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第二十一話

アデレイドが暗いです。

医務室に行ったアデレイドはそこで、若い見習い治癒士の男性ーーティモシーにすごく怒られた。

昼間に医務室から帰って、夜に今度は怪我で来るとは何事だ、と。

それが叩かれた傷であるから、ティモシーの機嫌はぐっと下がった。


アデレイドは大人しく治療を受ける。

アデレイドの無効化の力は治癒の魔法も無効化してしまうが、アデレイドが意識して無効化の力を抑える事で、魔法が効くようになる。

傷は見る見るうちに治った。

治療系の魔法には二種類あり、治癒士が使える魔法は相手の自己治癒力を活性化させる魔法だ。

治療を受けた側は体力を削られる。

アデレイドの怪我位なら、ちょっと怠いかなと思うぐらいだ。

寝れば治る。

もう一つの医療魔法は高度な知識を必要とする。医療士は病院に勤務する事が多い。

ティモシーは薬学にも通じていて、もし昼間のような頭痛がまたしたら、と薬をもらった。


アデレイドはジャスティンが迎えに来るまで医務室で休ませてもらい、ジャスティンと一緒に寮に帰った。

時間としてはまだ消灯には早い。

談話室には生徒が多くいるかもしれないと、憂鬱になりながらドアをくぐると、意外にも生徒は少ない。

しかし、その少ない生徒はグレアムとローランドだった。

別の意味で憂鬱だ。


ジャスティンに促され、グレアムとローランドのいる長椅子に向かう。

アデレイドは少し考えて、グレアムの隣に座った。

ジャスティンはアデレイドの向かい、ローランドの横に座る。


「アデレイド、大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」


グレアムに聞かれ、アデレイドは簡潔に答える。


「君を殴ったダーレン・ギブリングだが、先ほどベーカー先生が事情を聞きにきた。

見ていた生徒達からの証言で、ダーレンは二日間反省室で過ごす事になった」

「そうですか」


反省室とはこの寮にある部屋で、本も持ち込めずに反省だけを促される部屋だ。

もちろん学校は停学。

ダーレンは赤の寮五年生の代表だ。

貴族の跡取りでエリートコースを歩んできた彼には、その処置は屈辱だろう。

同情はしない。アデレイドはダーレンの暴力には怒っている。


「教えてくれてありがとうございました。じゃあ、私はこれで」


早口で言って立ち上がる。がーー


「待ちなさい。話はこれからだ」


グレアムに止められた。


(やっぱり、話をしないとダメか。

そのままにしておいてくれればいいのに)


