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吟遊詩人の流離い歌

青年は笑っていた

作者: 綾織 吟

青年は笑っていた。

ケタケタと笑っていた。

青年の目は濁った水のように淀み、酷く心が傷ついているように見えた。

青年は笑っていた。

心の無い声でケタケタと笑っていた。

返り血に塗れた紅いYシャツが肌にベッタリと張り付き、片手には一振りの包丁が握られていた。

青年は笑っていた。

涙を流しながらケタケタと笑っていた。

体は震え、手は悴み、吐く息は白い。

外灯がぽつぽつとある路地裏で真冬の寒い夜の中、笑っていた。

青年の目の前に倒れているのは唯一の肉親だった。

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