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~Episode of Spring IX~

(こりゃあ、そろそろ本格的に降ってきそうだな……)

 9000rpmをさしたまま、ほとんど動くことのないタコメーターのパネルへ雨の斥候が一粒落ちてくる。

 首都高速湾岸線。サーバー用のハードディスクが入っているという小箱を、横浜にあるデータセンターまで届けた帰り道。

 三鳥栖志智みとす しちの操るVT250スパーダはまとわりつくような六月の湿気を切り裂いて、高速巡航をつづけている。

 羽田空港のビルを左右に眺めつつ、今やほとんどその用をなしていない大井料金所をぬける。トラックの列を縫うように、左右へ車線変更をくりかえしていると、あっという間に東京港トンネルへ至る。

 その先に広がるのは、有明や台場といった歴史新しい世界。

 電力節約のためにライトアップを取りやめているレインボーブリッジを、横風にあおられながら渡り終えると、東京タワーが暗闇にぼんやりとその輪郭を見せている。

 セパレートハンドルに巻き付けた100円ショップの腕時計。道路灯がその液晶を照らした瞬間、時刻を読みとる。

 木曜日。いや、とうに日付が変わって金曜日の午前二時。

 首都高都心環状線――C1に入ってしまえば、目的地の永田町まではすぐだった。


「戻りました」

「おう、『さんとす』か。オツカレ」

 志智がアルバイト先である『テラ・ロジスティクス』へ戻ると、彼の雇い主は机にかじりついたまま、声だけで出迎えた。

 女性である。その両目は眠気との戦いを主張するようにきつく細められているが、一度着替えたのか服装はまるで自宅にいるときのそれだった。

「あーお前、横浜に出たんだっけ? 今夜はな、もうあがっていいぞ。遠いとこ、オツカレな。

 おーそうそう、コーヒー飲むか? よし飲め。飲んどけ」

 返事も聞かずに彼女は缶コーヒーを放り投げた。マークIアイボールの視角がよほどいいのか、その視線は机の書類にむいたままだったが、真っ黒なブラックコーヒー缶は志智の手元へ正確な弾道で飛んでくる。

「んだっと、ったくこれだから議員のセンセ方は……いきなりねじ込んできやがって……」

「あの、社長」

「誰が社長か、『さんとす』。あたしのことは頼子と呼べといったろう。あー、もう仕事はないぞ。帰っていいからな」

「えっと、頼子さん。はい。とりあえずコーヒー、頂きます。あと、帰っていいのはもう聞きました」

「あー、おー、そうだったな。偉いぞ『さんとす』、よく言った。

 くそっ……まんずはあ、かっつぐだぎゃな……とにかくだ、そういうことだから帰っていいぞ。とっとと帰って寝て、勉強しろ」

「……はい」

 眠気まなこの三割頭で、彼女の言葉は前後がつながっていない。

 その名を藍田頼子あいだ よりこと言う。

 彼女は端的にいってしまえば、志智のアルバイト先の社長だった。

 東京における『政』の中心である永田町の一角にバイク便業者『テラ・ロジスティクス』の事務所を構える女社長であり、そして数年前に急逝した夫の跡を継いで未だ慣れぬ経営の道と格闘する、ひとりの苦労人である。

(頼子さんがこんなに遅くまで働いてるのに、俺がさっさと帰るのはなんだか申し訳ないよな……)

 コーヒーを飲みほしてからも、なんとなく志智が居心地悪そうに立ちつくしていると、頼子はじろりと彼を見た。

「こら、『さんとす』」

「なんですか、頼子さん。それと俺は三鳥栖みとすですけど」

「うるさい黙れ。読みようによっては、さんとすだ。だから『さんとす』でいいんだ。

 あたしのダンナもな。好きだったぞ、『さんとす』。別にお前は似てないが、だから『さんとす』だ。

 ところでお前な、誕生日いつだったけな」

「11月ですけど」

「あー、そうかそうか。それじゃあ、あと半年近くだな。そうなったら、タイムカードとかな。あのな。ちゃんとやってやるからな。うん。もうちょっと待てな。それと今月分の給与明細もったか? さっきそこに置いといたが」

