ハナビヨリ
特に書きたいことはないんですが、私が初めて書いてみたものなのでヘタです。それでもよければ読んでみてください。
僕が彼女と知り合ったのは桜が舞っていた高校の入学式のときだ。艶のある黒髪、整った顔、女優顔負けのスタイルの良さ、老若男女どの世代の人が一目見ても可愛いと思うほどの美貌の持ち主だった。
彼女の名前は白石夏樹。
僕は高校入学から三ヵ月間ずっと“好き”という気持ちを抱いている。
今日は七月四日、入学式からちょうど三ヵ月が経った。この三ヵ月間で僕にとってとても衝撃的な出来事が二つあった。
一つ目は、僕の親友である坂本彰斗が白石さんに告白をしたことだ。
彰斗はどこからどう見ても美男子でどこかしら他人を寄せ付けない雰囲気を持っていた。誰しもが白石さんは彰斗の申し出を受け入れると思った。しかし、驚くことに呆気なく彼はフラれてしまった。そのとき彼女はこう言ったらしい。
「私には好きな人がいるの。だから、ごめんなさい。」
“白石さんには好きな人がいる!”
その言葉は学校内の“白石Love派”の男子の中ですごい話題になった。
二つ目は、白石さんとメールアドレスを交換できたことだ。それから白石さんとは教室の中でもよく会話をするようになった。最初は挨拶程度だったが、今では仲の良い友達以上の会話をよくするようになった。
昼休み、僕は初めて白石さんを昼食に誘った。白石さんは笑顔で「うん、いいよ。」と応じてくれた。教室の中では他の男子の目が恐ろしかったので屋上に行くことにした。
屋上に続く廊下を一緒に会話をしながら歩いていると彼女がまた笑顔を見せてくれた。
僕は思う。彼女の笑顔はこの世にある美しいといわれている全てのものに勝るほど美しいと。
僕は思う。彼女の笑顔はこの世にある可愛いといわれている全てのものに勝るほど可愛らしいと。
屋上に通じる扉を開けると、夏特有の生温かい風が僕らの頬をやさしく撫でた。屋上に出て、空を見上げると青く澄んでいてどこまでも見通せると思わせられた。
僕が通っている四ノ宮高校は田舎にあるため、あたりに高い建物がない。そのおかげで屋上からの眺めは最高だった。
「わぁ~。」
僕より先に屋上に飛び出した白石さんは子供のようにはしゃぎながら屋上にある鉄柵の手前まで行って様々な方向を眺めていた。
今さらだけど、僕の名前は近藤拓磨。白石さんとは違って特に目立つところを持っていないただの高校生だ。
白石さんは、ちょうど屋上の階段のある小屋で影になっているところを指差して言った。
「ねぇ、拓磨。そこでご飯食べよ?」
「涼しそうだね。ちょうどいいかも。」
影になっているところに行くとひんやりとしていてすごしやすそうだった。白石さんは壁に寄りかかるように座り、僕は向かい側に座った。お互いにお弁当を広げて会話をしながら食べ始めた。
僕たちが暮らしているのは夏月町。一年に一回、七月七日に開催される古い歴史を持つ花火大会が有名だ。今、僕たちがいる屋上からでも花火は綺麗に見える。
白石さんがポンッと手をたたいて「そうだ!」と目を輝かせながら僕に話をしてきてくれた。これがまた可愛い。
「ね、拓磨。この前遥香にね、一段と可愛くなったねぇ~って言われたんだ~。拓磨はどう思う?」
「白石さんは一目見たときから可愛いって思ってたよ。」
僕が何も隠さずに正直に告げると白石さんの顔はみるみる赤くなっていった。そして俯くと小さな声で独り言のように呟いた。
「は、始めてみたときから・・・可愛いって思っててくれてたんだ・・・えへへ。」
その場に変な空気が流れた。これを打開しようとして僕が言葉を発するより早く、僕のちょうど真正面にある屋上の扉の方から一人の眠たそうな声が聞こえてきた。
