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第十八話

大分更新が遅いです。すみません。

「ううう、頭が痛い。気持ち悪い」


アデレイドは医務室のベットの上で呻き声を上げた。

まだ朝も早い時間。

目が覚めて、自分の部屋でない事を訝しんで頭をちょっと上げたら、頭がガンガンと痛み、吐き気にも襲われた。

呻いていると、医務室の治療士である女性が入ってきて、アデレイドの状態を説明してくれた。

アデレイドが今苦しんでいるのは、昨日嗅がされた薬の副作用で、そのうちに収まるということだった。

寝ているしかないと言われ、アデレイドは大人しく横になっていた。


アデレイドは頭痛に顔を顰めながら、昨日の事について考える。


アデレイドを図書室に呼び出したデクスター。

デクスターはアデレイドの魅了のせいで、普通ではなかった。

何をしたかったのかは分からないが、デクスターをそんな風にしてしまったのはアデレイドだ。

彼は魅了されてから今までいろいろ思い悩んだのだろう。


対外的なこれからの対応としては、何もなかったことにしてもらうのが一番都合がいい。

学園長がアデレイド達を見つけてくれたのだろうから、誰も時間外に出歩いていない、図書室に行っていないということにしてもらうことも可能なはずだ。

体調不良が治ったらそう話をしようと考えながら、アデレイドは目を閉じた。



次にアデレイドが目覚めたのはどのくらい時間が経った頃か。

部屋はすっかり明るい。

しかしアデレイドはそれを考える余裕もなくベットで硬直していた。


ふと目覚めたのは何かの気配がしたのか。

アデレイドが目を開けると、こちらを覗き込むジャスティンの顔があった。

アデレイドはびっくりして目を見開いた。

ジャスティンの水色の瞳に自分が映る。

ジャスティンは目を合わせたまま、にへらっといつもの笑みを浮かべた。


「起きた? アディ。大丈夫?」

「っ!!」


アデレイドは状況を判断すると、勢いよく掛け布団を被った。


(またジャスと目を合わせちゃった・・・)