「明細は受け取りました。

 あの頼子さんには……助かってます、すごく。本当は18にならないと、こんな時間に働けないって、俺、知ってるんで」

「あー、まあそうだな。祇園田さんとこの頼みだしな。

 まあウチなら誰も文句は言わん。こんなときのために議員のセンセ方へ恩売ってるしな」

「ありがとうございます、本当に」

「んー、わかったらさっさと帰れ。はよ帰れ。あたしはもう少ししたら寝る。

 そういうことだからな。いいか、帰れよ。わかったな。

 ……さしねちかしこと言うっきゃなあ……けっぱれ言うどものっつど銭ごぁいるど……」

(いつも思うけど、どこの国の言葉なんだろうな……)

 がりがりと後頭部をかきむしりつつ書類へ向かう頼子の口からは、志智に解読できない言葉が流れだしてくる。

 せめて頼子の集中を邪魔しないようにと、なるべく足音を立てずに志智は事務所の外へ出た。自転車置き場かと見まがうような屋根の下では、スパーダとならんで緑ナンバーのCB400SFがその身を休めている。

 ポケットから取り出した一枚の封筒。おそらく役所へ提出されることのない明細には、週明けの月曜日に振り込まれるであろう労働の対価が記されていた。

「そう……だな。本当に助かっているよな」

 三鳥栖志智みとす しちが『テラ・ロジスティクス』でバイク便のアルバイトをはじめて三か月ほどになる。

 本来であれば、高校生の彼にできる仕事は限られており、しかもその時給は高いとはいえない。

 志智がバイク便という業種に行きついたのは、少しでも高い給料を求めてのことだったが、そこに至るまでは様々な問題があった。

 未成年であること。学生であること。何よりも事故の危険が飛躍的に高い、バイク便という職業特有の問題……。

 そもそも18歳未満の少年を深夜に労働させているだけで、本来は違法行為であり、当然、志智は学校にも秘密にしている。

 なぜ、こんなことが可能であるのかといえば、永田町という土地に人脈を持つ藍田頼子と、血筋をたどれば地元の名家である祇園田宗義の力があってのことなのだが━━

「……ま、働きで返すしかないよな」

 水・木・金の週三日間。午後八時から日付が変わった丑三つ時まで。

 普通の高校生に可能なアルバイトであれば、一日あたりツーリング数回分の費用が捻出できるかという労働時間だが、志智の稼ぎ出す金額は倍以上にもなる。

(俺が働いて……たくさん稼いで……そのぶん、千歳も楽になる……祇園田おじさんに恩返しもできる……)

