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坂本  作者: 大暮空
1/3

日常

初投稿です。

読んだ感想等をよろしくお願いします。

辛口なものでも受け付ける限りです。


 幾分の星たちが密会するある日の夜。

 俺は彼女に壊され、

 彼女は俺に殺された。






 1・日常変化





 000






 坂本月、つまりは俺の友達以上恋人未満の彼女の物語を欲するような層は、そもそもいないのだと思われるのだが。しかしどうして。いくら需要がないからっと言ってもこの物語の真相を知りたいと言う人間は、そもそも、指の数程度しかいないだろうと言うのにも関わらず、それでいて、その真相を知りたいという願望があるというのもまた事実なわけである。

 俺としては、それはもの凄く迷惑極まりない爆弾テロ並みの悪意を感じるのだけれど、それでもこの事実は既に肯定されてしまっているのだ。

 だからだ。

 だから教えてやってもいい。

 いやいや、教えてやろうじゃないかと俺は思う。それで、気が晴れると言うのなら。

 願望が叶うなら、

 欲を手に入れられるなら、

 そのためにだったら俺はいくらでも力をかそう。

 この手、

 この足、

 この胴体、

 この臓器、

 この命を賭けてでも。

 ――でも。しかしながら、それはあくまでそれだけであって、この話は全くの例外。

 この物語に関しては、俺は断固してそれを拒否するだろう。拒絶するだろう。これは、それほどまでに危険性を帯びているのだ。

これもまた事実。


 ――けれども、

 俺はこの物語を語らなければならない。

 語らなければいけない使命があるのだ。

 いくら俺が、これに対して逃走を試みたところで、まるで、鎖によって体を拘束されたかのように一つの楔によって逃げることなど万に一つないに等しいわけである。


 ――それが、彼女と交わした最後の約束なのだから。





 001





 10月10日――俺は自殺した。

 いや。自殺したのではなく、自殺しようとした、だ。

 自殺未遂、

 自殺に最も近くて、もっとも遠い行為。

 故に、俺は自殺を失敗してしまった。

 学校の屋上から、ただ単純に飛び下りれば済むだけの話だったのだけれど、それでも失敗してしまった。


 俺が通うこの学校、

 県でそれなりの知名度を誇る進学校。私立呈陽学園ていようがくえんの屋上には、俺みたいな自殺志願者防止用のためのフェンスは残念ながら設けられていない。

 今までこの学校で自殺がなかったのがどうにも不思議にしか感じられないのだが。しかし、今までに自殺した生徒は一人も居ないというのが事実。

 一人も、だ。

 なら学校の敷地内では?

 といった疑問も当時は抱いていたのだけれど、結果は変わらず誰も居ない。

 それも校外でもだ。

 ほんと、可笑しな話である。

 ――それなら、

 それなら俺がその最初になってやろう。

 初めての自殺者に俺がなってやろうではないか……とその当時そんな風に考えてしまっていた自分が、今では恥ずかしい限りである。

 自分は人とは違う。

 そう周りに自分という存在の定義を知らしめてやりたかったのだろう。元々はそんな馬鹿げた考えを有している訳ではないのだけれど、ただ、それは唐突にそう思いついてしまっただけであって、浅はかな考えでしかなかったのだ。


 「――しかし」

 俺は、頭から溢れ出ている赤黒い液体を前にして、屋上の堅いパネルに横たわっていた。

 「まさかバナナの皮を踏むなんてな……」

 呆れながら言う。

 しかし、過ぎてしまった事を今さらどうこう言う気にもなれない。


 小嶺史哉。

 バナナによって自殺を阻止される。


 「なんていうか……滑稽だ」

 ほんと、恥ずかしいにも程がある。

 たかがバナナの皮一枚で、ここまで熱く決心したこの俺の熱い決意をこうも容易く邪魔をしてくれるなんて。しかもバナナの皮といったもんだ。これじゃー親にも満足に顔合わせられねーや。

 自然と笑みが零れてしまう。

 顔が血まみれで、決して楽しそうには見えないのだけれど、それでも俺は心底笑ってみせた。

 けれど、それは別に楽しさ余りに零れた笑みではなく、

 嫌味ったらしく、

 失望の意を込めて、

 そして、それらを含めてただ呆れながら――笑っていた。


 なんだ、神様ってのはそんなに俺を死なせたくないのか?

