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長文失礼します
上京してはや3年。忙しい日々に嫌でも慣れた。
2030年、都市直下型地震発生。13:23分緊急地震速報発令。鳴り響くスマホ。二日酔いの頭に普段とは違う甲高い音が鳴り響く。次の瞬間、揺れる。地震なんて人生で何度か経験してきた。しかも今までも何度も予測されてきたじゃないか。近頃、予測の日が近ずいてきてると巷で話題で親が帰ってこいと五月蝿かった。正直起こったとしてもなんとかなるだろう、としか思っていなかったのだ。一時的に揺れが治まる。避難所にいこう。しかし携帯は圏外。仕方なく人の流れに乗って行く。
避難所に着いた。頭が少し冷静さを取り戻してきた。生きている。良かった。やっぱりなんとかなった。が、この先どうしようか。板橋の家賃7万のマンションは形こそ留めていたが中はぐちゃぐちゃだ。ここの騒音もストレスだ。交通インフラの復旧…親は来てくれるか…?いや来てくれることを前提にして考えよう。地元に戻ったらそこから就活だ。そこからは災害の可能性が低い仙台でゆっくり音響活動を続ければいいさ。人脈は惜しいけど、いのちだいじにで行こう。今回の件で身に染みた。wifiは通ってるがかなり重い。ソシャゲなんてやれる余裕もない。さっき送ったLINEも届いているだろうか?幸いにもポッケには頭痛薬があった。今日はこれを飲んで寝よう。夢であれば有難いけど、そうにもいかなそうだな…
知らない声で目が覚めた。折角ノイズキャンセリングイヤホンを使っていたのになんだよ。どうやら俺は独り身だからもっと狭い避難所に送られるらしい。正直他人の家族なんて知ったことかと思ったが俺の善意は想定より強く、避難の時のうのうと詰めた鞄には娯楽も必需品もたっぷり入っている。俺は渋々移動した。10分くらい歩いただろうか。地震があった上に歩かされて…俺なんか悪いことしたか?着いた避難所は聞いてた話よりボロく、小さかった。スペースは寝るのがやっとくらい。今歩いている間に連絡が着いたようだ。親父があのデカいファミリー用乗用車で迎えに来ると。やはりあのN〇SA公務員はこういう時世話を焼いてくれる。そうだ。こんな後ろ盾があったから俺はこんな不安定な道を歩めたんだ。従兄弟がいい大学に入って張り合うように上京して結局このザマだ。最悪ここにいれば命の保証はされるだろう。山形からここまで、どれだけかかるだろうか…現実逃避という名の睡眠を再開した。
揺れで目が覚めた。夢にまで見た幼なじみ美女が起こしに来る神シチュだろうか。否、現実は苦かった。第二波だ。揺れたがそこまで危機感はなかった。津波…は心配ないか。親父は大丈夫だろうか。治まったし、やっぱり寝よう。俺はノイキャンのイヤホンの片耳を外して目を瞑った。
17:00を回った。あんなに寝たから寝れないのも当然だが、あんなに寝れない時にくる睡魔はやはり意地悪であった。親父は今日中には来なかったか。無理もない。ここまで5時間はかかる。地震の発生が1,2時くらいで…交通インフラの復旧にも時間がかかっただろう。そもそも道路は大丈夫だろうか。通信は繋がったがここで無駄な電力の消費は嫌だな。デイリーだけ回して… 少し現実を受け入れ始めた身体は美味いと感じつつも何処か味気ない非常食を口にした。
普段必要以上に人との関わりを持たない俺も今日だけは羽目を外した。1990年代くらいか、何処か感じのいいおっちゃん数人と話していた。ここに集められたということもあって全員独身らしい。若いと言うだけでどことなく優越感があった。音楽の道も褒めたてられ、慰められ、気分がよかった。だが心の底から笑えてはなかった。こんなにつまらない話をしてるのに酒が入ってないんだ。つまらない傷の舐め合い。でもそれが今の俺には心地よかった。明日は少しでも歩いて首都圏を目指そう。できる限り親父が見つけやすいところにいよう。一通り話したというのに全く時間は過ぎてない。消灯になったらまた独りの時間が来る。だが今は独りにして欲しいけど寂しい。そんな心の中で硬いダンボールの上に身を預けた。