魅了してから何回目だろう。これではジャスティンの魅了はいつになっても解けない。


「アディ、どうしたの?」

「なんでジャスがここにいるの? 授業は?」

「今は昼休みだよ。アディがここで寝てるって聞いたから、授業終わってすぐに来たんだ」

「そう。わざわざありがとう。大丈夫よ、ちょっと・・・風邪引いちゃっただけだから」


アデレイドは布団を被ったまま答える。


「でも夜に医務室に行ったって事は相当具合が悪かったんじゃないの?」

「ここに来た時は悪かったけど、今は平気よ。

念の為に今日は授業に出ないけど明日は行けると思うわ」


今日授業に出ないのは、これから昨夜の件について話し合いがあるからだが、そこは誤魔化しておく。


「そうか、よかった。でもアディ、なんで布団被ってるの? 苦しくない?」

「・・・好きで被ってるんじゃないわよ」


ジャスティンが隙あらば目を合わせようとするからだ。


「じゃあ取ってよ。話がし辛いよ」

「ジャスが私の目を見るからいけないの」

「ひどーい。さっきはアディが僕の目を見たんだよ。

僕は本当は見る気はなかったんだから」

「・・・」


ジャスティンはああ言えばこう言う。

アデレイドは少々イラっとした。

ジャスティンがそう言うのならば仕方ない。

最終手段を取らせてもらう。


アデレイドは布団から顔を出し、ベットに腰掛けた。

ベットの横に立っていたジャスティンを見上げる。

ジャスティンはアデレイドが目を合わせてくるとは思わなかったようで、軽く目を見開いた。

アデレイドはジャスティンの目を見つめ、にっこりと笑う。

ジャスティンは息を飲んだ。


ジャスティンに手招きすると、ジャスティンは大人しく近付いた。

更に手招きすると、ベットに手をついて近付く。

アデレイドの手が届くあたりにジャスティンの顔がきたところで、アデレイドは口を開いた。


「ジャス、賭けをしましょう?」

「賭け?」

「そう。賭け」

「な、にをするの?」


ジャスティンは魅了の影響か、つっかえつつ言葉を紡ぐ。

アデレイドの胸に少しの罪悪感が湧くがそれは無視した。


「ジャスが、私の言うことを聞いてくれたら・・」


アデレイドは自分の唇に人差し指を当てた。


「ご褒美をあげる」


今度はその指をジャスティンの唇に当てる。


「!」


ジャスティンの顔が見る見るうちに赤くなる。

自分の顔も赤くなっているかもしれないとアデレイドは思った。

学園長直伝の必殺『悪女攻撃』

上手くすれば、魅了した相手に言うことを聞かせる事ができるが、危険なのであまりやらない様にと言われていた。

確かに危険だ。

仕掛けたアデレイドの精神がざっくり削られる。

もうやらない。

しかし今やってしまった事は終わらせねば。


「何をすれば、いいの?」

「簡単な事よ。これから一ヶ月、私の目を見ない事。出来れば顔も見ないで」

「え、そんなのやだ」

「ジャス? お願い」


可愛い子ぶって首を傾げてみる。


(はーずーかーしーい。自分、あり得ない!)


心の中で叫びつつ、上目遣いでジャスティンの目を見つめる。

あまりに反応がないので、やっぱり自分のやってることは気持ち悪いかなと思い始めたところで、ジャスティンが勢いよくしゃがみ込んだ。


「ジャス?」


どうしたのだろうとジャスティンを見下ろす。

ジャスティンは片手を突き出して、アデレイドを制止した。


「アディ、ちょっとこっち見ないで。

分かった。僕、一ヶ月アディの目を見ない。顔は・・見るけど、なるべく見ない。

だから、絶対約束守ってよね。絶対だからね!」


ジャスティンはまくしたてる様に言い切ると、這う様にしてアデレイドが寝ている個室から出て行った。


「?」


一応企み通り、ジャスティンにアデレイドの目を見る事をやめさせる事に成功したが、なぜジャスティンは慌てて出て行ったのだろう?

赤い顔を見られたくなかったのだろうか?