「おー、ナッキーとたっくん。こんなとこにいたんだー。」
拓磨はそちらを見ると右手にお弁当を持った女の子が立っていた。
拓磨のクラスメートであり、白石さんの親友である石川遥香だ。
天然パーマでセミロングの髪の毛、特徴的なしゃべり方、いつも眠たそうにしているたれ目、人懐っこい性格、白石さんには及ばないものの美少女の枠に十分入りうる女の子である。
「あ、遥香~。」
「お昼ご飯行くならあたしも誘ってよー。二人がいなくてちょっと寂しかったんだぞー。」
と言いながら白石さんの隣にお弁当を広げた。石川さんはお弁当を広げると花火の話題を出してきた。
「もう少しで花火大会だねー。ナッキーは今年どうするのー?」
「え、私?」
白石さんはチラッと僕を見てから続けた。
「私は・・・誰かと一緒に行きたいな。」
石川さんは白石さんの小さな反応も見逃さずに「ヒューヒュー。」とからかってきた。すると白石さんは真っ赤になった顔を石川さんに向けた。
「や、やめてよ遥香。怒るよ?」
「あははー。やっぱりねー。たっくんがんばれよー。」
石川さんは怪しげな笑みをこちらに向けながらグッと右手の親指をたてた。
「もう!やめてってば!」
僕は彼女たちの会話の主なところはわからなかったが、石川さんの性格に振り回される白石さんを見て苦笑した。それからも僕たちは昼休みのギリギリまで屋上でご飯を食べた。五限目の授業にはギリギリ間に合った。
SHRが終わって放課後になると、僕は鞄を持って隣の教室に向かった。親友の坂本彰斗と一緒に帰るためだ。隣の教室に入ると彰斗はすぐに見つかった。彼の席は教卓から見て右奥、つまり窓際の席だ。彼は僕を見ると友達との会話をやめて鞄を持って僕のところに来た。
「よ、拓磨。」
「やあ彰斗。」
僕たちは短い挨拶を交わすと無言で歩き出した。
校門を出たところで自然と彰斗は口を開いた。
「夏樹とは上手くいってるのか?」
「結構順調だよ。」
「そうか。」
彰斗を知らない人はパッと見ると、他人とは関わりたくないような雰囲気を出していて話しかけずらいと思うが、実際に話してみるとそんなことはない。誰とでも腹を割って心の奥底まで他人に見せながら話すため決して嘘はつかない正直者だ。正直者であるがゆえに嘘をつく者は決して許さない。それが親友の僕であってもだ。
「自分には絶対に嘘はつくなよ。好きなら好きだーって言っちまえ。夏樹の反応がどうゆうのになるかはわからないが、その答えは必ずお前にとってプラスになるはずだ。」
「ああ。でも、僕にはそんな勇気ないよ。」
「そのままだと、夏樹を他の奴に盗られちまうぞ。ま、がんばれよ。」
彰斗は僕にそう告げると僕とは逆の道に向かった。
「僕にもそのくらいわかってるさ・・・。」
僕は彰斗の背にそう囁くと自分の家に向かって歩みを再開した。
□
時はさかのぼり、SHR終了後。
白石夏樹は拓磨に声をかけようと思い席を立ったが、その前に右隣に座っている石川遥香に声をかけられた。
「ナッキー、一緒に帰ろー。」
「あ、・・・。」
夏樹はチラリと拓磨のほうを確認したが、拓磨はすでにいなくなったあとだった。
「あれー、何か邪魔しちゃったかなー?」
遥香はなんだか悪いという表情をつくった。
夏樹は遥香に向けて笑顔を向けながら告げた。
「大丈夫だよ。帰ろっか。」
夏樹の言葉を聞くと遥香は満面の笑みを浮かべながら「うんー。」と言った。二人は校門まで話をしながら歩いた。校門を出ると夏樹は話題を世間話から自分のことに変えた。
「ねぇ、遥香。」
「んー、何ー?」
