

「さあな。会っているのは二回見たが、話している内容は知らない。

ああ、そもそも話なんてしていなかったな。

口と口が塞がっていたんだ」


(口と口って・・・、キスをしていたって事!?)


ブレントの遠回しな表現に気付いて、アデレイドは顔を赤らめる。

グレアムはわざとらしく咳をした。


「人気のない廊下と言ったな。

貴様はなぜそれを見たんだ、二回も」

「なぜと言われてもたまたまだ。

奴らは頻繁に会って、そういう事をしているんじゃないか?

あの様子じゃキスだけで終わるとは思えないしな」

「なっ・・」


グレアムは言葉を詰まらせる。アデレイドは俯いた。


「貴様にはデリカシーという言葉はないのか!」


グレアムは顔を赤くして怒鳴った。


「奴らがどれぐらい親しいのか言っただけだ」

「そうだとしても、女性の前でする話ではないだろう!」


グレアムの言葉でブレントとジャスティンの視線がアデレイドに向く。

アデレイドはグレアムを罵りたくなった。

わざわざこっちに話を振るな馬鹿、と。


アデレイドはなんでもないように、顔を上げた。


「別に、私は平気よ。

カーラとティモシーさんが付き合ってるって事でしょ。

だから二人に気を付けろって事でしょ。

分かった、大丈夫。うん」

「だそうだ」


ブレントはグレアムに話を振った。

アデレイドは心の中でグレアムに念じる。


(頼むから、変な事を言わないでよ。

私の顔が赤いとか言ったらぶっ飛ばすから)


