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第十三話

東屋へ行けば、そこに居たのはブレントだけだった。

ブレントは腕に止まっている茶色い鳥に果物をあげていた。

この鳥はさっき中庭の木に止まっていたのと同じ種類か。


「あれ、ジャスは?」

「ボランなら、お前を探しに行ったぞ。入れ違いだな」

「そっか」


探しに行こうかと思ったが広い学内だ。また入れ違いになる可能性が高い。

アデレイドは東屋の椅子に腰掛けた。

鳥はアデレイドが近づいた時点でブレントから離れ、飛んでいった。


アデレイドはグラスに果実水をついで飲んだ。


「で? なんでエイデンとパートナーを組むって話になってるんだ?」

「うぐ」


いきなり問われ、アデレイドは果実水を吹き出しそうになった。

慎重に飲み込んでグラスを置く。


「それはまあ、いろいろあって」

「いろいろって?」

「それは・・、ブレント、怒ってる?」


ブレントの声は平坦な中にも苛立ちを含んでいるようだ。


「別に怒っていない。ただ、思うところはある。

アデル。俺は昨日、溜め込むな、なんでも言えって言ったよな。

その時点でエイデンと何か起きてたんじゃないのか?」


鋭い。いつも思うが、ブレントは勘が鋭い。そしていろいろ知っている。

たまに千里眼なのではないかと思うほど。


「あー、まあ、ちょっと話をしたけど・・」


ブレントの眉間に皺が寄る。アデレイドは慌てて付け足した。


「でも、パートナーの話があったのはその後よ。

私、放課後にダンスの補習があったでしょ。その時にエイデン様が来て、話の流れでそんな事に」

「どんな流れだ。ちゃんと断ったのか?」

「断ったわよ。ジャスと行くからって。でも聞いてくれないの。

それでキャロラインがいいって言ったらいいという話になったんだけど、まさかキャロラインがいいと言うと思わなくて」


アデレイドは話していて、自分が嫌になった。

結局自分で断れなくて人に判断を預けてこの様だ。ため息をつきたくなる。

代わりにブレントが呆れたように息をはいた。


「お前はどこか抜けてるんだからそういうやり取りはやめておけよ。

エイデンとキャロライン・コルケットの不仲は有名だろ?」

「嘘! そうなの⁉︎」

「不仲というのは語弊があるな。エイデンが一方的にキャロライン・コルケットを疎んでいるというべきか。

二人が一緒にいるのをあまり見ないだろ」

「そう・・かな?」


アデレイドは首を傾げる。

先頃あった、新入学生歓迎の式でも一緒にいた気がするが。


「そりゃあ、行事とかは隣にいるさ。婚約者だからな。

エイデンは陛下の甥だから注目を浴びる。その時に婚約者が隣にいなければ余計な憶測を生む。

でも普段は一緒にいないだろ?」

「そういえば・・」


納得した。普段の生活で一緒にいるのを見ないかもしれない。

しかしそれよりも、ローランドは王妹の息子ーー王の甥だ。

それを思い出して改めて、今の状況が嫌になった。

そんな雲の上の人とパートナーを組む? 絶対にない。

来賓には偉い人が沢山いるのだろう。そんな中、ローランドのパートナーがアデレイドだったら。

後で不敬罪で処刑されてしまうのではないだろうか?