夏樹は一拍置いてから話を再開した。
「私の好きな相手、気がついちゃってる?」
「もちろんー、ナッキーのことなら何でも知ってるからー。」
遥香は真剣な顔をして、自分のことのように言った。そして夏樹のほうに顔を向けると続けた。
「ナッキー、好きな人には素直に好きって言ったほうがいいよー。」
「もしも・・・もしも、だめだったら?」
「そのときは、あたしが元気になるまで傍にいてあげるよー。」と言うと、遥香は夏樹にスッと寄り添った。夏樹は少し顔を赤らめて言った。
「遥香、ありがとうね。」
「ナッキー、負けんなよー。」
そう言い残し夏樹と遥香は別れた。
□
その夜。近藤拓磨はベッドに入っても眠れなかったため二階の自分の部屋のベランダで夜空を見上げていた。彼の頭の中では色々な思考が生まれては消え、生まれては消えを繰り返していた。彼の思考を一つの言葉がさえぎった。
“そのままだと、夏樹を他の奴に盗られちまうぞ。”
今日の下校のとき、別れ際に彰斗に言われた言葉だ。ふつうの人なら、その親友から盗ろうとしたのはどこのどいつだ、と思うかもしれないが拓磨には彰斗の気持ちは痛いほどわかっていた。彼は拓磨のために可能性をつくったのだ。彰斗が白石さんに告白したときにもしもOKが出ていれば、拓磨は素直に諦めていただろう。しかし、彰斗がフラれて、他に好きな人がいるの、と言ったというのなら儚い妄想かもしれないが、自分のことが好きなのでは、と思えるからだ。そのことを見通した上で彰斗は白石さんに告白をしたのだ。フラれたときの彰斗は笑顔で僕に「フラれちった。」と言ってきた。その笑顔の裏には、“お前にも可能性がある。だから勇気を出して好きだって言って来い。”という意思が感じられた。しかし、当時の拓磨には出来なかった。
「・・・今日も星が綺麗だな・・・」
彼はベランダに置いてある椅子に腰掛けながら眠くなるまで物思いにふけた。
□
翌朝、近藤拓磨は眠たい目をこすりながらベッドから起きた。結局、二時半まで眠れなかった。着替えを済まして、一階のリビングに下りてテレビをつけた。画面の向こうでは有名なデザイナーの紹介をしていた。拓磨は台所まで行くと簡単な朝食をつくった。つくった朝食をリビングのテーブルに置いて、トースト片手にテレビを見た。彼の日課は、朝必ず星座占いを見ることだ。朝食を食べ終えると、テレビのほうも星座占いに移行していた。
『十一位、蟹座、十位、牡羊座、九位・・・』
次々発表されていく星座を見ながら、自分の星座の番がくるのを待った。
『三位、獅子座、二位、牡牛座、それでは注目の・・・』
「獅子座は三位か。」
自分の星座の順位を見届けるとテレビを消して家を出た。
学校に登校している途中、彰斗と学校のひとつ手前の交差点で会った。彰斗は全力で走っていた。
「おはよう、彰斗。」
「おう。」
下駄箱まで一緒に歩いていくと彰斗は何かを思い出したように僕に告げてきた。
「そういえば今週の日曜、花火大会じゃん。」
「そうだね。でも、急にどうしたの?」
彰斗は少し笑みを浮かべながら話を続けた。
「夏樹と行ってこいよ。」
それを聞いた途端、僕の顔は赤くなった。
「白石さんは、たぶん石川さんと行くと思うから・・・僕は、いいよ。」
彰斗は僕の言葉を聞くなり「はぁ。」とため息をついた。
「お前、成績は悪くないのに頭は固いんだな。」
「どういうこと?」拓磨は首を傾げながら彰斗に聞いた。
「だーかーらー。夏樹に聞いてみないとわからないだろ?」
彰斗は当然だろう?という顔をしながら言った。確かにそうだな、と拓磨は思った。
「もしも、断られたときは?」