 

 「……けど、まぁ」

 俺は重い上体をゆっくりと起こす。冷たい風が頭に嫌に響く。

 「バナナの皮はねーだろ、普通」

 言うと、何とか立ちあがった俺は血を流し過ぎたせいなのか足もとがふら付く。

 気のせいか?

 なんだか目がかすんで見えるのだが。それに、膝が踊っているようにも感じる。

 「ってあれ、なんか…これ、死亡フラグじゃね……………――――」


 小嶺史哉――再度床に倒れた。

 それは同時に、意識がそこで途絶えた事を意味していた。




        ◇




 『僕には超能力があるんだ』

 これは俺がまだ幼少時代のちょっとした一文である。

 自分作文。

 これは国語の時間に行われた授業の一環の一つなのだが、正直、よくもまぁこんな先生のことをお母さんと言い間違えてしまった時のような恥ずかしい事を平然と言えたものだなと、今では良き思い出、変えられない黑歴史な訳なのだが。しかし、だからと言って後悔していない訳では当然のことながらそれは全く違う。

 もし、未来から来たネコ型ロボットが居たとしたのなら、是非ともタイムマシンを使わせてもらいたい。

 机の引き出しの中に広がる四次元の世界に勢いよく飛び込みたい。

 そんでもって、ついでに頭が良くなる薬を貰いたい。正直なところ、これが本音な訳なのだがあくまでついでだ。そこは黙って目を瞑ってもらいたい。

 未来から来たロボットなのだから、その不思議な不思議なまっ白なポケットの中からそういった道具が出てきても、なんら可笑しくはないだろう。

 まぁ、未来から来たっていう時点で既に可笑しくはあるのだが。それに、もともと俺の部屋には机なんてものは存在しない。

 アニメの見過ぎか?

 いや、日本を代表する子供から大人まで幅広く親しく愛されてきた長編アニメなのだから、この場合俺はまともな思考の持ち主なのだろう。

 アニメ万歳。

 そしてありがとう、ネコ型ロボット。


 ――しかし、まぁ、

 そんな夢のようなことはある訳でもなく、あの当時の俺は本当に自分には人とは違う、人にはない摩訶不思議な力があるのだと現実に信じていた痛い少年だったわけだ。手のひらを中空の翳せば、そこから火の粉が出現するのだと本気で思っていたのだ。

 実際問題。

 もしも、それが本当に起こり得る事だったとしたとしても、現実的に考えてみればそれは社会の注目の的になっていただろう。

 マスコミやパパラッチに追われる毎日。

 悪く言えばそれ事態も情報操作され、俺は何らかの実験対象とされていたのかもしれないと――考えるだけで嫌気がさす。

 これが普通の考えだ。

 素晴らしいぐらいに、な。

 けれど、、俺はそこまで出来た人間ではない。

 出来た――とは変な言い方なのだが、普通と言ったほうがこの場合は適切なのだろう。

 あの当時は、もしも欲にまみれの薄汚い大人たちに捕まって何やら危ない実験にモルモットとして扱われたと仮定しても、その時にはそこに居る研究員全員を殺してでも抜け出してやる――一見、危なっかしいように聞こえてしまうかもしれないが、いや、実際危ないのだけれど、もしもそんな事態に陥ってしまったとしたら、人は普通どういった事を思い浮かべ考えるのだろうか。

 ようはそういう事だ。

 ただ、俺の場合はそうだっただけで。

 個々人の思考なんて、それこそ分からないというものだ。

 だから言わせてもらう。


 「――ここは何所?」



      ……



 俺はベッドに横たわっていた。

白をベースにされた天井、消毒液の匂いが立ちこむ独特な匂い。そして、仕切りによって隔離されたベッド。

 自分からしてここはとても、とは、いささか言い過ぎではあるが、しかし別にそう俺が思ったとしても世の中が一気に一転する訳ではない。当たり前な話だ。

 おかしな話、国々の首相もとい大統領もとい国を統べる人間の一言で世界が変わると言う張る人間と、それに反対の意見を言い張る人間の差というものは、一体どこがどう違うのだろうか。