 眠い目をこすりつつ、本降りの雨をかきわけ、三鳥栖志智のスパーダは甲州街道をひた走る。

 自宅へ帰り着く頃には、午前四時近いだろう。太陽が顔を出すよりはやく、眠りにつきたいところだった。


~~~~~~Motorcycle Diary~~~~~~


 それからおよそ五時間の後。

「ふわ……」

「おにいちゃん、すっごい眠そう……だいじょうぶ? 辛くない?」

「いや、大したことないよ」

 朝方に強まった雨足は衰える様子がなかった。空梅雨の観測をあざ笑うかのように、南田磨校への通学路に降りしきる雨が、兄妹の傘を叩き続ける。

「雨のせいで気温も低いし、かえって過ごしやすいかもな」

「もうすぐ夏だね。おにいちゃん、夏休みくらいは楽してほしいな。わたしもアルバイトするからね。だから、ゆっくり休んでね」

「何いってんだ。夏休みこそたっぷり稼いでやる。お前はまだ一年生なんだから、バイトなんてしなくてもいいんだよ」

「え~……でも」

「━━いいんだよ」

「おにいちゃん……」

 睡眠への欲求だけが支配していた志智の瞳に、暖かく優しいものが宿る。

 それは千歳ちとせにとって何よりも愛しく、逆らい難いものだった。

「そっか……残念だけど、おにいちゃんが言うなら、そうするね」

「よし、いい子だぞ、千歳」

「んっ……」

 肩を落とす千歳の頭へ、志智の長い腕が伸びる。わしゃわしゃと髪をなで回す間に、傘からはみ出た袖の一部を雨のしずくが濡らしていく。

「あ、そういえばね、おにいちゃん」

「なんだ?」

 ほんのりと頬を紅潮させながら、千歳が踏み出した一歩が水たまりを打つ。

 跳ねた水しぶきが自らの靴を濡らしても、志智は気づくそぶりすら見せない。

「あのね、わたしのクラスに転校生が来るんだって」

「転校生? そりゃあ珍しいな。そもそも南田磨って編入できるのか?」

「なにいってるの、お兄ちゃん。亞璃須ありすさんだって、転校生でしょ」

「ああ……そういえばそうか。あいつは今年からだったよな。ずっと前からいたような気になってた」

「その人ね、海外にいたんだって。亞璃須さんと一緒だよね。帰国子女っていうのかな」

「ふーん、今年だけで何人も。よく来るもんだな」

 首をかしげながら、志智は言う。

 そういう時代なのか。海外といっても欧米なのか、アジアなのか。国の数ほど候補はあるのだ。

「担任の先生はね、『洗い立ての犬みたいな匂いがする』って言ってたんだけど」

「……なんだそりゃ。香水でもつけてるのか、そいつは」

「きっといい人だよ」

 この世のすべては明るく正しいことで出来ていて。

 不幸や悲しみは、例外中の例外に過ぎないことなのだ。

「……そうだな。そうだといいな」

「うんっ」

 そんなことを主張するような妹の笑顔は、志智にとって何よりも大切なものだった。


 一時限がはじまって、しばらく後のこと。

「失礼。遅れました」

「ああ日原院か。話は聞いている。はやく座りなさい」

「はい」

 国語の教師へ一礼して日原院亞璃須が着席する様子を、志智は雨模様の空へむける興味ほどに、低い関心で眺めていた。

(珍しい……ああ、これも珍しいもんだな)

 どちらかといえば、始業ギリギリの時間に登校することが多い志智と異なり、亞璃須は余裕をもって教室に来ていることが多い。

(そのあいつが遅刻、ね)

 教師が連絡を受けていたところを見ると、始業前に自宅から電話でもしていたのだろうか。

「ふ、は……ぅ……」

 芥川の朗読が子守歌となって、志智の意識を眠りの底へと沈めようとする。

 外から聞こえる雨音。もうろうとする意識の中で、この分だと土日は走れそうもないなと考える。

(今週は……何か千歳の喜ぶようなことでもしてやるかな……家でだらだらするのも、たまにはいいよな……)

 襲い来る眠気との戦いは、授業の開始三十分で志智の敗北に終わった。


「志智。そろそろ起きた方がいいですわよ。志・智。二時限目をそのまま寝て過ごすつもりですか?」

「……なんだ、亞璃須か」