彰斗はまたもため息をつきながらしかし、笑顔を浮かべながら言った。「女みたいなこと言ってんじゃねぇよ。そんときは、いつもみたいに俺らふたりで行こう。」
ちょうど教室の前まできたところで彰斗は手を上げた。
「それじゃ、またあとでな。」
「ああ。」それに習って、僕も手を上げて告げた。僕の返事を聞くと彰斗は彼の教室に入っていった。僕は少しだけだが、彼の言葉のおかげで勇気がわいてくるのを感じた。
教室に入ると自然と白石さんのほうに視線がいった。白石さんの席は真ん中の列の二番目にある。僕は鞄を置くと、彼女のところまで歩いて行った。
「おはよう。」
「あ、拓磨。おはよ~。」僕が笑顔で彼女に挨拶をすると彼女も笑顔で返してしてくれた。
「もう少しで花火大会だね。」
「そうだね~。拓磨は彰斗と行くの?」
「今年は違うんだ。」
「そうなんだ、誰と行くの?」
僕は自分の心臓の鼓動が早くなっているのを感じながら、言葉を発した。
「白石さんは誰かと一緒にいくの?」
「私はまだ決まってないな~。」白石さんは困ったような笑顔を浮かべながら言った。
「よければ、一緒に行かない?」僕はなるべく平然とした表情をつくったが、声は少しだけ上ずっていた。白石さんは一瞬きょとーんとした表情をつくり、途端に顔を赤く染めた。そして、俯きながら小さな声で答えてくれた。
「えと・・・私で、よければ・・・」
白石さんからその言葉を聞いた途端、僕の心臓の鼓動は急激に早くなった。そして、満面の笑顔で「ありがとう。」と告げてあまりにも恥ずかしかったため、その場から立ち去った。
□
七月五日。その日、白石夏樹は朝からいいことが数多くあった。その中で最もうれしかったのは拓磨に花火大会に誘われたことだ。誘われたときは何を言われたのか一瞬わからなかったが、次第に言われた意味を理解していくと、心臓の鼓動が早まっていくとともに、顔が熱くなってきてしまったため、俯いてOkを出した。あれから十五分くらい経ち、一限目になっても心臓の鼓動は元に戻らなかった。
(拓磨に・・・拓磨に花火大会に誘われちゃった・・・)
夏樹がうれしそうにしていると右隣に座っている石川遥香が話しかけてきた。
「あれー、何かいいことでもあったのー?」
「うん。」夏樹は満面の笑みを遥香に向けて答えた。すると遥香は眠そうな顔に笑みを浮かべながら、「退屈しのぎに聞かしてよー。」と言った。
「今授業中なんだけどな・・・」夏樹は困ったように言ったが、先生の顔色を伺いながら話し始めた。
「今日の朝ね、拓磨に二日後の花火大会に誘われたんだ~。」
夏樹がそう言うと遥香は驚いたように「おー。」と言った。
「よかったねー。きっと、たっくんも勇気出したと思うよー。せっかくのデートなんだからおしゃれしてったほうがいいよー。」
遥香の口から“デート”というワードを耳にした瞬間、夏樹の顔は再び真っ赤に染まった。
「デート・・・なのかな?」
遥香は当然でしょ、という顔をつくり、「花火大会にナッキーと二人きりで行きたいっていったんでしょー?それはもうデートのお誘いだよー。」と言った。夏樹はそれを聞いた途端、顔を俯けた。
「あれれー、ナッキー。顔が赤くなってるよー。」
「あ、赤くなってないよ。」夏樹が顔を左側にそらした途端、「そこ!うるさいぞ!」と授業担当の先生に怒られてしまった。それからしばらくしても、夏樹の心臓の鼓動と顔の紅潮は治まらなかった。
□
放課後、近藤拓磨は彰斗と一緒に帰るために隣の教室に向かった。しかし、ドアのところで彰斗とばったり会った。
「やあ彰斗。お前からくるの珍しいな。」僕がそう言うと彰斗は心底悪そうな顔をして「悪い。今日は一緒に帰れそうにないんだ。」と僕に告げた。