アデレイドはぶるりと体を震わせた。


「そういうことだ。あの二人にどんなやり取りがあったのか知らないが、あり得る話だ」

「そうなんだ・・」


アデレイドは呟きつつキャロラインの事を思った。

キャロラインはローランドの事が好きだ。

それはもうアデレイドに嫌味を言って、決闘を申し込むほど好きなんだろう。

それなのにパートナーを譲る? ローランドはどんな事を言ってキャロラインを説得したのだろう。

キャロラインに特攻を仕掛けるか。さっき一度失敗したけど。


「アデル、余計な事をするなよ。

今のお前の状況はあまりよくないぞ」

「うん、分かってるわ。周りの視線がだいぶ痛いもの。

しばらくは大人しくしてる」

「それもそうだが、エイデンやカーヴェルに絶対に近づくな。

奴らが見えたら走って逃げろ」

「そんな無茶な」


アデレイドは笑って返すが、ブレントは真剣だった。


「アデル。あいつらはなにをするか分からない。

あいつらには権力がある。言うことを聞く奴らなどいくらでもいるだろう」

「それは、確かにそうかもしれないけど・・」


ローランドはともかく、グレアムは大丈夫ではないかとアデレイドは思っていた。

反省しているようだし、さっきもなにも言わなかった。

魅了は解けているか分からないけど、危険な感じもしなかった。


「アデル」


ブレントはアデレイドの心中を読んだかのように低い声を出す。


「魅了された奴らはなにをするか分からない。穏やかに微笑んでいても心の中でなにを考えているか。

お前だって、わかってるだろう?」


ブレントの声にアデレイドはびくりと肩を震わせた。

今まで、魅了した男に攫われそうになったり、閉じ込められたりということのあったアデレイドだ。

魅了した男の危険性は分かっている。

でも魅了が解けた後も気にかけてくれるケイシーやチェスターの様な人もいる。

ブレントやジャスティンの様に魅了されていても楽しく過ごせる人もいる。

全ての人を疑いたくなかった。

俯いたアデレイドの頭をブレントがポンポンと叩く。


「悪かった。嫌な事を思い出させた」

「ううん、それは別に。今までもなんとかなってるし」


今までなにかあっても、魔法の無效化と魔法弾攻撃、それに副学園長からもらった色々な魔道具ーー投げつけると相手のくしゃみが止まらなくなったり、涙が止まらなくなったりーーでなんとかなってきた。

半年前に閉じ込められた時はブレントが見つけてくれた。


「アデル、油断するなよ。今までみたいに済むとは限らない。

お前を悪く言う奴も多いし、また何か仕掛けてくるかもしれない。気をつけろよ、充分にな」

「うん、分かったわ」


顔をあげれば、ブレントの微笑んだ口が見える。上を見たら目が合ってしまうので、顔を見れないのが少し悔しい。


「アデル、これから俺はなるべく側にいる。授業の合間も迎えに行くから一人で出歩くなよ」

「え」


アデレイドは思わず声を上げた。

ブレントは魅了された人達の中でも放任主義というか、四六時中側にいようとはしなかった。

今まで適度な距離で、でもいざという時は助けてくれて支えてくれるという感じだったのに。


「迎えに来るの? 授業の合間って無理でしょ、受けてる授業も全然違うのに」

「なんとかなるだろ」

「なるわけないでしょ、違う校舎で受けてる授業もあるんだから、ブレントが来るまでに休み時間が終わるわよ」

「そういうやつは出なければいい」

「ちょっ・・」


アデレイドは呆れて口を噤んだ。

六年生の、将来を左右するこの大事な時期に授業に出ないなど、あり得ない。

ブレントは軍に入ると言っていたが、欠席が多過ぎて入れなかったらどうするのだ。


「ブレント、絶対に駄目。迎えに来ないで。

授業に出ないなんて絶対に許さないから」

「お前がそれを言うか? 行事とか散々出ないでいるくせに」


呆れたようなブレントの声。正論であるが、今は横に置いておく。


「私はいいの!」

「エイデンがお前とパートナーを組む口実も、アデルが夜会に出るよう見張る為だって言うしな」

「どこで聞いたの、それ」

「その辺で女子が話しているのを聞いた。

どうやらエイデンは家に戻されないように、魅了は解けているが問題児を指導する為にアデルに構うという風に装うらしいな。

まあ、誰が見ても嘘だと思うが、そう言われれば家に連れ戻せないかもな。

ああ、そうだ。エイデンとのパートナーの件は曖昧にしておけばいい。じきに解消する」


きっぱりと言い切ったブレントにアデレイドは首を傾げる。


「なんで?」

「内密な話だが、エイデンが予想していないお偉いさんが夜会に来るかもしれない。

だから近々エイデンは呼び出されて、婚約者とパートナーを組むよう言われるさ」

「偉い人?」

「ああ」


ブレントは口角を上げ、意地の悪そうに笑う。

ブレントのこういう情報はどこで仕入れているのか分からないが、よく当たる。


「誰が来るの?」

「内緒だ。誰にも言うなよ」

「うー、分かった」


アデレイドはしぶしぶ頷いた。

しかし誰が来るのだろう? 相当偉い人。皆そちらに注視してアデレイドがいない事ぐらい気づかないかもしれない。


「それで、だな。アデル」

「ん?」


ブレントにしては珍しく言い淀んでいる。アデレイドは首を傾げた。


「夜会だが」

「うん」

「俺とパー・・・」

「ああーー! アディ、いた! 僕探してたのにー!」


ブレントの声を遮ったのは、ジャスティンだった。

そちらを向けば、ジャスティンが走り寄ってくるところだった。


「アディ、いつ来たの⁉︎ 僕、遅いから探しに行ったんだよ!」

「ごめんごめん。人と話してたら遅くなっちゃって」

「誰と⁉︎ 僕心配したんだよ。誰かに苛められてるんじゃないかって」

「あー、うーん、そうじゃなくてね」


ジャスティンの勢いに押され、体が仰け反る。

ついでに言葉も詰まらせた。キャロラインの友人達とのあれは、話し合いという括りでいいだろうか。


「ジャス、取りあえず落ち着いて。座ろう?」


噛みつかんばかりの勢いのジャスティンを宥め、座らせる。

果実水をついであげたら、ジャスティンは走って喉が渇いていたのか勢いよく飲んだ。


「えっと、それでブレント。なんの話だっけ? 夜会?」

「なんでもない」


ブレントは心なしかぶすっとした顔をしていた。












なんか迷走中。ノロノロ投稿ですみません。

お読みいただきありがとうございます。

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