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2−(−3)=5

作者: カドクラ

「いいか、こういう時はな」

 数学の先生が、黒板に書かれた問題をさらさらと解いていく。

 2−(−3)=5

 マイナスの数字の引き算する時は逆に足す、ただそれだけ。実に簡単な問題だ。

 そんな簡単過ぎる問題を解いた先生は、「どうだ、分かったか?」みたいなことを言いやがる。

 分かってない奴なんかいない。俺は大声でそう言ってやりたかった。

 しかし、俺はそんなアクティブな人間ではない。なにも言えずに、さっき俺が描いた犬や猫がある机の隅に、再び落書きを始める。

 今度は何を書こう。適当な題材を考えながらペンをくるくる回す。

「なに、また下手な落書き始めるの?」

「え?」

 突然声を掛けてきたのは、隣の席の大木だった。

 大木といえば変人で有名で、クラスの九十九パーセントの人は嫌っている。それはもう、悪口を普通に表立って言えるほどに。

 だからといって、別に俺は嫌っていないのだが、なにせ話したことが一度もない。突然話し掛けられたって返す言葉が見当たらなかった。

 そんな俺を、大木はやたら鋭い目つきで俺を睨んでいる。

「な、なんだよ」

 大木は何も言わず、じっと俺を睨み続けている。かなり気まずい。

 こんな状況の場合、友達に助けを求めるのが一番いいのだが、残念ながら周りは授業に集中していて話しかけづらい。

 こういう時は無視するのが一番いいのだろう。俺はそう思った。しかし、大木とはいえ、女性を無視するのはどうしても気が引ける。

 せっかくなので少しだけ、質問をしてみようと思った。

「大木ってさ、趣味とかあるの?」

 お見合いみたいな質問をしてしまって、少し恥ずかしい。

 すると、俺を睨み付けていた大木がゆっくりと口を開く。

「釣りと映画と編み物」

 大木が普通に答えた。あの何を聞かれても「うざい」「死ね」しか言わない大木が普通に答えた。

 俺はかなり驚いた。

 大木が普通に答えるなんて、実は地球が四角かったというくらい有り得ない。

「あんたの趣味は?」

 今度は質問まで。驚きすぎて、感動の域に入っていた。

「俺も釣りかな」

 金が無いから、一ヶ月に三回程度しか行けないけど。心の中でそう付け加える。

「なに釣るの?」

「この時期だとメバルとかキスとかマゴチとかかな」

 そう言うと、大木は勝ち誇った表情で俺を見てくる。釣りに関しては、長年やっているせいか、そういう態度はイラっとくる。

「大木はなに釣るんだよ?」

 大木は机に肘を着き、ふぅと悩ましげな溜息を付く。

「まぁ、最悪クロダイみたいな感じ」

 あぁ、すごいムカつく。

 釣りは、釣りだけは負けない自信があるけど、ここで反論するのも負け犬の遠吠えみたいで嫌だ。ていうか、俺は一回しかクロダイ釣ったことないし。完全に勝てないし。

 大木はそんな俺を軽く鼻で笑う。

 すごくムカつくけど、皆が言うような奴じゃない。俺はそう思った。

「大木って、以外に普通なんだな」

 思わず口に出してしまう。

 大木は不思議そうに首を傾げる。

「なんでよ?」

「いや、その……結構、大木のこと嫌っている奴多いじゃん。だからさ、変わってるのかなぁって」

「それは、あいつらが変わってるのよ。だから、普通な私を理解できないの」

 そう言う大木は表情一つ変えない。

 一見、大木の言葉は強がりに聞こえるかもしれない。だけど、大木からはどこか揺らぎない自信のようなものが感じられる。

「大木はすごいな」

「なんでよ?」

 大木は再び首を傾げた。

「だって、すごいプラス思考じゃん」

「そんなことないわよ。私はマイナス思考よ」

「嘘つけ。マイナス思考だったら、悪口とか耐えられないだろ」

 俺は少しムキになってしまう。

 悪口言われる原因が大木にあるとはいえ、マイナス思考では無いことは確かだ。俺だったら、とっくに引きこもりになっている。

 そんな俺に、大木は呆れた表情になる。

「あんた、この式を知らないの?」

 そう言うと大木はノートを見せてくる。

 そこには2−(−3)=5と書いてあった。

「マイナスはマイナスを反転させるのよ」


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― 新着の感想 ―
[一言] オチがいいっす。かっこよく決まりましたね。不覚にもニヤリと笑ってしまいました。 ただ落書きの話から会話が始まったのですから、そちらで繋げると自然ではないでしょうか。動転していたとはいえ、趣味…
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