 どうにも慣れない両手が肩を揺さぶっているな、と思いながら。

 ヒュプノスの世界から強引に引き戻された志智は、どこか恨みがましいものを瞳へたたえて、日原院亞璃須を見る。

「お前は寝坊して遅刻したんだから、俺も授業を寝過ごしておあいこだろ」

「何を馬鹿なことを言ってますの?

 そもそも、わたくしは寝坊したわけではないのですけど」

「じゃあ、なんで遅刻したんだよ」

「家族の付き添いです」

「家族?」

 眉をひそめる志智の脳裏には、真っ先に吉脇の顔が浮かんだ。いや、しかし彼ではない。亞璃須は家族と言った。志智が覚えているかぎり、彼女は自分の執事を家族と表現したことはない。

「なんだ、両親のどっちかが病気にでもなったか? それで朝から病院に付き添ってきたのか。お大事にな。孝行したいときに親はなしって言うぜ」

「一応、お父様もお母様も息災ですわ。

 わたくしが付き添ってきたのは弟です。それも病院ではなく、この学校に」

「ふーん」

「……ふーん、じゃないですわよね、志智?

 わたくし、弟のことを話したことはありませんよね? しかもこの学校で。興味がありません? 気になりません?」

「別に」

「そんな! わたくしの弟といったら、ゆくゆくはあなたの弟にもなる存在!

 まさか、他人への無関心? そんな心の病が!

 ああ、わたくしの志智! なんということでしょう!!」

「よく分からんが、大声で意味不明なことを吹聴するのはやめろ。こちとら眠いんだ。頭の中に響く」

 こめかみを押さえながら言った志智に、亞璃須はなぜか勝ち誇るように乏しい胸を張った。

「さすが志智。よくぞ、わたくしが既成事実化を着々とすすめていることに気がつきましたわね」

「ウチの制服ってあれだよな。千歳くらい育ちがいいと見ててバランスとれるんだけど、お前みたいなやつがこう、ふんぞり返るとなんか哀れな雰囲気があるよな」

「チョークを口の中に詰められるのと、椅子の角で殴られるの、どちらが好みです?」

「どっちもお断りする。で、お前の弟が……なんだって?」

 志智は思う。どうしてこんなにも彼女は、笑顔のままで内なる怒りを表現するのがうまいのかと。

(そして、俺が折れてこうなって……結局こいつのペースだ)

 ふてぶてしく志智が頬杖をついてみせているのは、せめてもの抵抗だった。

「きょうが転校初日なので、弟の手続きにつきそっていたら授業に遅れたと。

 まあ、そういうことですわ」

「転校初日ねえ……ん? ひょっとしてお前の弟って━━」

「━━クラスは1年F組になったのですけれど、たしか志智の妹さんもF組でしたわよね?」

「……ああ、そうだったな」

 なるほど、やたらとただの付き添いに説明をつけるのはそういうことかと、志智は納得しながらうなずいた。

「そうか。千歳のやつが言ってた転校生ってのは、お前の弟だったんだな」

「そちらでも話は出ていたみたいですわね」

「別に隠すもんじゃないからな。それにしても偶然だな。

 お前の弟っていうと、やっぱり傲岸不遜でやたらと挑発的だったりするのか? 喧嘩とか好きそうだよな。千歳が絡まれたら大変だ」

「おあいにくと。

 何しろわたくしの弟なので、自慢するほどでもないですが、紳士的━━ということもないですが、男らしく━━とも言いがたいですが」

「なんだそれ」

「……まあ、少なくとも害はありませんわ。その点は保証します。

 とりあえず姉としてあなたのことを紹介したいのですが、昼休みの予定は?」

「特にないよ」

「じゃあ、決まりですわね」

 にんまりと笑う亞璃須。志智はその表情をどうしても千歳の笑顔と比べてしまう。

(あいつとは違う……陰謀をめぐらせて世界征服でもしそうな笑い方だ……)

 それはそれで亞璃須の個性と分かっていても。

 そして、彼女に対して偉そうな口をきけるほど、自らが立派な人間ではないと自覚してはいても。

「ふぅ……」

「何か失礼なこと考えてません?」

「べ・つ・に」

 呆れまじりのため息までは止められない志智だった。


