16グランピングでお泊まり(10)
「ん……」
鳥の鳴き声に目が覚めてまぶたを上げる。
カーテンが遮光ではないようで、朝の光がぼんやりと部屋の中を明るくしていた。
温かな肌にくるまれていることに気づき、カナコは凪沙の胸に頬を寄せた。
(……幸せ。凪沙の匂い、大好き)
体をくっつけていると、昨夜のことが次々に思い出され、顔が熱くなっていく。
(凪沙ってば体力ありすぎ……。立て続けに三回も、って……あ~~……急に恥ずかしくなってきた……!)
長時間に渡って抱かれ続けたせいか、体のあちこちが痛い。運動不足を悔やみつつ、凪沙の顔を見上げる。
(さすがに疲れたのね。ぐっすり眠って全然動かない。そういえば、今何時だろう?)
時間を確かめたくて、枕元に置いていたスマホに手を伸ばした。画面を見ると、メッセージが入っている。
「え」
送信者の名前を見たカナコは、いっぺんで目が覚めた。
(な、なんで日吉から!? ……あ、同期のグループチャット、この前の同期会から日吉も加わったんだっけ……でも、なんで私に)
日吉が地方へ行ったあとにそのグループチャットができたので、彼は今まで参加していなかったのだが……。
――朝早くにごめん。この前の件で直接話がしたいんだけど、今日時間ある?
「はぁ?」
思わず声に出してしまうと、隣にいる凪沙の体が動いた。
(いけない、凪沙が起きちゃう)
「……」
すぐにまた寝息を立て始める彼にホッとしつつ、カナコは既読をつけずにスマホの通知を切った。そして枕元に伏せておく。
(凪沙の顔見て安心しよ……。凪沙の寝顔、かわいい。好き……)
目の前の長いまつ毛に触れたくなるが、起こしたらかわいそうなので我慢する。
「……カナコ……? 起きてる?」
眉を歪めた凪沙が、ゆっくりまぶたを上げた。
「あ、うん。ごめんね、起こしちゃった?」
「いや……、うん……、さいこう~……!」
「あっ」
凪沙の腕の中にすっぽり包まれたと同時に、ぎゅぎゅーっと抱きしめられた。
「カナコが腕の中にいる……。幸せだ~……!」
「な、凪沙、苦しいってば~」
「あっ、ごめん。でもカナコが逃げないように、ずーっと抱きしめてたい」
手の力を緩めてはくれたが、離そうとはしない。カナコはホッと息を吐いてから、彼の耳元でささやいた。
「じゃあ私も」
彼の首に手を回して、ぎゅーっとしがみつく。
じゃれあって笑い合っているうちに、いつの間にかまた、お互いの体を求めてつながっていた――。
裸のまままどろんでいると、夕食の時と同じように、タブレットが鳴る。朝食のお知らせだ。
「やばっ、寝そうになった……!」
「私も、何も支度してないっ!」
ガバッと起きて、お互い昨夜着ていた服をかき集める。カナコが服を着ている間に、凪沙がフロントに応答してくれた。
情けない格好のまま顔を見合わせ、同時に笑ってしまった。
(こういうのいいな。凪沙とは気取らないでいられる。本当の自分を出しても大丈夫って、安心感があるから)
クスクス笑いながらも急いで支度をして、外に出た。
ツンと肌を刺す冷たい空気と、山間からのぞく朝日に、カナコはとっさに目をつぶる。
「カナコ、寒くない?」
凪沙に手を握られて、まぶたを上げた。眼前には日の光に輝く草木の美しい景色が広がっている。スタッフはまだ来ていない。
「うん、大丈夫。空気が澄んでいて気持ちいいね」
「ああ。天気もいいし、遠くまでよく見える」
目を細めて山を見つめる凪沙の腕に、カナコは心のままにしがみついた。
「どうしたの? やっぱり寒い?」
「ううん。……好きだなぁって」
一瞬、驚いた顔をした凪沙は、照れくさそうに笑ってカナコに応える。
「俺も、好き」
そしてカナコをぎゅっと抱きしめ、持ち上げた。視界が一気に上がって、思わず声が出る。
「きゃっ」
「好きだよ、カナコ」
笑った凪沙はカナコを抱き上げたまま、その場でくるっと回った。
「私も好き」
凪沙の耳元でささやくと、頬にチュッとキスをされる。カナコもお返しして、ぎゅっと抱きしめ合った。
甘々な世界に浸って、幸せなひとときを味わう。
(……幸せすぎて怖いくらい。こんな時間が永遠に続いて欲しい)
凪沙がカナコをそっと地面に降ろしたところで、グランピングサイトの入口にスタッフとシェフが到着した。
「おはようございま~す!」
「おはようございます!」
スタッフと挨拶を交わして、今日の天気や気温の下がり方などを教えてもらう。一日晴れの予報通りだが冷え込んでいるので、すぐにストーブを用意をしてくれる。
真っ白いクロスがかけられたテーブルに、温かいお茶が用意される。湯気がもわもわと出ていて、美味しそうだ。
ひとくち飲んで、体が温まっていくのを感じている間に、パンやサラダが入ったカゴと、具だくさんのポトフが運ばれた。丸ごとの玉ねぎに、大きくカットされたニンジンや、地元で作られたという大きなソーセージが煮込まれている。
電気コンロの上にポトフの鍋が乗っており、いつでも温かいお代わりができるようになっていた。
ホットミルクやぶどうジュースなどの飲み物を選び、いただきますをする。
「美味しそう~! 朝から贅沢……!」
熱々のポトフは野菜がとろけるくらいに柔らかく、ソーセージもジューシーだ。温められたクロワッサンやハーフサイズの食パンも、地野菜のサラダも温かいドレッシングも、昨夜のようにすべて美味しく素晴らしい。
「ああ……、この新鮮な野菜を育てている大地そのものが愛おしい……。手を尽くされたソーセージの美味しさも、最後まで味わい尽くします……。私は……」
と言いかけて、凪沙の視線に気づく。