…やはり寝れない。こういう時は性処理をして無理やりリラックスするけど、そうもいかない。時計の音だけが鳴り響く。いや、おじさんの鼾もあるな。21:02。いつもならライブを見て…いつもなら、いつもなら、いつもなら、いつもなら。今日何回いつもならと思っただろうか。こんな時間にも親父は車を飛ばして…否、交通インフラは回復してるのか?スマホ付けたら周りにも迷惑がかかるし…幸いみんな若い俺を気遣ってコンセントを積極的に譲ってくれた。無駄に使う訳にはいかない。共用のテレビもつけられない。寝るしかないけど寝れないこの時間に無駄な悩みをして、悩むだけ悩んで解決はしなくて。早く寝たいと目を瞑る。いつも思わなかった早く明日が来ればいいのにと言う言葉が頭を過ぎる。
外の明るさで起きた。ふとスマホを見れば5時前だった。何人か昨日話したおっちゃんも起きてる。俺はボディシートを片手にトイレに向かった。早く風呂に入りたい。至急されたどこか物足りない歯ブラシで歯を磨く。久しぶりの朝の空気。一徹した翌朝とは違ってなんだか清々しい朝だ。こんなに美味しい空気はいつぶりだろうか。テレビが付けられる時間まで暇を潰そう。崩れた電柱をみて、現実感のなさを楽しんだ。中学2年生を過ぎても治らない俺の厨二病はこんな非日常にもどこかわくわくしてるらしい。情報を得て、おっさん達にお礼を言ったら下北沢を目指そう。俺のめいれいはいつのまにか「いのちだいじに」から「おれにまかせろ」に変わっていた。
こんなことをしても意味が無い。歩きながら思った。今はただ自分を落ち着かせる為に歩いてる。向かえるはずだった職場に向かってる。そうそこは職場であり、俺の第2の故郷だった。故郷に還りたいと思うのは自然だ。親父とも下北には1回か遊びにいったことがある。心配のメールに全部返信した後、親父に下北で待ってる。とメールを残して俺は位置情報ゲーを開いた。
片耳にイヤホンを着けた。音楽を流す。崩壊した町を、歩きながら眺める。倒れた看板。 ひび割れた道路。いつもなら人で溢れていたはずの通り。それでも、 曲はいつも通り流れている。どことなく自分が主人公になった気がして楽しい。
サビ前、曲が途切れる。スマホを入れてたポケットが振動する。一瞬で直感する。親父だ。渋谷の近くまで来たけど交通規制がある、と。いつもなら2分足らずで着くはずの長い旅路が追加された。あ、またいつもならって思っちゃった。非日常の下北沢の写真を撮ってまた歩き出した。いつもは使わない「コンパス」のアプリが久々に火を噴く。疲れたな。でも親父は寝ずにきてる。もっと疲れてる。それに歩くのも楽しいじゃないか。スマホの充電は71%(低電力モード)渋谷までなら歩きでも持つし親父の車に着けば充電も出来る。渋谷からも車まで少し歩くだろうけど、十分だろう。渋谷も言わずと知れた音楽の街。見覚えのある見覚えの無い道。またすこしづつ再起に向かって歩み始める。
人混みの中に見覚えのある顔があった。泣きそうになったけど、こころがぐちゃぐちゃで泣けなかった。無口な父親は相変わらず無口だった。反対を押し切って上京した親父は相変わらず説教か慰めか分からない言葉を吐き続けた。家まであっという間だった。忙しくて家に帰れなかった俺には積もる話がいくつもあった。4つ離れた弟ももう高3だという。思いのほか整理整頓されてた俺の部屋は昨日ぐちゃぐちゃになったけど。休暇だと思ってゆっくりしよう。連絡がつけば先輩ともちゃんと話そう。俺にはもうあっちにも戻る場所がある。
3年ぶりに家に帰ってきた。弟の邪魔は出来ないが、その分両親も祖父母も可愛がってくれた。俺は自ら先輩に連絡をとろうとした。もしかしたら死んでるかもしれない。東京の復旧には随分時間がかかるだろう。その間音楽とか娯楽の復旧なんて後回しだろうな。帰る場所を得た俺は変な形で帰る場所を失った。でも本当に無くなったわけじゃなくて、あくまでも物理的に。専門学校を卒業して、舞台機構調整技能士3級と3年分の経験を積んだ俺は若くて求められる人材だ。毎日就活すればすぐ就職ぐらいできるさ。住まいも探した。東京の家賃でいい所に住める。地方都市はこんなに温いのか。また1から俺の音響活動は始まった。いや、1からなんかじゃない。関係を再確認できた。経験も積んだ。俺はもう1じゃない。
この物語を手に取ってくださってありがとうございます!一年後に上京する高3です!ただの妄想を文字起こししてたら楽しくなって投稿してしまいました!初投稿です!