アデレイドは内心で呻き、また席に着いた。


「私、今日は安静にしている様に言われてるんですけど」


一応、反論を試みる。

すると、長椅子に横になる様に言われ、クッションとブランケットを渡された。

そういう意味ではなくて解放してくれと思ったが、グレアムもジャスティンも引いてくれない。

横になる事は拒否し、クッションを抱えて大人しく留まった。

ローランドはアデレイドが談話室に入ってきてから一言も話さない。

アデレイドとしても怒鳴ってしまい、気まずいのでローランドと話したくない。


アデレイドはグレアムの方に顔を向けると、グレアムが何か言う前に先手を切った。


「カーヴェル様、まさかここで昨日のお説教はしませんよね。

私はもう反省文も提出したんですからね」


グレアムの話は寮則破りのお説教ではない。

それは分かっているが、ローランドやジャスティンの前で、昨日の詮索はされたくなかった。


「アディ」


ローランドがアデレイドを呼ぶ。


「昨夜、君に何があったのか私は知らない。

だが何かあったのだろう? 話して欲しい」

「何かって別に。

消灯後に出歩いて、見つかって、怒られただけです」

「それだけではないだろう?」

「それだけです」


アデレイドは淡々と答える。

真相を知っているカーヴェルから見れば、とんだ嘘つきだ。

ローランドは体をぐっと乗り出し、アデレイドを見据えた。


「アディ、本当の事を話してくれ。

私は君の力になりたいのだ」

「・・・・」


アデレイドは目を細める。

何を根拠に嘘だと決めつけるのだろう。

グレアムに何か聞いたのだろうか。


「何と言われても答えは変わりません。

エイデン様が心配する様な事は何もありませんから」


ローランドの言葉を突っぱねると、ローランドは嘆息した。

懐に手をやり、何かを出す。

白い封筒だ。


「昨夜、私の部屋に手紙が届けられた」

「手紙、ですか」


アデレイドは首を傾げる。


「そう、これだ」


ローランドに封筒を差し出され、受け取る。

上質な紙。差出人の名はない。


「見てもいいですか?」

「ああ」


封筒を開け、中に折り畳まれている便箋を開く。

『ローランド・エイデン様へ』から始まる手紙は、綺麗な字で丁寧に書かれていた。


時節の挨拶に続くのは、アデレイドはこんな女だから近づかない方がいいという忠告。

そして最後に、今夜、アデレイドは図書室で男と逢い引きをする。

付き合っているのはこの男だけではない。

アデレイドはかなりの頻度で図書室に入り浸り、淫らな行為に耽る。と書いてある。

信じられないなら、見に行けばいい、とも。


アデレイドは自分の眉間に皺が寄るのを感じた。


「なんですか? これ」


低い声が出るのは仕方がない。

この手紙はとにかく酷い。

アデレイドは誰とも付き合っていないし、淫らな行為などした事はない。

しかもそれを見に行けなんて、手紙の主の神経をうたがう。


ジャスティンが僕にも見せてと手を出したが、アデレイドは手紙を封筒にしまった。


「これを見て、私は馬鹿馬鹿しいと思って行かなかった。

アディに嫉妬する女生徒のいたずらだと思ったんだ。

しかし今日になって、君は医務室にいるし、グレアムも午後から登校して機嫌が悪い。

何かあったのかと思って、君に話を聞こうと思ったんだ」

「・・・」


アデレイドは黙ったまま手紙を見つめる。

これはデクスターがローランドに出したのだろうか?

自分が襲うところを見せつける為に?

いや、デクスターにアデレイドの事をいろいろ教えた誰か。その人物が出したのだろうか。


「ローランド様」

「なんだい?」

「この手紙、もらってもいいですか?」

「どうするのだ?」

「書いた人を探そうかと思って」

「それなら私の方が立場柄、色々な人物の書いたものを見れる。

私が探そう」

「・・・・」


アデレイドは手紙を握り、黙った。

確かにローランドの方が見つけられる確率は高いだろう。

だが、魅了が解けたらローランドは味方ではなくなる。

それに手紙を書いた人物探しを頼んだら、昨日の事も話さなければならないだろう。

それは避けたい。


「いえ、いいです。

自分でやります」

「アディ、こんな手紙を書いた者を放ってはおけない。

私が探す。

それとも心当たりがあるのか?」

「いいえ。ないですけど」

「ならば、その手紙を渡してくれ」

「いえ、いいです。

この事は忘れて下さい」


手紙をポケットに仕舞おうとするが、ローランドの固い声がそれを止めた。


「アディ、なぜ私を頼ってくれないのだ?

私は君の為なら何でもする」

「・・・・」


アデレイドは眉間に皺が寄るのを自覚した。

キャロラインに冷たい言葉を吐いたのはついさっきだ。

その同じ口から言われた言葉に我慢がならない。


「何でもするというのなら、私に構わないで下さい」

「アディ!」


ローランドは声を荒げた。


「なぜその様な事を。

私は君に関わることすら許されないのか?

君は私を嫌っているのか?」

「嫌ってはいません」

「なら・・」

「エイデン様、あなたは自覚していないかもしれませんが、私に魅了されています。

あなたが私に感じている気持ちは偽物です」

「っ」


ローランドは息を飲んだ。

ジャスティンもグレアムも何か思ったのか、ジャスティンはピクリと体を動かし、グレアムはぐっと手を握った。


「私の気持ちは本物だ、アディ。

君を愛している!」


魅了した人から聞く愛の言葉。

それは魅了が解けた瞬間に意味のなくなるまやかしの言葉だ。

アデレイドは深く嘆息した。


「エイデン様、そう言うのなら賭けをしましょう」

「賭け?」

「そう、賭けです。

エイデン様は一ヶ月、私に近寄らない。

一ヶ月経ってもまだ私の事を好きだと言うのなら信じます」


ローランドは立ち上がった。

手が怒りの為か揺れている。


「随分酷い話だ。

アディは私の言葉を全く信じていない。

私が一ヶ月経っても同じ気持ちだと言ったらどうする?

アディは私に何をしてくれるのだ?」

「ローランド!」


グレアムがローランドを制止する。

アデレイドはローランドの言葉に答えた。


「なんでもします。エイデン様の望む事を」

「アデレイド! 何を言っている! 取り消せ!」


グレアムの言葉を無視して、アデレイドはローランドの口元を見つめた。

その口が皮肉げに笑みを作る。


「一ヶ月後を楽しみにしている」


ローランドはそう言って、談話室を去った。


「アデレイド! なぜあんな事を言った!?

何を考えてるんだ?」


グレアムは怒っている様だ。

しかし、今のやり取りは必要な事だ。


「一ヶ月私から離れれば、エイデン様の魅了は解けます。

そうすれば私の事なんて、どうでもよくなりますから」


願わくば、今日怒らせた事もどうでもいいと思ってくれたらいい。

そうでなければ、魅了が解けたローランドの怒りを買っている私は本気で学園に居場所がなくなるだろう。

出来ればこの手は使いたくなかったが仕方が無い。


こうやってアデレイドの嫌われ度は増していく。

出来れば悪役アデレイドを踏み台にして、キャロラインとローランドの仲が良くなればいいな、と思うのはアデレイドの驕りだろうか。


ジャスティンが沈んだ声で呟いた。


「僕との約束もそういうつもりなの?」


その呟きに答えられなかった。






お読みいただきありがとうございます。

暗いっ、アデレイドが暗い。

いろいろあってアデレイド、落ち込んでいます。

暗い方に開き直っている感じです。

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