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第十二話

短いです。

「え?」


アデレイドは今聞いた言葉が信じられなくて聞き返した。


場所は赤の寮の談話室。時刻は朝。

アデレイドは朝食を食堂で取って、登校の用意の為に部屋に戻るところだった。

寮の作りは各所属の談話室を通って、男子部屋女子部屋へと別れる。

窓から出たり、非常階段を使ったりするのは禁止されているので、赤の寮生はここを通る。

そんな人目に付くところでローランドに呼び止められ、アデレイドは眉間に皺を寄せた。

救いは家名で呼び、一定距離を保ってくれているところか。

どうやらローランドは、人のいるところではアデレイドの事を一寮生として扱うらしい。


「本当に、キャロライン様がいいと言ったんですか?」

「ああ、キャロラインは寮長の仕事を優先してくれと言ってくれたよ」


ローランドは笑顔を浮かべる。


(絶対嘘だ)


アデレイドは心の中で呟いた。

キャロラインがいいと言うはずがない。

しかしそれを口に出しては言えない。

ここは赤の寮の談話室で、周りでは赤の寮生がアデレイド達をうかがっている。

特に女生徒からは、射殺されそうなほど強い視線を感じる。

ここでの返答を間違えたら、これから先、無事に済まない。


「エイデン様、その件については後日でもよろしいでしょうか?

私、ちょっと用事がありまして」


アデレイドはとりあえず、この場は逃げることにした。

幸い、ローランドの口から夜会だのパートナーだのの言葉は出ていないので、周りの人々はまだなんの話か分かっていない。

知られる前にキャロラインに確かめて、ローランドの嘘を指摘して事なきを得る。

それでいこうと思ったのに、元凶がそれをぶち壊す。


「私が嘘をついていないかキャロラインに確かめに行くのか?

私の言葉は信じられないか。悲しいな」


憂いのある顔でローランドが言えば、周囲の女生徒がざわめいた。

『ローランド様の言葉を信じないなんて何様のつもり』などなど聞こえてくる。

アデレイドは口元を引きつらせた。


「信じていないなどと言っていません。

今はちょっと、用があるので話は後にしてほしいだけです」

「信じているなら別に後にする話でもないだろう。

夜会で君と私がパートナーを組むことをキャロラインが了承した。

私はそれを伝えただけだ」

「・・・」


一瞬の沈黙の後、主に女生徒から「なんですってえ!」っと悲鳴があがる。

生徒達が慌ただしく動いているのを尻目に、アデレイドは頭を抱えた。

これはまた騒動が起きる。


(もう泣きたい・・)


アデレイドはベールの下からローランドを睨みつける。

甘い笑みの中にどこか腹黒さを見つけ、アデレイドはローランドを思いっきり罵倒したい衝動を必死に抑えた。





午前中のうちに、アデレイドとローランドがパートナーを組むということは知れ渡ったようだ。

一緒に登校したジャスティンは、校舎に着いて別れた後噂を聞いたらしく、ものすごい勢いでやって来てアデレイドを問い詰めたが、アデレイドは昼に話すと言ってその場を収めた。


教室を移動する時、廊下ですれ違う人々の好奇の視線、蔑みの視線、怒りの視線が突き刺さる。

すれ違いざまにぼそりと悪口を言われたり、遠くでアデレイドを見ながらなにか言っていたりするのを見ながら、アデレイドはウンザリしながら廊下を進む。


(はいはい、どうせ私が悪いんですよ。エイデン様を誘惑して無理やりパートナーに収まった悪女ですから。

キャロラインを泣かせて笑っている嫌な女ですから)


流れている噂はこんな感じ。

誰もアデレイドが嫌がっているとは思っていない。

どうせアデレイドは嫌われ者。ローランドとキャロラインを引き裂く悪役である。


アデレイドは昼休み、キャロラインと話が出来ないかと白薔薇のサロンがある方へと歩いていったが、途中の廊下で敗退した。

キャロラインの友人らしい女子生徒に囲まれなじられた挙句、ベールを取られ、

「この泥棒! キャロライン様の物を盗むなんて!」

と言われた。

誤解は解けず、アデレイドは諦めてその場を後にした。


現在、アデレイドはいつもの昼食を取る東屋でなく、中庭にあるベンチに座り、はぁっと重い息をついている。

多分ブレントやジャスティンが東屋で待っているが、少し落ち着いてから行きたい。

さすがに大勢になじられた後、すぐには笑えない。


ベンチに座って足元を見ていると、影が差した。

顔を上げると、そこにいたのはグレアムだ。

アデレイドはふっと息を吐いて笑む。

三週間前もこんなことがあった。前は決闘を申し込まれたがーー


「大丈夫か?」


グレアムは気遣うような声を出した。

三週間前と真逆と言ってもいい態度のグレアムを見て、人は変わるんだと思った。

今は嫌われているアデレイドだが、この人のように変わってくれる人はいるのかもしれないと思ったら、少し気分が浮上した。


「ええ、大丈夫です。少し考え事をしていただけで」

「そうか。隣に座ってもいいか?」

「どうぞ」


アデレイドは肩を竦めて応じた。

座ったもののグレアムはなにも言わない。

居心地が悪くなったアデレイドは口を開いた。


「カーヴェル様。昨日はすみませんでした。

言い過ぎ・・てはいないですけど、言い方が悪かったと思っています。

あと、多分八つ当たりしました」

「八つ当たり?」

「カーヴェル様が来る前にいろいろあったので」

「ローランドの事か?」

「エイデン様もそうですけど・・、その前にちょっと絡まれていたので、気が立っていたんだと思います」

「・・・・」


グレアムは黙った。アデレイドも言うことがなくなって口を閉じた。

アデレイドは前を見る。

先には花が咲く花壇がある。

ベールをしていては綺麗な花の色が分からないままだった。

とすると、先ほどベールを取られたのはいいことだったのかもしれない。

綺麗な花が見れたから。


アデレイドはよしっと腹に力を入れると立ち上がった。

グレアムを見ずに告げる。


「カーヴェル様。ありがとうございました。

おかげで少し気分が浮上しました」

「私はなにもしていないが」


戸惑ったような声が聞こえる。

アデレイドはクスッと笑った。


「なにか言ってたら、またカーヴェル様に腹を立てたかもしれないのでちょうどいいです」


グレアムはうっと呻いた。

失言の多いグレアムだ。これからもそうやって黙っていてもらいたい。

アデレイドはグレアムから距離を取って振り返った。


「カーヴェル様。ちゃんとブレントと話し合って下さいね。

多分カーヴェル様の誤解ですから。

ブレントはいい人ですよ。嫌われ者の私のそばにいてくれるんですから」

「アデレイド」


グレアムが立ち上がる。

アデレイドはそれを無視して「さよなら」と言ってその場を去った。












お読みいただきありがとうございました。

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