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第十九話

本日二話目

午後、アデレイドは部屋にて、消灯後に出歩いた事に対する罰則として、寮則の書き取り五十回と反省文二枚を書いた。

そこは見なかった事にしてくれないらしい。

デクスター達も同じく罰則を受けているそうだ。

話をしたいと学園長に言ったが、今日はやめておけと言われ、渋々部屋に戻った。


まだ本調子ではないアデレイドは、自室のベットに横になり、学園長に借りた本を読んでいた。

それは一人の男と仲間達の冒険譚で、秘宝を探したり邪竜を倒すために奔走したりと、なかなか読み応えのあるものだった。


今読んでいるのは、主人公達が妖精王に会いにいく途中に仲違いをしてしまい、主人公一人が森を彷徨っているところだ。

その森は『闇の囁きの森』と呼ばれるところで、迷ったら二度と帰れないと言われる場所だった。

主人公は腹を立てていて、森をずんずんと歩いていく。

そのうちに目印だった石の小道がなくなり、薄暗い森を彷徨う。

身の内に不安を覚えた彼に何者かが囁くのだ。


ーーお前の気持ちをあいつらは分からない。

ーーあいつらはお前を馬鹿にしている。何もできない坊やだと思っている。

ーーあいつらはお前などいなくなってしまえばいいと思っているんだ。


耳元で囁かれる声は、深く深く心に沈む。

そんな事はないと振り払うも、心に重くのし掛かる。


囁き声を振り払おうともがき、滅茶苦茶に剣を振り回している時、一人の女が現れ、主人公の剣を受け止め彼を蹴倒した。

呆然とする主人公に女は言った。


「あれは森の妖精の声。人間を惑わし笑っているのだ」と。


女が森をひと睨みすると、囁き声は罵声に変わった。


「おのれ、妖精王の娘だとていい気になるな! かえりみられぬ娘のくせに!」


声はそれを最後に去っていった。


「妖精王の娘?」


主人公は女を見上げる。


「そう。だが、妖精王の元に案内は出来ぬ。近づくことも許されぬ娘だから」


そう言って去って行こうとするのを主人公は腕を掴んで、引き留めた。


「待て!」

「離せ、人間。気安く私に触るな。

私は妖精。目を合わせたものを魅了する。

お前も骨抜きにしてやろうか?」


女の目が怪しく光る。しかし主人公は手を離さなかった。


ここから女も仲間に加わり、さらに物語が進む。

しかしアデレイドは名残惜しく思いながら本を閉じた。

夢中になって読んでいたらもう夜だ。

そろそろ夕食を取りに行かないといけない時間だ。


アデレイドは基本的に夕食は遅めの時間に行く。

その方が空いているからだ。

ベットから立ち上がりながらアデレイドは考える。


この本の主人公の仲間となった妖精はアデレイドと同じ、目を見て魅了する力がある。

森の妖精は囁き声で人を惑わす。

他にも色々な能力を持つ妖精がいるのだろうな。


アデレイドの祖母は妖精で同じ屋敷に住んでいたのに、自分は妖精についてあまり知らないなと思うのだった。




✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎




アデレイドの部屋は談話室に近い。部屋を出て少し進むばすぐに談話室、そしてその先、赤の寮区の外に出る。

なのでさっさと歩けばあまり赤の寮生に関わらずに済む。

アデレイドは特に赤の寮生に嫌われている気がするのでそれはありがたかった。


談話室への扉を開く。

すると談話室で寛いでいたはずの寮生が皆アデレイドを見た。

アデレイドはたじろいだ。

何かしただろうか。


すると視界の端で動くものが二つあった。

見れば、グレアムとローランドがそれぞれ別の場所で立ち上がった。

嫌な予感を覚えたアデレイドは静かに扉を閉めた。


ドンドンドン。

閉めたばかりの扉が叩かれる。


「アディ、何で閉めるんだよ。待ってたのに」


声はジャスティンだ。恐る恐る扉を開けると扉の前にはジャスティンがいた。

ジャスティンだけならいいのだが、なぜかその後ろにグレアムとローランドが立つ。


「アデレイド、少し話があるのだが」


グレアムが堅い声で言うと、


「クローズ、私も話がある。私の件の方が重要だ。

二人きりで話がしたい」


ローランドが割り込む。二人は睨み合った。


「なぜ、お前の件の方が重要だと? 私の話は重要で急ぎだ。

すぐにアデレイドに聞かねばならない」

「ならここで話せばいい」

「ここでは話せない事だ。ーーアデレイド、少しいいか?」


グレアムがアデレイドに話を向けると、ローランドがそれを遮った。


「駄目だ。クローズ、グレアムについて行くな。

何をされるか分からない」

「どういう意味だ?」

「自分の胸に聞いて見ればいい」


二人はまたまた睨み合った。


(うわぁ〜。まさかずっとこれをやってたんじゃないでしょうね。

嫌な時に来たわ。夕食なんて思いつかないで、本を読んでいればよかった)