「そっか。それじゃあ、また明日な。」
「ああ。」彰斗はそう言い残すとさっさとどこかへ行ってしまった。「拓磨。」ふと、後ろから声が聞こえた。振り返ると、白石さんが顔を赤くして立っていた。
「その・・・もし、よければだけど、一緒に帰らない?」
「もちろん。」僕は迷わずに笑顔で答えた。
僕と白石さんは並んで歩いた。校門に着くまでの間、僕たちは会話をなにもしなかった。白石さんはなんだか嬉しそうにしていた。校門を出て少ししたところで白石さんが口を開いた。身長が僕より少し低いため、ちょっと上目遣いになる。
「ねぇ、拓磨。手、繋いでもいいかな?」
僕はそれを聞くと自然と左手を出した。白石さんは僕の手を取ると嬉しそうに微笑んだ。
□
時は少しさかのぼる。彰斗は拓磨に一緒に帰れないと告げ、石川遥香と待ち合わせした購買前に向かった。購買は一階の右奥にある。購買の前には窓が一つあり、そこからはちょうど校門を出て行く生徒たちを見ることができる。
購買前に行くと石川遥香がボーッと窓の外を見ていた。
「おーい。遥香ー。」遥香は彰斗に一言かけられてもボーッとしていた。彰斗はフッと笑い、遥香の隣に立ってもう一度「おーい。」と呼びかけた。すると、遥香はビクッと肩を震わせた。
「わー。アッキーだー。驚かさないでよー。」遥香はさして驚いてなさそうな声でそう言った。
「お前、絶対驚いてないだろ。」
「そんなことないよー。これでもかなり驚いてるんだぞー。」と、また緊張感の無い声で言った。彰斗はまたフッ笑い、「これでいいのか?」と聞いた。
「うんー。あー、ほら見てー。ナッキーとたっくんがきたよー。」
窓の外を見ると拓磨と夏樹が一緒に歩いて校門を出る姿が見られた。どちらも心底幸せそうな顔をして歩いている。そんな親友の姿を見ていると自然と彰斗の表情は緩んでいった。
「お前も考えたな。いつも眠たそうにはしてはいるが、頭の回転は人一倍速いんだな。」
彰斗が皮肉のように遥香に告げると、遥香は口を尖らせて言った。
「あー、馬鹿にしてるなー。昨日ナッキーがたっくんと一緒に帰りたいって思ってたのかなーって考え
たら、自然と思い浮かんだ案なんだぞー。」
「はは。まあでも。あの二人には幸せになってほしいな。」彰斗は遠くを見ているように目を細めなが
ら言った。
「そうだねー。」
二人はお互いの親友の成功を祈った。
□
近藤拓磨は幸せの絶頂にいた。なぜなら彼は今最愛の相手、白石夏樹と手を繋いで歩いているからだ。拓磨は白石さんと過ごしていると、次第に心に溜まっていたあらゆるものが無くなっていくのを感じた。それほどまでに拓磨は白石さんのことを思っているのだ。
二人は歩きながら色々な世間話や噂話をした。歩いている最中も手を離すことは決してしなかった。分かれ道になると二人は名残惜しそうに手を離してお互いの方向に帰っていった。拓磨は家に帰ると自分の部屋のベッドに横になった。そして、いまだ治まらない胸の鼓動を感じていた。
“初めて白石さんと手を繋いだ”
その思考が頭にこびりついて離れない。色々なことを考えていると、拓磨はいつの間にか眠っていた。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。拓磨は二十二時に目を覚ました。
完全に目を覚ましてしまったため、拓磨はベッドに横になって以前のように眠くなるまで物思いにふけた。しかし、思いつくのは白石さんの笑顔ばかり。拓磨は余計眠れないなと思いながら心の底では今すぐにでも白石さんに会いたいと思っていた。
□
