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第十四話

アデレイドは現在、まさかの平和を享受していた。

場所はいつもの東屋、昼時。

さっきまでいたブレントは先生に呼ばれたとかでーーたぶん授業に出なかった件ーー行ってしまい、ジャスティンは誰か客が来たとかでここには来ていない。

数日ぶりの寮以外での一人。

しかし、平和なのはブレントやジャスティンがいないからではない。


数日前、ブレントにローランドとのパートナーの事は放っておいていいと言われ、その通りのらりくらりと過ごしていたら、ローランドからパートナーは務められないと言われた。

家の都合らしい。

内心で、よしっと拳を握り締め、外面は笑顔で残念ですねと言っておいた。

その際に詫びとして休日出掛けようと言われたが、丁重に断り事なきを得る。


ローランドとのパートナーの件がなくなったことで、周りも落ち着いたらしく、突き刺す様な視線もほとんどなくなったし、すれ違い様の罵倒もなくなった。

概ね、平和と言える。


ただ、キャロラインと話が出来ていないのが残念だ。

近づこうにも男女の取り巻きががっちり囲っている。

キャロライン自身もアデレイドと話をしたくない様で、目も合わさない。

ローランドとのパートナーの件が原因だと思うが、キャロラインらしくない様子に首を傾げるばかりだ。


「アデル、来てやったよ」


ふいにかけられた声に振り向けば、そこにはケイシーとチェスターの姿。

ケイシーは「分かっているよね」と、言外に絶対に目を見るなよと念押ししてから、アデレイドの向かいに座る。チェスターもその隣に座った。


「どうしたの? 二人とも」

「さっきブレントに頼まれたんだよ。

アデルが一人でいるはずだから様子をみてくれって」


ケイシー達はアデレイド達とともにいることはほとんどない。

二人とも寮が違うし、自由時間は二人きりでいたいのだろう。

魅了が解けてからは二度目の同席だ。


「わざわざ来てくれなくても大丈夫なのに。

もう騒動は収まったし。一人でも大丈夫よ」

「君って馬鹿なの?」


二人の逢瀬を邪魔したくなくて言った言葉は、ケイシーの癇に障ったようだ。

目が蔑むように細くなる。


「この間お昼食べた時はあえて言わなかったけどさ。

君、長い茶髪の男にずっと付き纏われてるよね?

気づいてる?」

「気づいてるわ」


そうなのだ。

ローランドやグレアム、ジャスティンと騒がしかったり面倒だったりする人がいたので、微妙に気にしないようにしていたのだが、実はもう一人、現在魅了中の男がいる。

グレアムとの決闘中に遠目ながら魅了してしてしまった少年。

デクスター・ディラック。

少しキザっぽい仕草の少年は恥ずかしがり屋なのか。

アデレイドが登校し始めてから、気づくと物陰からじーっとじーっと見つめている。

始めは警戒もしたけど、特に動きがないので放置だ。

アデレイドが一人でいても声もかけないのだから。

それにもうあれから四週間、そろそろ自分のしている事に疑問を持つのではないだろうか。


「でも特になにを言ってくるわけでもないし。

放って置いてるけど」

「甘いね!」


ケイシーはアデレイドにビシッと指を突きつける。


「君は馬鹿だからもう気にしていないみたいだけど、ああいう陰に篭ったタイプが一番危ないんだよ」

「でも別にただ見ているだけだし。直接手を出してくるエイデン様やカーヴェル様の方が危ないと思うけど」

「自信のある人達は加減を分かってて堂々と馬鹿をやるけどね。

陰に篭ってる奴は切れたらどうしようもない事をするんだよ。気をつけなよ」


心配してくれているのはありがたいが、どこかケイシーの偏見が入ってないだろうか。

話半分に心に留める。


「それよりさ、アデル。

君、エイデンのパートナーの話なくなったんだろ?」

「ええ、なくなったわ」

「じゃあさ、もちろんブレントとパートナーを組むよね?」


にっこり微笑みながら、優しく諭すように言うケイシーだが、これはあれだろう。

アデレイドは冷めた目で返した。


「ケイシー、賭けの心配? 私が誰とパートナーを組むか賭けがあるんだって聞いたわ。

ケイシーはブレントに賭けたんでしょ?」

「な、違うよ! 誰に聞いたんだよ」

「ブレントに」


ケイシーは渋面で黙った。


「悪いけど、私はジャスティンと約束してるから、ブレントと組まないわよ」

「アデル、それ酷くない? 普段あんなにブレントに世話になってる癖にこういう時は無視するの?」

「む、無視なんてしてないわよ」


アデレイドはむっとして反論した。

ブレントを無視した事なんてない。

いつも感謝しているし、いつ愛想を尽かされるかーー魅了が解けてしまうかと不安を抱えている。

ケイシーは目を細めた。


「じゃあブレントと行きなよ」

「ブレントは他の人と行くでしょう?

よくパートナーを組んでる青の寮の人がいるじゃない。

ブレントは行事とかの時は寮の人を優先するのよ」

「そうなの? 前に黄の寮の女の子となにかの会に出てなかった?」

「・・・・」

「ねえ、君に魅了されるまで君達の事は興味なかったからよく知らないけど、君達って変じゃない?