~~~~~~Motorcycle Diary~~~~~~


 昼休み。

 日原院亞璃須にっぱらいん ありすと共に、三鳥栖志智みとす しちが廊下へ出ると、そこには弁当の包みを二つぶらさげた千歳が立っていた。

「あっ、おにいちゃん」

「なんだ、千歳。どうしたんだ?」

「お弁当。おにいちゃんの分、渡し忘れちゃって」

「ああ……そういえば、お前に持たせたままだったな。悪い。

 でも、それなら中に入ってくればよかったのに」

「あはは……で、でも三年生の教室ってやっぱり入りづらくって」

「妹さんは律儀ですわね」

「亞璃須さん、こんにちは。いつもおにいちゃんがお世話になっています」

「ごきげんよう、千歳さん。こちらこそ、いつも志智のことをお世話させて頂いていますわ」

 ぺこりと頭を下げる千歳に対して、ゆるやかに流れる河のような亞璃須のお辞儀。

 そして、その間で複雑な顔をしている三鳥栖志智。

「志智。何か不満でも?」

「いやまあ……別にいいんだが」

「妹さんに会えたのはちょうどよかったですね」

「まあ、そうだな」

「ふぇ? おにいちゃん、どうかしたの?」

「いや、お前のクラスにさ。転校生が来ただろ。そいつ、亞璃須の弟なんだってさ」

「へぇ……あっ、そういえば名字が一緒だったね」

「日原院を名乗る家がいくつもあっては困りますけれどね」

「あっ、やっ、そうじゃなくてっ。

 そのっ、名前の方が外国風だったから、そっちの方が印象的で」

「へえ、外国風か。

 お前も『アリス』だもんな。あれか。日原院ハンプティーダンプティーとか、そういう名前か?」

「キラキラネームも裸足で逃げ出しそうな名前ですわね、それは」

「しかも卵だぞ」

「自称・紳士ですわ」

 喧噪のあふれる昼休みの廊下を、志智たちは歩く。

 それは第三者からみれば、両手に花そのものと言ってよい光景だったが、二本の花を抱える男の容姿もまた、平均値にはおさまらないと言えた。

(胸を張ると哀れに見えるデザイン、と志智は言いましたけど)

 同性から向けられる羨望まじりの視線を感じながら、日原院亞璃須は志智の横顔をみあげる。

(わたくしからすれば、志智のような長身でこそ、引き立つ制服ですわ)

 その思いはおそらく彼の妹も共有しているはずだった。

「弟とは購買の前で待ち合わせています」

「レストスペースになっているから、昼飯もそこで食えるな」

「じゃあ、今日はおにいちゃんと一緒にお昼だね。やたっ」

「……あれか。わかりやすいな、お前の弟」

 購買に並ぶ生徒たちでごった返すレストスペース。

 亞璃須の視線を追うまでもなく、志智にも千歳にも彼女の弟がどこにいるかは明白だった。

 まず、髪の色。そして、背丈。

 なるほど、金色で小さいのを探せばいいわけだ。それが日原院亞璃須の弟であるはずだった。

「あっ、姉さん」

 その金色で小さい少年は、落ち着かない様子で辺りを見回していたが、亞璃須の姿を認めると、子犬が飼い主を見つけたときのように駆け寄ってくる。

「紹介しますわ、わたくしの弟です」

「うわ~……すっごいおっきい人だあ……」

 亞璃須の隣で志智を上目遣いにみあげる瞳の色は、左が青。右が黒。

(つまり、亞璃須と逆か)

 金髪の高校生が二人並んでいるだけでも不思議な光景だが、その両者が互い違いのオッドアイとなると、神秘的ですらある。

「挨拶なさい。わたくしの大切な人と、その妹さんです」

「どうもはじめまして」

 外国育ちにしては、日本的に頭を下げる少年の身長は、姉である亞璃須とほとんど変わらない。

 厳密に見くらべれば、若干、少年の方が高いかもしれないが、ほとんど誤差の範囲といえる。光り輝くような金髪は、しなやかに伸びる亞璃須のロングストレートと異なり、ふわふわと弾力を持っているよう見えて、本能的にかき回したくなるような魅力を放っている。

 顔立ちは少年というよりは少女に近く、まだ中学に入ったばかりと言っても、誰もが信じるだろうと思える幼さがある。

「日原院ティックです。よろしくお願いします。三鳥栖志智さん。

 それと三鳥栖……ち、千歳、ちゃんっ」

 その顔はなぜか上気し。

 そして、微かに震える語尾に、三鳥栖志智はどこか嫌な予感をおぼえていた。

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