アデレイドの部屋にはいざという時な為に保存用のパンが置いてある。

今日はそれを食べようか。


「アディ、アディ」


横から袖を引っ張られる。ジャスティンだ。見れば、ジャスティンの顔はそっぽを向いていた。

目を見ない。顔もなるべく見ない約束を守っている様だ。


「二人は放っておいて、夕食を食べに行こうよ、食堂が終わっちゃうよ」

「そうね、行こうか」


体をなるべく小さくしながらそろそろと進む。


「アデレイド」

「クローズ」


グレアムとローランドに呼び止められた。

簡単には逃げられない様だ。


「なんですか? 私、夕食を取りに行きたいのですが」

「私もまだだ。一緒に行こう」


ローランドが言えば、グレアムが「私もだ」と言う。

すごく嫌だ、この二人と夕食を取るのは。

周りから何事だという目で見られる気がする。

それにいつも通りなら食堂でブレントが待っている。

ギスギスしている二人に加えて、仲が良くないであろうブレントが加わったらそこはもう楽しい夕食の場ではないと思う。



✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎



予想通りギスギスした夕食だった。


待ち合わせしている図書室に行けば、ブレントはアデレイドの後ろに立つグレアムとローランドを見て眉を顰めた。

すでにそこで胃が痛くなりそうだったが、食堂に行けば注目の的。

ブレントと話すとグレアムとローランドのギスギスが深まるし、グレアムやローランドの言葉に答えてもギスギスする。

ジャスティンが唯一の救いだった。

食事の間はジャスティンと話をしていた。


食事が終わり食堂から出ると、なんとか均衡を保っていた糸をブレントが切った。


「アデル、ちょっと話がある」


ブレントはぐいっとアデレイドの腕を引っ張るが、そのまま行けるはずもない。

反対側の手を掴まれた。


「待て、オールディス」


アデレイドの手を掴んだグレアム。


「なんだ?」

「私達の方が先約だ。私達もクローズに話がある」


答えたのはローランド。アデレイドの肩にそっと手を置く。


(これは・・ちょっと嫌な展開。ど修羅場かしら)


アデレイドは周りを見た。

遅い時間とはいえ、食堂には結構な人がいる。

というか、アデレイド達がいる事を聞きつけて集まって来たのだろう。

いつも以上に人がいる。

そんな中でのこの展開。非常にまずい。


「あ、あの」


アデレイドは声を掛けるが、男達に無視された。

ブレントは目を細め、グレアムとローランドを見る。


「君達は寮に戻ってから話が出来るだろう?

ここは今しか時間がない他寮の俺に譲るべきじゃないか?」

「悪いがこちらは急ぎの話でな。

それに長くなる予定だ。すぐに話を始めたい」


グレアムの言葉にアデレイドは心の中で、呻いた。


(長い話って何? お説教? 私、カーヴェル様に何かした? 最近は普通に話せる様になったのに、今日は何か怒ってるし)


顔を伺えば、眉間に皺を寄せ、硬い表情だ。

ブレントと相対しているからかもしれないが。


「何の話だ?」

「お前には関係ない」


バッサリ切られて、ブレントはグレアムからローランドに目をやる。


「二人でアデルに何の話だ?」

「グレアムと私の件は別だ。私はクローズと二人で話をする」


ブレントは片眉を上げた。フッと鼻で笑う。


「どうやらエイデン殿はまだアデルの魅了が解けていないようだな。

実家に戻られてはどうだ?

家族も婚約者殿も心配しているだろう」


(わー、わっるい笑み。ブレントって時々こういう顔をする)


なんというか上品なグレアムやローランドには出来なさそうな揶揄するような笑みだ。

アデレイドの肩に置いていたローランドの手に力が入る。


「私は魅了されてなどいない。

寮長としてクローズの態度に注視しているだけだ」

「そうか? その割りにはアデルばかりを贔屓していないかな」


ローランドの手にぎゅっと力が入った。痛い。


「そんな事はない」

「だが、周りはそう見ていないようだ。

そこにいる婚約者殿の顔を見れば分かる」


ブレントはくいっと顎をアデレイド達の後方にやった。

アデレイドは体は拘束されて動けないので、首をそちらに向ける。

そこには辛そうな顔をしたキャロラインがいた。

前まで見せていた気の強そうな眼差しはなりを潜め、不安そうにしている。

そうしていると可憐な容姿が際立ち、庇護欲を誘う。

まるで噂で語られている、アデレイドにローランドを取られて嘆き悲しむ弱々しい令嬢のようだ。


アデレイドはその姿に不安に駆られた。

アデレイドがローランドを魅了した当初は、元気にアデレイドに嫌味を言ったり決闘を申し込んだりした彼女がどうしてこんなに弱々しい顔をしているのだろう。


アデレイドは腕を掴む手を振り払って、キャロラインの元に行きたかった。

しかし腕に力を入れ体を捩ったが、三人とも手を離さない。


キャロラインはくしゃりと顔を歪めると走り去った。


「キャロライン!」


アデレイドはキャロラインを呼ぶが、キャロラインは振り返らずに行ってしまった。

代わりにキャロラインの取り巻き達に睨まれた。


「・・・・・」


アデレイドの中にフツフツと怒りが湧いてきた。

なぜ、話をしたいと思っている相手には逃げられて、別に話をしたくないと思っている相手に捕まっているのだろう。


「離して」


アデレイドは誰に言うでもなくつぶやいた。

聞こえただろうに、誰もアデレイドの手を離さない。

アデレイドはむっとして手を振った。


「離してって言ってるでしょ。

そんなに話がしたいなら三人で話をすればいいじゃない。

私はキャロラインに話があるの!

すぐに離して!」


アデレイドの剣幕にブレントが手を離した。

他の二人は手を離さないので、ローランドの手は肩を振るって動く事で退かし、グレアムの手は捻って外した。


「ついてこないで下さいね!」


アデレイドはそう言い捨てると、キャロラインが向かった赤の寮へと駆け出した。





お読みいただきありがとうございます。

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