第1話~Shadai Sophia~
馬の名前は実在のものを使いますが、人物名は架空のものとさせていただきます。
ある程度、競馬に詳しい人ならモデルの分かる方もいるでしょうけど……
俺のやってることにはどれだけの価値があるのだろう?
会社では雑務を繰り返し、出世コースからとっくに外れている。
いわゆる平社員の身で、彼女もいない、唯一の趣味は幼馴染が好きだった競馬、大学生だったころの俺はその幼馴染が2年目にして関西のリーディングジョッキーに輝いたというニュースを聞いて自分のことの様に喜んだ。もっとも、連絡は取ってなかったのだが、少し前に八百長疑惑で騒動になった時、久々に連絡がきた。
「お前は俺の騎乗を八百長だと思ったか?」
そいつが言うには、その馬はスピードは素晴らしかったが折り合いに難があり、ダービーや菊花賞を戦うために折り合いを覚えさせる必要があったという、奴の問いに電話越しではあったが、俺はこう答えた。
「お前は自分の信じたことを絶対に実現させる奴だから、八百長なんてやらないよ」
あいつはそういう奴だった。幼いころはアイドルを志す普通の少年であったが、10年前に見たダービーに深い感銘を受けて騎手を志し、実際に騎手になった。それだけ強固な意志を持つ奴が世間の言うような理由で八百長をやるとは、どうにも思えなかったのだ。
「俺の騎乗は正解だったといえる機会を失った……それだけが心残りだ」
奴の乗っていた馬はレース後に故障が見つかり、故障が原因の敗戦ということで、世間的には騒動は収まった。そいつの騎乗はやむを得ないものだとされたのだ。だが、奴としてはダービーや菊花賞を見越した騎乗をしてたのだから、そんなうやむやな終わり方では納得できなかっただろう、強固な意志を持つからこそ、灰色の終わり方は嫌いだったと思う。ダービーや菊花賞であの騎乗が正解だったと認めさせる自信があったからこそ……
なおさら、納得できなかっただろう
そいつの話を思い出していくうちに、冒頭の言葉を吐いたのだ。今、競馬界には「100万ドルの価値がある」といわせしめた1頭の快速馬が話題の中心にいた。
その馬の名はシャダイソフィア
米国リーディングサイアーを8回も獲得した名種牡馬ボールドルーラーの娘を母に持ち、昨年、ついに初のリーディングサイアーを獲得し、以後、10回に渡ってリーディングサイアーに君臨した名種牡馬ノーザンテーストを父に持つ良血馬
新馬戦では10馬身差をつけて、レコードを0.5秒更新する衝撃の勝ちっぷりを見せつけると、二戦目の函館3歳Sでは単勝1.2倍の支持を集めると、危なげない横綱相撲を見せつけて勝利する。
その後の二戦も叩き台としては、十分な走りを見せており、最大目標の桜花賞へと向かった……向かった桜花賞はあいにくの不良馬場であったが、ここでは悠々と勝利を収めて、渡辺栄治調教師と猿田滋人騎手に初の八大競走制覇をもたらしたのだ。
その馬の走りは確かに100万ドルの価値があると言われるほど優雅であり、その走りを武器に牡馬へと立ち向かうこととなった。
シャダイソフィアは結果として100万ドルは稼げませんでした。(生まれたときのレートは1ドル=308円なので約75万ドルくらい)
渡辺栄治……モデルは渡辺栄調教師、他の有名管理馬に年度代表馬・ジャングルポケット、幻の三冠馬・フジキセキ
猿田滋人……モデルは猿橋重利騎手、騎乗馬ではシャダイソフィアがもっとも有名