 正直なところ、それには俺は何も言えない。

 そんなもの、誰にも分からないからだ。

 正義を仮定にして例えるなら。

 己の正義を真っ向から受け止め、信じ、認める為に世界を敵にまわす人間や、正義という言葉を使って人々を惑わす人間や、世界を崇拝して、おのれ自身を犠牲にする人間など、正義という言葉の形は人それぞれ、個々人によって変わっていくもんだと、俺はそう兄から教えてもらった。

 俺も、それには「もっともだ」と頷くだけだったが、それ事態も実際のところは間違いなのかもしれないなんて、今では思っている。

 戦争を起こす。

 そう心に決めたある国の首相も、己が持つ信念、正義に基づいての選択だったのかもしれない。

 そう考えてみると、世の中、かもしれないだらけな世界なのだと錯覚を起こす人間も少なからずは出てくるだろう。

 現に、俺がそうだから……。


 「――ふわふわして気持ちい」

 話がよからぬ方向に百八十度逸れてしまったが、ここでもう百八十度戻すとしよう。

 ふわふわした布団が、思いの外俺の心を集中的に揺すってくるこのベッドは、ここ最近に新しく学校が仕入れたものだ。よって、まだ新品とどうようの匂いが鼻を突く。

 うん、保健室だ。

 どうやら俺は、保健室のベッドに横たわっているらしい。

 どうして俺がこんなところに居るのかは何とも言えないのだが、しかし、さっきから頭がジンジンする。

 つか、痛い!

 割れそうなぐらいに痛い、痛すぎる。

 咄嗟に手を頭にまわす。指先が頭に触れた瞬間、手触りからして包帯だろうか。

 それは俺の頭に何重にも巻かれていた。

 一体誰がしてくれたのかは残念ながらそれは分からない事だが。多分、その心やさしき御人が俺を此処まで運んでくれて、挙句の果てに大急処置までやってくれただけでも嬉しい限りだ。

 救急車を呼んでくれれば一番良かったのだが。

 うん。

 そこは黙って目を瞑るとしよう。


 「――大丈夫?」

 痛みにある程度慣れたと自分に言い聞かせていた俺の耳元でぶっきらぼうに話しかけてくる声が聞こえてきた。

 「……月か」

 濃い赤色をした髪は腰辺りまで綺麗に伸ばされており、右耳にシンプルなシルバーアクセのピアスが顔を覗かしている。

 目まで隠れるまでに伸ばされた前髪の隙間から大きな黒い瞳が窺える。

 俺が所在するクラスの出席番号12番。

 一回も会話と呼べるものを交わした事が無い坂本月の姿かたちがそこにはあった。


 「最初は驚いたわよ。だって、屋上でアナタが倒れているもの」

 後ろ髪を気だるそうにかき上げ、後ろの方でひと束に結ぶ月。

 ピンク色の可愛らしいシュシュだ。

 「あー、……うん。そうあれだ。バナナの皮をついうっかり見事に踏んづけてしまってな。気づいたらここに寝ていたんだ。ここまで運んでくれたのはお前だろ?ありがとう」

 「別に、運んだというか、襟を持って引きずってきたんだけど……、アナタがそう言ってくれるなら、謝らなくても済むわね」

 「いや、謝れよ」

 引きずってきたってどういうことだよ。

 何だ、あれか?

 重いから引きずることしか出来なかったの――とか言うんじゃないだろうな。

 確かに、お前の体格からすれば俺の頭一つ分低いか?

 自分より体積のある人間を運ぶのは難だと思う。

 しかも女なら尚更だ。

 だがな、

 それでも他に方法とかあるだろ。

 だからか?