なんで普段一緒にいて、そういう時は別々な訳?」

「それは・・」


アデレイドは言葉に詰まった。

きっかけは、二年以上前。

ブレントと行くと思っていた精霊を讃える日の祝いの会。

ブレントは他の人と行った。

約束をしていたわけではないので仕方がない。

アデレイドはその頃、人々の好奇な視線や嫌悪の視線に敏感になっていて、人の多い所は嫌になっていた。

その頃から出なくてもいい行事は出なくなったし、仕方のないものは出ても隅の方にいる。

ブレントは交友関係も広いし、自分に付き合って隅にいさせたくないアデレイドは、ブレントの誘いを断るようになった。

その為に今ではブレントも心得ていて誘わない。


「私があまり、人のいるところに行きたくないからよ」

「それは分かってるけど、でも今回はあのお子様と行くんだろ?

あいつはやめてブレントにすればいいじゃないか」

「お子様って。あの子はジャスティンっていうのよ」

「ふん、あんなのお子様で充分だよ」


ケイシーは鼻を鳴らし不快感をあらわにした。

本当にケイシーとジャスティンは相性がよくない。

多分二人とも子供っぽいところが反発しているのだろう。

13歳の子供相手にそれは、ちょっとケイシーが情けない。


「アデル、なにか失礼な事を考えてるね」

「な、なんで分かったの?」

「顔に出てるんだよ。君はあまり人の顔を見ないようにしてるから分からないだろうけど、思ってることは顔に出るんだから、無防備にしてたら全部読まれるよ」

「なにそれ! 怖い」


アデレイドは慌てて顔を覆った。


「そんな事はどうでもいいんだよ。

夜会はブレントと行きなよ。お子様でなく!」

「無理よ。ジャスと約束してるんだから」

「お子様との約束なんて破りなよ。ブレントの方が大事だろ?」

「なにを言ってるのよ。どっちが大事っていう問題じゃないでしょ?」

「そういう問題だよ。君は選ばなくちゃいけない、ブレントかお子様か!

もちろんブレントだ!

ブレントを選ばなければ、これから先、君にブレントとの未来はないよ!」


きっぱり言い切られて、アデレイドは目を見開いた。

自信満々のケイシー。アデレイドは少し揺らいだ。

もしかしてブレントに愛想を尽かされかけてる?

ケイシーはそれを言っているのだろうか。

動揺するアデレイドと勝ち誇ったようなケイシー。

その図を破ったのは、今まで沈黙していたチェスターだった。


「アデル、気にするな。

ケイシーは賭けに勝ちたくて大袈裟に言ってるだけだ」

「え?」

「チェスター、なんで邪魔するんだよ。

もうちょっとで洗脳出来そうだったのに!」


(洗脳って)


アデレイドはケイシーの言葉に胸中でつっこみを入れた。

チェスターがケイシーを窘める。


「そんな事を言ってパートナーを組ませたって意味がないだろ?

二人が望んでパートナーを組まなければ」

「いいじゃないか、取りあえず組ませておけばさ。

なんかこいつら見てるとむかつくんだよ!

なんなの、ブレントのあの態度!

せっかく僕達が心配して言ってやったのに、

『そうか、だが、俺は俺のやり方でいく。余計な事はしなくていい』なんて言ってさ。

なーにが俺のやり方で、だよ!

すれ違ってるじゃないか、ブレントの気持ちなんて伝わってない!

そんなのでエイデンやカーヴェルに勝てるかっての!」


大声でまくし立てるケイシー。

どうやらブレントになにか言って、すげなく返された模様。

目を吊り上げて怒っている。

こういう時は逆らわない方がいい。


「アデル!」

「はい!」


いきなりケイシーの怒りの矛先が自分向いて、アデレイドはいい返事をしてしまった。


「絶対にブレントとパートナーを組みなよ!

そうじゃなきゃ、僕許さないんだから!」

「いや、そう言われても」

「分かったね!」


突きつけるように言うと、ケイシーは席を立って行ってしまった。

後に残されるアデレイドとチェスター。


「まあ、ケイシーはああ言ってるけどな」

「うん」

「別にアデルがブレントとパートナーを組む必要はない」


ケイシーと反対の事を言うチェスター。

その意図が分からなくてアデレイドは首を傾げた。


「ただブレントがお前を心配して、想っているということだけ分かっていればいい」

「ブレントが心配してくれてるのは分かってるけど」

「それと、たぶんブレントが夜会のパートナーになりたがってるってこともな」

「それは・・」


アデレイドは口ごもった。

チェスターは特に答えを急かすことなく、すっと立ち上がった。


「まあ、よく考えろ」


チェスターはそれだけ言うと、東屋を出て行った。

後に残されたアデレイドはケイシーとチェスターの言葉をぐるぐると考えていた。


茶色の長髪の少年はいつの間にかいなくなっていた。






お読みいただきありがとうございます。


ケイシーは悪いやつじゃないけど、自分本位で癇癪持ち。よくキーッとなるのをチェスターが宥めてます。チェスターは感情豊かなケイシーが可愛いらしいです。

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