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第十六話

更新遅くてすみません。

消灯の少し前、ブレントは自室のベットに仰向けに寝っ転がり、本を読んでいた。

ブレントの部屋は四人部屋。

同室の三人のうち二人は部屋にいない。談話室にでもいるのだろう。

もう一人は課題が終わらず、机に向かってうんうん唸っていたが、やがて一つ息を吐き教科書をバタンと閉じた。


「終わったのか、アーロン」


ブレントは寝っ転がったまま同室の青年ーーアーロンに顔を向ける。

赤毛にそばかすの青年は、立ち上がると赤毛をがしがしと掻きベットへと向かう。


「終わらねー。諦めた」


どさっとベットに腰かけたアーロンは、行儀悪く片足をベットにかけ肘を付いた。


「ベネットとダリルはまだ戻らねえのか?」

「談話室だろう。あいつらまだ夜会のパートナーを決めてないからな。

焦ってるんだろ」


ブレントは再び本に視線を戻す。


「決めてないのはブレントもだろ。

どうすんだ? お前がさっさと決めないから女共も騒いでるぞ。

エメリンとヘロイーズの争いが日に日に激しくなってるってよ」


アーロンが出した名は、前にブレントが何かの行事でパートナーを組んだ相手だ。

生憎なんの行事かは覚えていないが。


「俺はまだどうするか決め兼ねている。

アーロン、お前からそれとなく言っておいてくれ。俺に構わなくていいって」

「自分で言えよ。俺は女共に恨まれたくねえよ」

「そんな事言うなよ。ほら、課題を見せてやるから」


ブレントは自分の机に手を伸ばし、掴んだノートをアーロンへと放った。


「お、やったね。これで魔法薬学のジジイに絞られずにすむ」


アーロンは口の端を上げると、机に向かった。

しばらく羽根ペンを動かす音が聞こえていたが、その音が止む。


「なあ、ブレント。お前、アデレイド・クローズと組まないのか?」


本から視線を動かせば、アーロンは椅子の上で顔をブレントに向け、訝しげな顔をしていた。


「アデルとは組まないな。あいつは行事が嫌いだ」

「でも噂があっただろ? ローランド・エイデンと組むって」

「ただの噂だ」

「そうか? でも誰かとは組まなけりゃならないだろ? 五年生だって全員参加なんだから」

「一応、赤の寮のジャスティン・ボランと組んでるな。名目上だがな」


ブレントが素っ気なく言うと、アーロンは上半身をブレントに向け、身を乗り出してきた。

もうじき消灯になるが、課題はどうでもいいらしい。


「ボランって、クローズに纏わり付いている二年生だろ?

いいのか? あんなのに取られて」

「取られてってなんだ? あいつもそのうち魅了が解けてどこかに行くさ。

アデルの側にいるのも今だけだ」

「余裕だな、さすがブレント。この女ったらし。

でもその女ったらしはいつまでクローズを構ってるんだ?

いい加減に飽きないか?」

「・・・・」


ブレントは無言を返した。


「まあ、あの陰気な長髪眼鏡の下が、あんなに可愛い子だったのは驚きだが、流れてる噂を聞く限りは近づきたくないね。ブレントの悪趣味にも呆れるな」


ブレントは無言で立ち上がると、アーロンのそばまでいき持っていた本をアーロンの頭に落とした。

厚い本は結構な音を立てた。


「いってえ、何すんだ⁉︎」

「お前はさっさと課題を終わらせろよ。ノートを取り上げるぞ」

「へー、へー、分かったよ。お前の前であの女の悪口は禁句だったな」


ブツブツ言いながら課題に向かうアーロンを横目に自分のベットに戻ろうと思ったブレントだが、ふと、入り口のドアの下に白い封筒が落ちているのが見えた。

拾ってみれば、『ブレント・オールディスへ』と書いてある。

裏を見ても差出人はなかった。




✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎




ブレントは深夜の寮の廊下を歩いていた。

消灯前に部屋に届けられた手紙には、『深夜0時、図書室に来い。お前の可愛い妖精の本性が見れる』と書いてあった。

妖精というのはアデレイドのことだろう。

手紙の意図はよく分からないが、アデレイドが関わっているのなら放っておく訳にはいかない。

しかし馬鹿正直に0時まで待つつもりはなく、消灯して少し経つ頃、ブレントは部屋を抜け出した。


ブレントは真っ直ぐ図書室に向かっているわけではなかった。

寮の廊下を歩き、目的の物を見つけたブレントは目を細める。

少し先の廊下にいたのは寮で飼われている猫の一匹。

ブレントは屈むと、白と黒のぶち猫に向かって手を出した。

猫はブレントに向かってきて、差し出した手に自分の顔を擦り付ける。

ブレントは猫の頭を撫でると、そのしなやかな体を抱き上げた。


「マーロウ、また貸してくれな」


ブレントはマーロウと呼んだ猫とともに空き部屋に入る。

誰もいないのを確かめると、ブレントは猫と目を合わせた。


途端に視界が二つになる。

マーロウを見るブレントの目と、ブレントを見るマーロウの目。

ブレントは静かにマーロウを床に降ろした。


マーロウの低い視線で部屋を見る。同時に立ったままのブレントの視線でも部屋が見えた。


これは魔法ではなく、ブレントが持つ能力だった。

他者の頭に自分の精神の一部を送り、その相手を乗っ取る。

誰も知らないブレントのこの能力。これは王家の血筋に出る能力だ。

こんなところでもブレントがあの男の息子だと証明している。

忌々しいが、この能力には感謝している。

この力を使えば誰も警戒せず情報を手に入れられるのだから。


ブレントはブレント自身は空き部屋にいるまま、マーロウとして寮の廊下を歩き出した。

猫の歩幅は狭く、先が遠い。

やっと図書室に着くと、空いていた扉の隙間から中に入った。


人の声がしているのは分かっていた。

少年の声、それに人が動く気配。

進んでいけば、机と椅子の脚の向こうにしゃがみこんでいるアデレイドと立っている人間の足が四本見えた。


(アデル!)


薄暗い中、辛そうな顔で座り込んでいるアデレイドを見て、ブレントは舌打ちをしたい気分だった。

約束の時間よりだいぶ早いがすでに事が起きている。

こんなことならマーロウの体を借りずに自分でくればよかった。


空き教室にいるブレントは急いで廊下を駆け出した。

マーロウとしてもアデレイドを助けるべく駆けだす。

しかしマーロウが男に飛びかかる前にアデレイドが動いた。

アデレイドは首元に手をやった後、手を前に差し出す。


「?」


疑問に思った直後、アデレイドの手から強烈な光が発せられ、マーロウの視界は真っ暗になった。


「なんだ、今のは」


ブレントは目元を抑えて、壁に手をついた。

マーロウに入っていたブレントの精神は飛ばされた。

なんの魔法か知らないが、強烈な光の影響がブレント自身にも出ている。

体に力が入らない。

ブレントは萎えそうになる足を叱咤して、壁に手をつきながら進んだ。

この廊下を進んで左にいけば図書室だというのに、その距離が遠い。

前を見ると、廊下の先を誰かが横切った。

ブレントと違う方向から、誰かが図書室に向かったらしい。


「アデレイド! いるか!」


グレアム・カーヴェルの声。

ブレントはギリっと奥歯を噛み締めた。

















お読みいただきありがとうございます。

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