 両ひじの制服が綺麗に擦り破けているのは。

 血出てるよ。

 ベッドが赤く染まってるよ。

 「いやよ、面倒くさい」

 「さっきの言葉は嘘だったのか!」

 

 ――つきまして、


 俺は自分のベッドに仰向けになっていた。

 あれから、俺と坂本は少しの時間軽い世間話を展開させていた。

 しかし、それでも限りある時間を満たすことが出来ず、そのまま俺たちは学校を後にした。

 駐輪所から自転車を持ってきた俺は「送ってやるよ」とやさしく営業スマイルを月に向けたのだが「大丈夫、私の家はここからそう遠くじゃないから。いいよ別に、その優しさだけでも有り難く貰ってあげるよ」と、全面的に拒否されてしまった。

 俺はしぶしぶ「分かった」とだけ言うと、そのまま月と別れた。

 そして今に至る。

 「……痛い」

 やはりというか、今日そこらじゃ傷の痛みが癒える訳でもなく、今は安静にして寝返りをうつ俺。

 取りあえず今日は何もせず黙って寝よう。

 痛みに夜中何回も起こされそうな不安が脳裏を過ったが、それはしかたがない。

 ここは黙って寝るに限るってもんだ。

 うん、それが得策だ。

 「まぁそういうことだから――っと」

 カチッと、リモコンを使い証明を消した俺は毛布を肩上まではおった。


 「…………………………………………」


 まぁ、そんなに上手く事が進む訳がないのが小嶺クオリティーの真骨頂。

 俺は口だけを動かした。

 「……なんだよ、舞」

 俺が寝ているベッドの反対側にあるこの部屋唯一の出入り口のドアから感じる視線。

 「用が無いんだったらさっさとそこ閉めろ。冷気が俺の体を蝕む」

 「っ、何よ!せっかく心配してやったっていうのに!」

 言うと、俺の妹、小嶺舞が部屋に入ってきた。

 「うるさい、只今ガラスのように繊細でデリケートな俺の頭が危うく砕け散りそうだったぞ」

 綺麗にな。

 「何で私のせいなのよっ、理不尽じゃない!だいたい、もとはお兄ちゃんのまぬけな生活が原因でしょ!」

 「キレるなキレるなマジでキレるな。分かったから、十二分に分かったから怒鳴るのを止めてくれ」

 本当に砕けそうだ。

 「ったく、もう。……それで、大丈夫なの?」

 「あぁ、ざっと一カ月程度で治るってさ」

 「それって地味に大事じゃない?本当は何て言ってたの、病院の先生」

 「一週間と三日だそうだ」

 「ふーん。よかったじゃない、大した知識も詰まってない頭が無事で」

 部屋の照明をつけないまま、廊下の明かりで微かに部屋の中が見える視界の中、舞はガラステーブルの上に腰を下ろした。

 「そのまま植物人間にでもなればよかったのに」

 見ての通りツンツンしている妹だ。

 「悪かったな、お前にこんな元気で不快感が絶好調の俺の姿をさらけ出してしまって」

 「さらけだすぐらいだったら、服でも全部脱げばいいじゃない。ま、脱いだら殴るけど。……モーニングスターで」

 妹よ、そこはせめて知名度のあるもので殴れ。その選択は明らかに失敗だ。それとお前はそんな鈍器持っていないだろーが。

 「モーニングスターとは手厳しいな。……ま、ありがとよ」

 心配してくれて――は、あえて言わないのが、妹に対する俺からの礼儀だ。

 「ちょっ、何よ、いきなり改まって!気持ち悪い!」

 「はいはい、どうせ私は気持ち悪いですよーだ。だから早くお前も寝ろ。明日起きれなくなるぞ、主に俺が」

 「最後のはよけいよ!」と言うと、舞はドアノブに手をかける。

 「………………心配したんだから」

 微かに聞こえた言葉と同時にドアが閉まる。

 最後にデレをみせてくれる良き妹、舞。

 テンプレ過ぎだと思うが、それが我が妹である存在の証しだ。

 「………ツンデレはやっぱりテンプレに限るな」

 しかし、ツンとデレの比率は八対二ぐらいだが、まぁ気にしないでおこう。

 

 「――寝るか」


 俺は再度瞼を閉じた。





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