翌、七月六日。白石夏樹は学校の休みを利用して近藤拓磨の家にきていた。突然きたものだからインターホンを押して出た拓磨に向かって「遊びにきたよ~。」と言ったときはさすがに拓磨は動揺していたが、快く家に上がらせてもらえた。拓磨の家は男一人暮らしなのにすごく綺麗に片付けられていた。
「部屋がすごく綺麗だね~。」と夏樹は正直に告げた。すると拓磨は照れくさそうに「ありがとう。」と返してくれた。拓磨の部屋に入り、拓磨は勉強机の椅子に座り、夏樹にはベッドに座るよう促した。夏樹がベッドに座ると、拓磨は質問をした。
「今日は突然どうしたの?」
「なんだか拓磨に会いたくなっちゃって。」夏樹は微笑みながら言った。すると拓磨は少し驚いたような顔をつくり、「そうなんだ。」と言った。二人はしばらく無言になり、拓磨が再び口を開いた。
「白石さんは兄弟とかいるの?」
「うん。妹が一人いるよ~。」
「妹がいるんだ。きっと白石さんみたいに綺麗なんだね。」夏樹は拓磨の言葉を聞くと顔が赤くなっていくのに気がついた。きっと拓磨はその言葉を自然と言ってるのかもしれないが、聞いた夏樹は途端に嬉しいという感情がわき上がってきて恥ずかしくなってしまう。
「そ、そんなことないよ。妹は私よりも綺麗だよ。」夏樹は苦し紛れにそう言った。
「そうなんだ。でも、僕にとっては白石さんのほうが綺麗だよ。」
夏樹はさらに顔を赤くさせた。
「ず、ずるいよ・・・もっと好きになっちゃうじゃん・・・」夏樹は拓磨に聞こえないように呟いた。夏樹の独り言が聞こえたのか、拓磨も顔を紅潮させた。
夏樹が拓磨の家を訪ねてきた本当の理由は明日の花火大会が待ち遠しくなったためだ。とてもそんなことは拓磨には言えない。夏樹は場の空気を元に戻そうとして話の話題を変えた。
「拓磨の両親はどんな仕事をしてるの?家にいないみたいだけど。」
拓磨は悲しそうな笑みを浮かべながら話をし始めた。
「僕の両親は国際的な仕事をしていて長期的な休みにならないと家に帰ってこないんだ。父さんの名前は近藤泰昭。母さんは近藤彩香。どこに勤めているかは知らないけど、こんなに家を空けるんだから重要な仕事をしてるんだって思ってる。たまに寂しくなるけどね。」
夏樹は毎日家族と一緒に暮らしているため一人暮らしのつらさはよくわからないが、親と一緒に暮らせないつらさはなんとなく伝わってくる。拓磨は基本的に笑顔でいることが多いが極稀に悲しそうな笑みを浮かべる理由が少しだけわかったような気がした。
その後も夏樹は拓磨の家で外が暗くなるまで色々な話をした。最後に、夏樹は拓磨に一番聞きたかった事を聞いた。
「ねえ拓磨。明日はどこで待ち合わせにする?」
「開始が確か十八時からだったと思うから、学校前に十七時半に集合はどうかな?」
夏樹は拓磨の答えを聞くと笑顔をつくり、「十七時半に学校前だね。遅れたら怒るからね。」と言ってベッドを立った。拓磨は困ったような笑顔をつくりながら椅子から立って夏樹を先導した。夏樹は拓磨のあとに続きながら明日が早く来ないかなと思った。玄関を少し出たところで夏樹は振り返り、「また明日ね。」と笑顔でつげると拓磨も笑顔で、「うん。また明日。」と返した。夏樹は家に向かいながら明日の“デート”を想像した。
□
七月七日、近藤拓磨は朝起きたときから胸が高鳴っているのを感じた。なぜなら、ついに白石さんと一緒に行く花火大会になると同時に、白石さんに告白する日になったからだ。
この日、拓磨は約束の時間になるまで彰斗と出かけていた。
「拓磨、今日はがんばれよ。」彰斗は駅前の喫茶店で真剣な表情をつくり、拓磨に話しかけてきた。
