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16グランピングでお泊まり(5)

 土曜日の朝八時。


 いよいよ今日は、待ちに待った凪沙とのデート日。とてもよく晴れ、風は涼やかで、絶好のお出かけ日和となった。


 前回、彼と車中泊の時に使った車に乗り、出発した。向かうのは北軽井沢。あちらはもうだいぶ気温が下がっているらしい。


 昨夜は楽しみすぎて目が冴えてしまい、少々寝不足のカナコだった。


「朝晩は急に冷え込んできたね。上着、持ってきた?」


「うん。凪沙が教えてくれたから、準備してきたよ」


「車に余分なの積んでるから、足りなかったら言って」


「ありがとう……」


 しかし、楽しみなのは自分だけだったのかと思うほど、駐車場で待ち合わせた時から、凪沙の様子はそっけなかった。


(私、何かした……? それとも会えない間に、私に対する気持ちが冷めたとか……?)


 運転する彼の横顔をそっと見つめてみるが、硬い表情は変わらない。


「ねえ、凪沙」


「ん?」


「なんか、機嫌悪い?」


「えっ」


 カナコの質問に、ようやく凪沙の表情が動いた。運転しているので前を向いたままだが、明らかに動揺している。


「あんまり目も合わせてくれないし、テンション低いなって」


「いや……、うん、そうだよな、そう見えるよね」


 赤信号で車が停車する。

 首都高に乗る手前の街路樹は、まだ葉が青く、秋の様相は見せていなかった。


「ごめん。恥ずかしいな、俺。実は……」


 うつむいた凪沙が言い淀んだ。よっぽど言いにくいことなのだろう。カナコの胸に不安が広がる。


「はっきり言って大丈夫だから、遠慮しないで」


 カナコの言葉に、凪沙はうつむいたまま、ぼそりと言った。


「き」


「き?」


「き、緊張しすぎて……、カナコの顔がまともに見れないんだよ」


 頭を上げた凪沙の顔が、赤くなっていることに気づく。


「俺、昨夜もあんまり眠れなくて。いや、寝たよ? でもさ、ってほんと恥ずかしいんだけど、楽しみで……」


「私もだよ……! 楽しみすぎて、遠足の前の小学生みたいだったもん。私も恥ずかしいんだけど、凪沙とゆっくり会えるのが久しぶりだったから、嬉しくて……」


「カナコもそうなんだ?」


「うん」


「良かった。俺だけじゃなかったのか、ははっ」


「ふっ、あはは……!」


 お互い同じだったことがわかって、顔を見合わせて笑ってしまった。


 青信号になり、凪沙は前を向いて車を発進させる。


(誤解で良かった。凪沙って本当に可愛いというか、素直なのよね。彼といると、私も素直になれる。そんな自分を好きでいられるのって、素敵なことだよね)


 これこそ理想的な関係なのではないかと、カナコはしみじみ思った。



 お互いの気持ちがわかると緊張がほぐれたのか、凪沙はいつも通りの受け答えに戻っていた。


「チェックインする前に、いろいろ寄りたいところがあるんだ」


「今日のプランを考えてくれたのよね。ありがとう」


「うん、楽しみにしてて」


 笑顔になった凪沙の横顔を見つめ、愛しさがあふれてくるカナコだった。


 関越自動車道に乗り、いくつかサービスエリアに寄る。土曜日ということもあり、渋滞に遭う箇所もあったが、お昼前には軽井沢に到着した。


「グランピングは北軽井沢なんだけど、せっかくだから軽井沢に寄っていこうと思って」


「私、軽井沢は初めてなの。どういうところかはなんとなく知ってるけど、敢えて何も調べないで来ちゃった」


「俺もキャンプする時にチラッと寄ったことがあるくらいだから、今回いろいろ調べたんだ。だから一緒に楽しもう」


「うん!」


 駐車場に車を停めて降りたとたん、気温が低く爽やかな空気に包まれる。ひんやりしているので、早速上着を羽織った。

 東京からだいぶ離れた自然豊かな場所だが、都会的な雰囲気が漂っており、観光客も多い。


「カナコ、自転車乗れる?」


 駐車場を離れたところで凪沙が尋ねてくる。


「もうだいぶ乗ってないけど、乗れるよ。もしかしてサイクリング?」


「正解。このあたりは緩やかな坂が多いから、電動自転車を借りるつもりなんだ。それならカナコもラクに走れると思うよ」


「そうなのね。どこに行くんだろう、楽しみ」


 凪沙を見上げて笑いかけると、彼も笑いながらカナコの肩を優しく抱いた。その瞬間、カナコの胸がキュンと甘酸っぱくなる。


 駐車場近くのレンタルサイクルで電動自転車を借りた。軽井沢は自転車で回る人も多く、あちこちにレンタルサイクルがあるらしい。外国人観光客にも人気だ。


「早速だけど、昼飯食べに行こうか。激混みになる可能性大だから、早めに行こう」


 凪沙が自転車にまたがり、スマホを確認する。足が長いので、サドルを目一杯上げても足りなさそうに見えた。


「ゆっくり行くから、気を付けてついてきて」


「わかった」


 自転車をこぎ出した凪沙に続いて、カナコもペダルを踏む。

 電動自転車は走り出しに勢いがつくので気を付けなければならないが、慣れてしまえばとてもラクだった。


 観光客たちが集まる通りから一歩入り、駐輪場に自転車を停める。そこから歩いてすぐの場所にレストランはあった。


 ガラス張りの外観が特徴的な美しいレストランは、中に入るとパンの香りで充満していた。それもそのはず、店内ではパンを販売しており、レストランはその奥にあるのだ。


 すでに並んでいた人たちの後ろについたが、間もなくテラス席に案内された。


「素敵ね……!」


「ああ。今日みたいな日は最高だね」


 席に着き、あたりを見回す。

 目の前は道になっているので人通りはあるが、店の敷地に植えられた大きな木々がほどよい目隠しになっている。さわさわと風に揺れる葉を見ていると、つい深呼吸してしまうほど気持ちがいい場所だった。


「このレストランに入れなかった時のために、候補を十個くらい集めておいたんだけど、良かったよ」


「そうだったの? いろいろありがとう」


 お礼を言うカナコに、凪沙は嬉しそうにうなずきながらメニューを広げた。


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