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第二十七話

少し説明が多いです。

ダーレンは叫ぶなり、アデレイドへと向かって来ようとしたが、ベイカーに肩を捕まれ止められた。

激情を抑えようとしてか、肩で息をするダーレンからは、どう見ても謝罪という言葉は見えない。

むしろその口から出るのは悪口雑言だろう。


ダーレンとベイカーの元へローランドが向かう。

憎々しげなダーレンの視線はローランドの背に隠れ、見えなくなった。


「アディ。

ダーレンは冷静に話せる状態じゃないよ。

今日の所は部屋に戻ろう」


ジャスティンに諭され、アデレイドは口をキュッと締める。

ダーレンが謝るだろうとは思っていなかったが、こんなにも荒ぶっているとは思わなかった。

これでは三日前と同じ、いや、それ以上に激高している。

とても話し合いなど出来そうにない。


「アデレイド」


グレアムに呼ばれ、顔を上げる。


「明日、私達の話を聞いてからでも遅くない。

今日は部屋に戻りなさい。

君がどういう状況にいるのか、ちゃんと分かってから諸々の事を進めた方がいい」


(諸々の事?)


アデレイドの中に疑問が湧くが、明日話をしてくれるといっているのだからそれまで待てばいい。

アデレイドは頷き、女子寮への扉に向かう。とーー


「クローズ!! 待て!」


ダーレンの怒鳴り声。

それに続いて、ベイカーの慌てた声と誰かの息を飲む音が聞こえた。

女性徒の悲鳴とドタンという何かが倒れる音。

振り返ると、ダーレンがベイカーに組み伏せられているのが見えた。


「こんな所で魔法を使おうとするなど、何を考えている!」


ダーレンを抑え込むベイカーが鋭く怒鳴った。

しかしダーレンはベイカーの声を聞いている様子はなく、アデレイドを憎々し気に睨んでいる。

そのあまりの迫力に、後退りそうになった。

ダーレンの顔は真っ赤で、目も充血している。

倒れた時に切ったのか、口の端から血が流れている。


「クローズ! この売女め、人の涙を見て喜ぶ悪魔! 殺してやる!」


罵声を上げるダーレンの口からは唾とともに血も飛んだ。

ベイカーの押さえを何とか外そうと、ダーレンは暴れる。

常軌を逸したダーレンの様子に、アデレイドは目を離す事が出来なかった。


スッと視界に何かが入り込み、ダーレンが見えなくなる。

それはグレアムの背中だった。

グレアムは、庇う様にアデレイドの前に立った。


「アディ、大丈夫?」


腕に触れたのはジャスティンの手。

ジャスティンは心配そうにアデレイドを見ていた。


「アディ、深呼吸して」

「?」

「落ち着いて息をして」


ジャスティンの言葉を聞いて、自分が息を詰めていたことに気付いたアデレイドはゆっくり息を吐いき、また吸う。


息を数回繰り返しているうちに落ち着いてきた。

その間にもダーレンの聞くに耐えない罵倒は続いている。


「アディ、部屋に戻ろう?」


ジャスティンが優しく言うが、アデレイドの足は動かなかった。

動かし方を忘れてしまった様に、ピクリとも動かない。


「私はこんなにも嫌われてるんだ・・」


ポツリと声が漏れた。自分の声ではない様に掠れた声だ。


「アディ、違うよ。これは違うんだ」


ジャスティンの焦った様な声。

アデレイドはしまった、と思った。

自分を心配するジャスティンに、こんな事を言ったら余計に心配させてしまう。

アデレイドは一回大きく息を吸って、口元に笑みを浮かべた。


「ごめん、ジャス。

何でもないの。私は部屋に戻るわ」

「アディ、大丈夫?