「ああ。」拓磨は短く返した。
「今日の花火大会で夏樹に告白するんだろ?フラれても絶対にめげるなよ。自分を信じればきっとお前の願いは叶うはずだ。」
彰斗は今現在も緊張しているであろう拓磨を鼓舞した。
「彰斗、ありがとう。絶対にOKをもらってくるよ。」彰斗は拓磨の答えを聞くと笑みを浮かべて「その息だ。」と言った。その後、彰斗と拓磨は花火大会開始の二時間前の十六時まで一緒に出かけていた。そして、別れ際に「俺も見に行くから、応援してるぞ。」と言い残し、拓磨に背を向けて歩き出した。
「彰斗、本当にありがとう。君のおかげで勇気が出たよ。」拓磨は親友の背に向かってそっと囁いた。.そして、己の決心を固めるかのようにガッツポーズを沈みかけている夕日に向けた。
拓磨は白石さんとの約束の時間の三十分前、十七時に学校前に着いた。白石さんはまだ来ていないだろうと予測していたため、校門の前で浴衣を着て立っている白石さんを見て驚いた。
「白石さん、こんばんは。」僕が平静を装って挨拶をすると、白石さんは笑顔で、顔を紅潮させながら答えてくれた。
「こんばんは、拓磨。」
「待たせてごめんね。」
「そんなことないよ。私もちょうど今来たところだから。」
花火大会が始まるまで一時間くらいあったため、二人はお祭り一色に染まっている商店街に行った。もちろん、手を繋いで。商店街ではいつものお店とほかに屋台がいくつか出店していた。それらの店を見ながら白石さんと二人で歩いた。
花火大会開始の十分前になると僕ら二人は花火大会会場ではなく、学校の屋上に向かった。学校の屋上ならば人があまり来なくて花火を見やすいのではないかと思ったのだ。拓磨の勘は見事に当たり、屋上に人はいなかった。
十八時、花火大会開幕の赤い花火が空に咲くと次々と休みなしで花火が空に美しい色彩の花を咲かせていった。
拓磨は花火に見入っている白石さんの横顔を伺った。化粧をしているせいかいつもより、白石さんは大人びて見えた。拓磨は美しい花が咲き乱れている空を見上げると深呼吸をして白石さんのほうを向いた。そんな拓磨の行動に気が付いたのか、あるいは拓磨の心情を読んだのか、白石さんは少し緊張した面持ちで拓磨のほうを向いた。
「大事な・・・話があるんだ。」拓磨は切り出した。
「・・・うん。」
「僕は白石さんのことが大好きだ。特にいつも僕に向けてくれる笑顔、それが一番好きだ。だから、僕のそばでずっと笑顔を向けていてくれないか?」拓磨は自分の言語力を最大限に使い、これでフラれても後悔しないと心に決めて告白をした。白石さんはしばらくの間固まったが、すぐに満面の笑みを、拓磨の一番好きな笑顔をつくって答えた。
「私も・・・私も、拓磨ことが・・・好き、大好き。もう好きで好きで頭がどうにかなりそうなの。それなのに、断れるはずないじゃん。」
白石さんはそう言うと両手を拓磨の背中にまわして抱きついた。拓磨も白石さんの背中に手をまわし、力を込めて抱いた。
しばらく抱き合っていると白石さんが拓磨の耳元で囁いた。
「私がずっと笑ってるだけでいいの?笑うなら、一緒に笑っていたいな。」
「そうだね・・・一緒にずっと笑いながら過ごしていこう。」拓磨は白石さんの言葉にうなずき、白石さんは拓磨の答えを聞くとうれしそうな声で「うん。」と言った。
夜空には彼らを祝うかのように一際大きくて綺麗な花を咲かせた。
Fin
こんな初心者が書いた小説を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。ほかの作品も製作中なので、よければほかの作品が出たらそちらのほうも読んでみてください。