幸いな事に通じたようで、グレアムは何も言わなかった。

代わりに微妙な空気になったが、ジャスティンがそれを破った。


「僕はカーラがティモシー・ダルトンと付き合っているなんて聞いた事がないな。

人目のないところで会ってるって事は、身分差を気にしているか、疚しい事があるかだね」

「どっちだかは分からないが、どちらにしてもティモシー・ダルトンはカーラ・ギブリングとグルだな。

俺は最近アデルに起きた事は繋がっているんじゃないかと思う」


アデレイドはブレントの言葉に首を傾げる。


「どういう事? 最近起きた事って・・・。

もしかしてブレント、デクスターの件も二人に聞いた?」


ブレントとグレアムとジャスティンで、昨日話をしたと言っていたから、その話題が出てもおかしくはない。

ブレントにデクスターの件を、自分の口から言っていない事が気まずい。

何かあればすぐ言えと言われていたのに。


「ああ、聞いた。

だが俺も関係ないわけじゃなかった。

俺にもエイデンのように呼び出しの手紙が来たからな」

「え、ブレントにも?」

「ああ、図書室に呼び出されて行ってみたが、誰もいないし来なかった。

昨日カーヴェルから話を聞いたが、時間的に俺が行ったのはお前達が図書館を出た後だ。

もっと早く行っていれば、俺がアデルを守ってやったのにな」


ブレントの声には後悔が滲んでいた。


「ブレント、気にしないで。

別に何もなかったから」

「アデルは薬で眠らされたと聞いた」

「あ、うん。そうだけど、寝ちゃう前にちゃんと反撃しておいたから大丈夫。

気絶したのは向こうが先」


明るく言うと、ブレントの眉間に皺が寄った。


「無理に明るく言うな」

「別に無理してない。済んだことだもの」

「・・・」


ブレントは何か言いかけたが、それは飲み込んだようだ。

アデレイドはブレントの気遣いに感謝する。

今、あの時の事を慰められても何も言えないし、話も進まない。


「アデルはデクスター・ディラックの件、詳細は聞いているか?」

「聞いてる。ディラックはダーレンに唆されたんでしょ」


学園長がデクスターに聞いたところによると、アデレイドに会いたいけれど面と向かって会えない恥ずかしがり屋のデクスターはダーレンに色々吹き込まれたらしい。

アデレイドは顔のいい男を揃えてハーレムを作るつもりだ、とか。

デクスターの意気地のない所を笑ってる、とか。


アデレイドはあの日以来、デクスターに会っていない。

アデレイドの調子が悪かったここ数日の間に、デクスターは実家に帰ってしまった。

自分でデクスターに問いただすと言っていた癖に情けない結果だ。


「ダーレンにそそのかされて、友人に焚き付けられて、ついやってしまったんだって言っていたそうよ」

「ついやってしまったという割には計画的犯行だな」

「そうね。誰も知らないはずのブレントと私の合図を使って呼び出したり、睡眠薬を用意したりしてたものね」


様々な要因の所為で犯行に及んでしまったデクスター。

アデレイドはまだ、彼にどういう感情を向ければいいのか分からなかった。

襲おうとした事に嫌悪し憤ればいいのか、そこまで追い詰めてしまった事を謝ればいいのか。

今は答えは出ない。

デクスターに会って話をしてから考えようと思う。


「ディラックは私を呼び出すのに、ブレントと私の合図を使ったの。

実際に青い鳥を放ったのはディラックの友人なんだけど、その友人は誰かに手紙で呼び出されて、合図の鳥の事を教えてもらったんだって。

相手は隠れていたから、誰だか分からないって」

「怪しいな」

「何でその人は合図の鳥の事を知っていたのかしら」


青い鳥の合図は頻繁に使っていたわけではない。

ブレントが用事がある時にたまに使うだけだ

ブレントは腕を組み難しい顔をした。


「この間俺が使った合図を誰かに見られたか、もっと前から知っていたか。

偶然に見たのか、それとも俺かアデレイドを見張っている奴がいるのか。

今の時点ではどうにも言い切れないな。

ただ、俺にも手紙が来たって事は、青の寮の人間が関わっているって事だからな。

この件に関わっているのは思っているより多いかも知れない」

「・・・ねえ、オールディスは何で最近の出来事が繋がっていると思うの?

聞いていると何も分かっていないじゃないか」


ジャスティンが疑問を口にする。ブレントは肩を竦めた。


「デクスターの友人に合図を教えた人間は分からない。

俺が繋がっていると思う理由は、デクスター・ディラックはダーレン・ギブリングに唆された。

なら、ダーレン・ギブリングは誰に唆されているって事だ」

「・・・カーラって事?」


アデレイドの言葉にブレントは頷く。


「そうだ。デクスターの件にもカーラ・ギブリングが関わっているんじゃないかと思う」

「ダーレンの独断って事はないの?」

「ダーレン・ギブリングはそれほど頭が回るとは思えないし、奴の為に裏で動く人物がいるとも思えない。

青の寮の奴が関わっているとなると余計にな。

ダーレン・ギブリングは、青の寮では鼻持ちならない嫌味な馬鹿と言われているから協力する奴なんていないだろ。

カーラ・ギブリングに、いい様に持ち上げられて使われているんじゃないか?」

「・・・・」


ダーレンは青の寮では鼻持ちならない嫌味な馬鹿と言われているのか。

否定できない。アデレイドもダーレンは嫌味な馬鹿男だと思っている。


(ああ、でも・・)


アデレイドはちらっとグレアムを見る。

グレアムもカーラに唆されてかなり馬鹿な事を言っていたから、ダーレンもカーラの力から逃れられたら、変わるのかも知れない。


「それにダーレン・ギブリングが計画したのならクロウロウは使わないだろう。

デクスター・ディラックも同じだ。

ほとんどの貴族にとって、薬と言ったら魔法薬だからな」


アデレイドに使われたのが魔法薬であれば、アデレイドの無効化の力で打ち消され、効かなかった。

だが使われたのは魔法薬ではなかった為、アデレイドは意識を失った。

もし、学園長から貰ったネックレスがなかったら・・・。


「わざわざクロウロウを手に入れて使ったんだ。

計画した奴はアデルをよく知る奴だ。

合図の事を知っていて、アデルの力の事もよく考えている」


そう言われるとぞっとする。

まるで悪意ある誰かが、じっと自分を見ているようだ。


「その人物がカーラとティモシー・ダルトン?

君の言い方だと他にもアディを見張っている奴がいそうだね」


ジャスティンの言葉にブレントは神妙に頷いた。


「カーラ・ギブリングに唆されて協力している奴か、全く別の奴かは分からないがな。

どちらにしろ、アデルを取り巻く状況はあまりよくない。

アデル、一人で出歩くなよ、絶対にだ」






お読みいただきありがとうございます。

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