医務室に行く? そこなら僕も一晩中ついていられるから」


アデレイドはふっと笑った。

優しいジャスティンの言葉に張っていた気が弛む。


「ううん、大丈夫。

自分のベットの方がよく眠れるもの。

部屋に戻るわ」

「アデレイド」


グレアムが振り返り、その手がアデレイドの頭を撫でる。


「アデレイド、君は一人じゃないぞ。

私やジャスティンは君が好きだ。

他にも君の良さを知っている者はいるだろう?」

「・・・・」


そういう優しい言葉はやめて欲しい。

魅了されているから出た言葉だと分かっていても、泣いてしまいそうになるから。

アデレイドは俯き、唇を噛み締め頷いた。


急に、わあっという声が上がった。

女性の悲鳴。何だ、という戸惑う声。

それに何より、先程とは違うダーレンの叫び声。


グレアムが動いた為に見えたそこでは、ダーレンが立っていて、手を無茶苦茶に振り回していた。

ダーレンが振り払おうとしているのは、彼が体に纏っている光の揺らめき。

それはダーレンの体中から溢れている彼の魔力の炎だ。


「!」


アデレイドは息を飲んだ。

この光景は何度か見た。

魔力の暴走だ。


魔力を持っている人は誰でも無意識に自分の魔力を制御している。

魔法は呪文を唱える事で頭に描いた陣を具現化、もしくは予め紙など媒体になる物に書いてあった魔法陣に魔力を注ぐ事で発現する。


無意識に制御している魔力を意識して制御する。

魔法を使おうとする者が初めにぶつかる壁だ。

慣れない者が魔力を使おうとする時、魔力を持つ者が我を忘れた時など、自身の魔力を制御を出来なくなれば、魔力は暴走する。

魔力は大きければ大きい程、制御は難しく、暴走した魔力は自身を焼く炎となる。

その炎は物理的な火ではない為、外からは消せない。


アデレイドは唇を噛み締め、手を強く握る。

腹に力を入れて、弱気になっていた自分を叱咤した。


魔力の暴走。

それを他人が抑える事は出来ない。

それが通説だ。

だが、アデレイドは出来る。

今までに二度、暴走を止めた事がある。

それにはダーレンに近寄らなければならない。

物凄く嫌だが仕方がない。嫌な奴だからと見殺しには出来ないのだから。


足を踏み出すと、ジャスティンがアデレイドの腕を掴んで止めた。


「アディ、どこに行くの!?」

「ジャス、離して。ダーレンの暴走を止めるの」

「そんな事・・」

「私なら出来る」


ジャスティンの目を見据え、アデレイドは断言した。


「でも・・、危ないよ。ダーレンの魔力暴走に巻き込まれたら・・」

「大丈夫、私ならダーレンの暴走を止められるから!

ジャスティン、離して。 早く止めないと大変な事になるわ」

「・・・・」


ジャスティンはアデレイドの言葉を信じるか逡巡した様だが、渋々手を離した。


「アデレイド」


グレアムから心配そうな声がかかった。


「カーヴェル様、大丈夫です。私がギブリングを止めます」


グレアムを一瞥し、横を通り進み出る。

何人かの人がこちらを見たが、それは無視した。


アデレイドがいつも使う無効化の力。

これは今は意味を成さない。


アデレイドがいつも使っている無効化は、呪文によって空中に描かれた魔法陣の一部、もしくは全部をアデレイドが放った力により消す事で無効化している。

しかし、今のダーレンはただ魔力が渦巻いているだけだ。消す陣などない。


だからアデレイドはダーレンに近付く。

ダーレンと目を合わせて魅了する為に。


ダーレンは魔力の炎に焼かれて苦しいのか、目を瞑って、滅茶苦茶に暴れている。

アデレイドはすうっと大きく息を吸った。


「ギブリング! こっちを見て」


ダーレンは聞こえていないのか、アデレイドの声に反応しない。


「ダーレン!」


再び呼び掛ける。

ダーレンは声に気付いたのか、顔を動かした。


「ダーレン、こっちよ! 私を見て!」


ダーレンは顔を上げ、アデレイドと目が合うとその目を見開いた。


「ダーレン、落ち着いて」


目を合わせたまま、ダーレンに近付く。

魔力の暴走は油断ならない。

落ち着いたと思っても何がキッカケでまた暴走するか分からない。

アデレイドは慎重に進んだ。


「ダーレン、落ち着いて、大丈夫だから」


ダーレンは目を見開いたまま、アデレイドを凝視している。

落ち着いて、大丈夫と繰り返すと次第に魔力の炎は収まっていった。


ダーレンに触れる程近付くと、ダーレンは見開いた目を更に開いた。

動揺したのか、ゆらりと魔力が揺れる。


「ダーレン、ダーレン。大丈夫よ。いい子ね、落ち着いて」


子供を宥める様に優しくダーレンの名を呼び、アデレイドはダーレンの手を取った。

ビクリと強張った体。

振り払われない様にダーレンの手を強く握り、力を注いだ。


アデレイドの無効化の力は二種類ある。

魔法陣を消す、外に向けて放つ力。

もうひとつはアデレイドの体内に渦巻いている力。


アデレイドの体内では常に無効化の力が発動している。

それはアデレイドの体内だけでなく、体表面にも表れ、外から受ける魔法を無効化する。

その力をダーレンの体に移していく。

ゆっくりダーレンを包む無効化の力。

キラキラと光る、薄い光の膜がダーレンを覆っていく。


どのくらい経ったのか。

ダーレンから暴走の気配が消えたのを感じて、アデレイドはダーレンの手を離した。

光の膜が薄れて消える。

ダーレンの目は焦点が合っておらず、夢うつつの様相だ。


ダーレンを刺激しない様に、アデレイドは後ろ向きで一歩、二歩と下がる。

次第にダーレンの焦点が合ってきた。

まずいな、と思いながら、更に後ろに下がる。


ダーレンは目を二、三回瞬かせると、正気に戻った。


「クローズ!!」


ダーレンはアデレイドに向かって突進した。

ダーレンとアデレイドの間には遮る物はなく、逃げるにも距離が近い。

アデレイドは仕方なく、ダーレンに向かって魔法弾を放った。


「ぐふう」


何も考えずに真っ直ぐにアデレイドの目だけを見て向かっていたダーレンは、あっさりと魔法弾を腹に受けた。


「ベイカー先生!」


呆気に取られていたベイカーは、アデレイドの声で正気を取り戻し、ダーレンを取り押さえる。

その隙に、アデレイドはグレアムの後ろまで逃げた。


「アディ、今のは・・?」


ジャスティンが呟く。

その顔は訝しげというか、何が起きたのか分からないという顔だ。

多分、この場にいる人間は、ベイカー以外は何をしたのか分からない。

ベイカーも見たのは初めてで、ほうけていたぐらいだ。

皆の目がアデレイドに向かう。


説明するべきか否か。

判断に困ったアデレイドは、グレアムを盾にして皆の目から隠れた。




お読みいただきありがとうございます。

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