アデレイドが首を傾げていると、戸口から笑い声が聞こえた。


「ちょっと刺激が強かったか。青少年にあれは酷かもなぁ」


現れたのはアデレイドに『悪女攻撃』を伝授した学園長だった。

皺の刻まれた顔には悪そうな笑みが浮かんでいる。

アデレイドはまた布団に篭りたくなった。

伝授した当人とはいえ、さっきのを見られたのはとても恥ずかしい。


「いつからいたんですか?」

「少し前だ。誰かがアデレイドの部屋に入った気配がしたので来てみれば、愉快なものが見れた」


学園長は口髭を弄りながら、くくくっと笑った。

こういう様子を見ると、本当にこの人は教育者かと言いたくなる。

若い時は様々な冒険に出かけたというから、生粋の教師とは違うのかもしれないけれど、この笑みはない。

もしかしたらアデレイドに『悪女攻撃』を伝授したのも冗談の一つだったのかもしれない。

そう思ったら、アデレイドは自分の目が据わっていくのを感じた。

いっそのこと学園長に『悪女攻撃』してやろうか。

無駄だ。学園長に魅了は効かないから、自分が恥をかくだけなのでそこは思い直した。


「先生、その話はもういいです」

「そうか? ちょっと忠告しておくぞ。

『悪女攻撃』をする時は、場所を考えた方がいい。

ベットの上というのは感心せんなぁ。

ボランが紳士だからよかったものの、下手したら襲われてるぞ」

「なっ!」


アデレイドは絶句した。

生徒に向かってなんて事を言うのだ、この不良学園長は。

学園のトップからのセクハラは誰に訴えたらいいのだろう。

国王への陳情か。


アデレイドは恨みがましく睨んでいると、学園長は苦笑した。


「まあ、今度は気を付けろ」

「もうしませんよ。恥ずかしいですから」

「ははっ、恥ずかしがってる様では悪女にはなれないな」


学園長はベットの横の椅子に腰掛けると、一転して真剣な顔を見せた。


「さて、具合はよくなった様だな」

「はい。頭痛も吐き気も治まりました」

「では話してくれるか? 昨夜、何があったのか」



✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎



アデレイドは学園長に包み隠さず話した。

中途半端に隠し事をしても、この学園長には全て見破られる。

なので学園長に話す時は、全て話すか、全て隠すかである。

ブレントとの秘密の合図についても、誤魔化そうと思ったが諦めた。無言の圧力に負けた。


ブレントに呼び出されたと思ったら、デクスターとその友人がブレントの振りをしていた事。

デクスターの様子が尋常ではなかった事。

デクスターは誰かにブレントが使う合図を教えてもらったと言っていた事。

逃げようとしたら後ろから羽交い締めにされ、薬を嗅がされた事。

咄嗟に学園長に貰った魔法石の力を解放した事など。


話を聞き終えた学園長は穏やかに口を開いた。


「それでアデレイドはどうしたい?」

「私は・・・、昨日のことは表に出したくありません。

だから先生には知らなかった事にしてもらいたいです」

「ふむ。しかしディラック達はどうする?

自分達がしたことに対する責任は?」

「責任は・・私にあります」


俯き答えると、学園長は腕を組んで息を吐いた。


「アデレイド」

「はい」

「私は前に言ったな。

魅了された相手にも意思があると。

ディラックは自分で考えて行動した。

それが悪い事の場合は本人に責任がある」

「・・・・」


アデレイドは唇を噛んだ。


「それでも・・魅了されてなければそんな事を考えなかっただろうし・・」

「確かにそうかもしれん。

だがそこに至った思考は本人のものだ。

これからの人生でディラックは色々な事に直面する。

その時にこんな事が起きなければ彼はそんな事をしなかった、で済まされるのか?」

「・・・・」


アデレイドは答えられなかった。

学園長の言うことは正しいかもしれない。

でも原因である自分が、『仕方ないでしょ、あなたがやったことの結果なのだから』とは言えない。

やっぱり自分が魅了したのがいけないことなのだ。

自分がここにいることが。


アデレイドの思考がどんどん暗い方へと向かっていくのが分かったのか、学園長はアデレイドの頭をポンポンと叩いた。


「もし私が知らないことにして、ディラック達はどうする?

このまま無罪放免では、彼らは反省しないかもしれないぞ」

「ディラック様とは、話をしようと思います。

ずっとこちらを見ていたのに無視していたからこんな事になったのかもしれないし。

それに聞きたいこともあるので」

「聞きたい事?」

「そうです。昨日の件は誰か、第三者が関わっている気がしました。

それを聞こうと思います」

「魅了されている彼らが、君と相対して話し合うことができるか?」


学園長の問いかけにアデレイドはくすりと笑みを浮かべた。


「先生が言ったんですよ。

魅了されていても彼らには意志があるって。

落ち着いてくれればちゃんと話は出来るはずです」

「落ち着いてなかったら?」

「落ち着かせます。どんな手を使っても」


例えば副学園長に貰った魔道具を駆使して、前後不覚にして縛り上げて問い詰めるというのはどうだろう。

なかなかいい手だと思う。

実行できるかは別として、そう気合を持っていれば、いけそうな気がする。


うんうんと頷いていると、学園長はははっと笑った。


「それだけやる気があるなら任せてみよう。

だが危ない真似はするな。無理だと思ったらやめておけ。

全てを君が背負う事はないのだからな。

君の伯父はやきもきしているぞ、君があまり頼らないから」


伯父である副学園長は、生徒からは『鉄仮面』と呼ばれて、表情に乏しく、厳しく無骨な風だが、意外とアデレイドがする事にはおろおろする事が多い。

その様子を思いだして笑ってしまった。





お読みいただきありがとうございます。


ジャスティンが逃げる様に部屋を出て行ったのは、赤い顔を見られたくなかったのか、鼻血か、それとも・・・?


看護士→治癒士 に変更しました。

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